ひきこもり11
本日、ノアは本当に金貨九十枚を用意してきてくれた。
しかも、使いやすいようにと、八十枚は金貨のまま、残りの十枚は小銅貨や銅貨、銀貨に細かく崩して持ってきてくれたのだ。
その細やかな気遣いが、なんだかとても嬉しい。
「ありがとうございます!助かります!」
私は満面の笑みでお礼を言った。
うっふっふ~。
そのうち、この帝国の街まで買い物に出かけてみようかしら。
私のような小娘が相手なら、レシピだけを取り上げることだって容易い……そう考えても不思議ではない。
それなのに、ノアはそんな素振りを微塵も見せず、きちんと相応の大金で買い取ってくれた。
思い返せば、ノアはこれまでずっと誠実に私に向き合ってくれている。
私が子供だからと侮る様子もない。(実際には、子供と呼ばれるような年齢ではないのだけれど)
ああ、この世界にも、こんなに素敵な人がちゃんといるんだな………。
そう思いながら、日本から持ってきた便箋にレシピを書き記し、封筒に入れた物をノアへと差し出した。
差し出したものを受け取ったノアは、見慣れない包みを不思議そうに眺める。
「これは?」
「レシピです。中に入っていますので、開けて見てください」
私に促され、ノアは封筒から中身を取り出した。
途端に、その目が驚きに見開かれた。
「………これは、紙か?ということは、この入れ物も………。羊皮紙ではないな。こんなものは見たことがない」
「はい」
私は小さく頷いた。
ノアは紙の手触りを確かめるように、指先でそっと撫でた。
「………これはすごいな。………これをどこで?」
「入手経路は秘密です」
「………」
ノアは入手経路が気になって仕方ないはずなのに、それでも無理に問いただすことなく、口をつぐんでくれた。
ーーやっぱり、いい人だ。
「……では、この紙の材料や作り方を知っているなら、教えてもらえるだろうか?」
うーーん。
図書館も複製してきているから、探せば分かるかもしれないけど………。
探すの、面倒すぎるなぁ。
インターネットでポチポチするだけで検索できていたのって、便利だったな…。
それに作り方が分かったとしても、こちらの技術で再現できるのかな?
「分かる……かもしれませんし、分からないかもしれません………」
そんな曖昧で要領を得ない返答にも、ノアは、
「…そうか」
とだけ答え、それ以上は追及しなかった。
「………ただ、現物だけなら大量にあります。買い取りますか?」
「っ、ああ!買えるだけ買おう」
「ちょっと、待っててくださいね」
私は一度部屋に戻ると、A4サイズのコピー用紙が五百枚入った束と、一枚のコピー用紙を持ってきた。
「この中に、これと同じ紙が五百枚入っています」
ホームセンターでは一束五百円程度で売られていたから………。
キリよく、
「一束、銀貨一枚でどうですか?」
「!? 安すぎないか!?一枚ではなく、この一束でか!?」
銀貨一枚で約千円だから、実際には倍の値段でぼったくってるのだけど……。
でも、私だって、これ以上この人に不誠実なことはしたくないのよね。
「はい。私には適正価格がよく分かりませんので、私からの提示はその金額ということで。あとはノアさんの良いように決めてください」
「………」
「分かった。シエルと相談してくる。一枚で銀貨一枚、それでも破格に安いのだが………。とりあえず今回は、その一枚を見本として銀貨一枚で買い取らせてくれ。…リリは、この紙をどれくらい用意できる?」
「まぁ…いくらでも?」
「!?……そうか」
ノアは七日後に再び訪れると約束し、森を後にした。
※※※
ノアから受け取ったお金を眺めていたとき、ふと閃いた。
そうだ!みんなにお給料を渡そう!
衣食住は、私が(ほとんど複製本のスキルで)まかなっているとはいえ、お給料をもらえたら嬉しいはずよね。
みんなに、お買い物をする楽しさを知ってもらいましょう。
さすがに、この子たちが街で買い物に行けるとは思えないから、「お店屋さんごっこ」のような形になるかもしれないけれど………。
それでも、きっと楽しいはずだわ!
そうよね………。仕事には、福利厚生も大切だわ!
アマリリスはルンルン気分で自室に戻ると、お店を作るために必要なあれこれを考え始めた。
……お客さんは、エナガ族の四匹と、小鳥たち五羽だけだから、そんなに大きなお店でなくてもいいわね。
街のケーキ屋さんくらいの規模でちょうどいいかしら…。
そこに、みんなが興味を持ちそうなものを、あれこれ置いてみましょう!
翌日から、普段はすこぶる怠惰なアマリリスにしては珍しく、精力的に動き始めた。
まずは、家の斜め前、小川のそばに、日本で複製してきたケーキ屋を解放し、設置した。
店内に陳列されていたお菓子は、ひとまず空間収納のスキルにしまっておく。
「わぁ!いきなり出てきまちた!しゅごいでちゅね~!これ、なんでちゅか?」
むぅは目を輝かせ、興味津々といった様子で尋ねてきた。
「まだ秘密よ。今度、教えてあげるわ」




