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アーカイン帝国6

「………婚約者、だと?」

ノアイライトの顔が、みるみるうちに憤怒に染まっていく。


「っいえ!アマリリス様はすでに離籍の手続きを済ませておられますので、それに伴い、婚約も自動的に解消されております!」

シエルは慌てて説明を付け加えた。


「ああ………そうだったな。離籍の手続きをしたと聞いていたな………。すまない、少し苛立ってしまった。………しかし、十五歳だと?どう見ても、大人には見えぬが」


ノアイライトは絵姿に目を落とした後、不可侵の森で過ごすリリの姿を思い浮かべるように、ゆっくりと視線を上へ向けた。


ハシバミが静かに答える。

「はい。それも、調査が難航した理由の一つでございます。こちらの絵姿を入手した当初は、幼少期に描かれたものだろうと考え、現在のお姿を探しておりました。しかし、調査を進めたところ、その絵姿は昨年描かれたものと判明いたしました」


ハシバミは一度言葉を切り、淡々と続けた。

「そして、アマリリス様は八歳頃から身体的な成長がほとんど見られず、現在も絵姿と変わらぬお姿でいらっしゃるとのことです」


「………あの国は、人間至上主義を掲げていたはずだが、リリにはエルフやドワーフなど、亜人の血が流れているということか?」


「いえ。調査した限りでは、そのような事実は確認できませんでした。ですので、アマリリス様の成長が人より遅いのか、あるいはすでに止まってしまっているのか、現時点では判断がつきかねます………。そして、大変申し上げにくいのですが………供託金を用立てた人物や、アマリリス様がどのようにして行方をくらませたのかといった情報については、まったく得られませんでした。お役に立てず、誠に申し訳ございません」


「そうか………。なぜ、リリが貴族籍を抜けたのかは、分かったか?」

「断定はできませんが……。婚約者であった王太子からは、あまり良い扱いを受けていなかったようです。さらに、大聖女と目されていた次の婚約者も、以前から王太子と不貞関係にあったとのこと。しかも、その女は、もともとアマリリス様の専属侍女だったそうです」


ハシバミは一度言葉を切り、静かに続けた。


「つまり、アマリリス様は婚約者と専属侍女の双方に同時に裏切られていたということになります。その上、ガーランド公爵家は、その女を養女に迎えたとのこと。………そうした仕打ちを受けたのであれば、何もかも嫌になり、貴族籍を抜けて行方をくらませたとしても、無理からぬことかと存じます」


「…そうか。他国での長きにわたる任務、ご苦労だったな。しばらくはゆっくりと休んでくれ」

「ありがとうございます」

ハシバミは一礼すると、静かに部屋を後にした。


部屋に残ったのはノアイライトとシエルの二人だけだ。

「あの国の不誠実な人間の多さには、吐き気を覚えますね。リリ様には申し訳ないですが、そのような環境から抜け出せたことは、ある意味では幸運だったのかもしれませんね………」


「ああ」


「リリ様には、ご自身の素性を知ってしまったことをお話になりますか?」


「………そうだな。俺だけが一方的に知ってしまったのでは、フェアではないだろう。俺の素性も含めて、きちんと伝えることにする」


「かしこまりました。お二人がより良い関係を築いていかれることをお祈りしております」

「ああ………ありがとう」


シエルは一礼した後、ふと思い出したように口を開いた。


「それと、以前お借りした紙についてですが、調査したものの、残念ながら材料や製法については一切分かりませんでした。価格を算定するにも、いささか、情報が不足しておりますが………」


そこで、一度言葉を切り、報告を続けた。

「従来の羊皮紙は銀貨三枚から四枚ほど。それに比べれば、あの紙は見た目も美しく、扱いやすいという利点がございます。ただし、耐久性については、羊皮紙に大きく劣ります。そうした点を踏まえますと、陛下がご購入された際の一枚につき銀貨一枚という価格が、妥当なところかと存じます」


「分かった。そのようにリリには伝えておこう。その上で、価格については改めて話し合ってみる」

「よろしくお願いいたします。それでは、私も失礼いたします」


「ああ、ご苦労だった」


シエルが退室すると、ノアイライトは手元の絵姿へと目を落とした。

「………アマリリス、というのか」


ぽつりと名前をつぶやくと、どこか嬉しそうに目を細め、姿絵をどこに飾ろうかと思案しながら、部屋の中を徘徊し始めた。



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