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ひきこもり12

今日は、ノアがやって来る日だ。


私はいつもの場所にちゃぶ台を用意してもらい、その上で「お店屋さんごっこ」の準備を進めていた。


みんなが一目で値段を分かるように、商品ごとに値札を作っていく。

人形やおもちゃといった嗜好品を多めに揃え、お菓子もいくつか見繕った。


驚くべきことに、エナガ族のみんなは雑食だ。

食べられるものは人間とほとんど変わらない。


しかし、ジュウエン達はもともと王都にいた普通の小鳥だ(なぜか巨大化して迫力が増しているが………)


鳥の生態について本で調べてみると、プリンなどの乳製品は消化不良を起こすため、食べさせてはいけないといった注意事項が記されていた。

他にも、鳥が食べてはいけないものは多く、中には少量でも命に関わるものがあるらしい。


そのため、小鳥たちのお買い物用には、ペットショップに並んでいた、鳥用の餌を種類豊富に用意することにした。


鳥小屋や鳥用のブランコなども可愛らしいものがたくさんあったのだが、残念ながら大きさの問題でどう考えても無理だった。


せっかくのお店屋さんごっこなのだから、みんなには自分の好みに合わせて、好きなものを選んでもらいたい。


ご機嫌で準備に熱中していると、不意に声をかけられた。


「リリ…」

「ノアさん、いらっしゃいませ!」


ノアは、ちゃぶ台の上に広がるアクリルカードスタンドやマジックペンを不思議そうに眺めていたが、特に触れることはなく、私の前のいつもの場所に腰を下ろした。


「リリ………いや、アマリリス・ガーランド嬢」


その瞬間、周囲の空気がピリッと張り詰めた気がした。


「………私のことを、調べたんですか?」

「リリのことを調べたというより、ハルマニア王国の大聖女について調査していたら、リリの情報が出てきたんだ」


「………そうですか。それで、それを知ってどうするんですか?婚約者にも専属侍女にも、家族にさえ見捨てられた、みっともない女だと笑いますか?」

「そんなわけあるか!」


ノアは、思わずといった様子で声を荒げた。


「ただ…知ってしまった以上、黙っているのは悪いと思ったんだ。だから、きちんと伝えておこうと思ってな」


……なんだ。

それだけか。


なんだか、拍子抜けしてしまった。

「そうですか………。それは邪推してしまい、失礼いたしました」


「いや…俺も急に悪かった」

そう言うと、ノアさんも居住まいを正した。


「リリのことばかり一方的に知っているのも、公平ではないからな。俺の本名も聞いてくれ。俺の名は、ノアイライト・オーガスタス・アーカインという」


………え?

待て待て待て待て。

めっちゃ聞き覚えがあるぞ。


私は、行儀悪くも、震える指でノアを指差した。

「こっ、皇帝陛下ですか………?」


ノアは困ったような表情を浮かべた。

「職業的にはそうだが………リリには、これまでどおりノアと呼んでほしい」


………皇帝陛下って、職業名だったんだ~。

私は遠い目になった。


しかし、いつまでも現実逃避をしているわけにもいかない。

「あ、あの………これまでの数々の不敬、どうかお許しください………」


恐る恐る謝罪すると、ノアは真面目な顔で答えた。

「不敬なんてなかった」


いや、色々ありましたよね?

ーー皇帝陛下の鼻に頭突きをかまして、鼻血を出させたことについては忘れよう。

うん。忘れるんだ。

あれは不敬どころの話ではない。


これまでの数々の不敬な場面が、次々と脳裏をよぎる。

けれど私は、それらを必死に頭の中から追い払った。


私たちのいつもとは違う雰囲気を感じ取ったのだろう。

センエンが「ピィ?」と不思議そうに声をかけてきた。


「だ、大丈夫よ」

私は冷や汗を流しながら、どうにか笑顔で答えた。


「リリ、気にせず、今までどおりに接して欲しい」

「いやいや、そんなわけにはいきませんよ………」


そう答えながらノアを見ると、とても悲しそうな表情を浮かべていた。


………うっ。


そんな顔をされると、こちらが悪いことをしているような気分になるではないか。


「………まあ、不敬に問われないのであれば…」

「ああ!もちろんだ!」


途端に、ノアの表情がぱぁっと明るくなった。

なるほど。

花が咲くような笑顔とは、こういうものを言うのか。


「それで、どうして大聖女について調べていたんですか?教会が大々的に発表したのではないのですか?私があの国を出てから、もう一年近くは経ちますし」

「いや、発表はされていない。王太子の新しい婚約者…カルラとか言ったか?……は、聖魔法のスキルを保有していなかった」


???


「えっ………?」

思いもよらない答えに、私はポカンと口を開けた。

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