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アーカイン帝国4

ある日、シエルが皇帝陛下の執務室を訪れると、宰相府三席であり、シエルの直属の部下でもあるルバーンがそこにいた。


「おや、どうかしましたか?」

シエルが不思議そうに尋ねると、ノアイライトは何でもないことのように答えた。


「ああ。今度、不可侵の森へ行く際に同行してもらおうと思ってな」

「は!?お待ちください!なぜルバーンなのです!私が行きます!」

シエルが思わず声を上げた。


「菓子のレシピの買い取りについて、リリが相談したいことがあるそうなんだ」

「私にもその相談はできます!と言いますか、ルバーンより私の方が詳しいです!」


皇帝はわずかに顔をしかめた。

「レシピについては分かるかもしれんが………。だが、お前は恋愛事に関してはあまり役にたたないではないか」


「な、なんてことをおっしゃるのですか!私はあれから恋愛の指南書をたっぷり読み込んで勉強したのです。今度こそ、きっとお役に立てるはずです!」


ルバーンは今日も生暖かい目で二人を見つめる。

(……そういうとこですよ、宰相閣下。残念ながら、陛下はまだ配偶者のいないあなたをリリ様に近づけたくないだけなのですよ。まだまだ、お勉強が足りないようですね)


そうしてシエルは、なんだかんだと言い募った末、ノアイライトとともに不可侵の森へ行く許可をもぎ取ったのだった。



※※※



二人が帰城すると、ブレンダンが仁王立ちで待ち構えていた。


「なんで俺も連れていってくれなかったんですか!俺だって甘味が好きなんですよ!」

「違いますよ。今回は、お菓子のレシピについて相談を受けに行ったのです」


「………うまかったか?」

「もちろんです!あれは、まさに天上の甘味たちでした!」

「ずるいじゃないか!」


ブレンダンは悔しそうに声を上げた。


「はぁ………俺は執務に戻る」

ノアイライトは深々とため息をつくと、騒ぎ続ける二人を残し、さっさと部屋へ戻ってしまった。


残されたシエルとブレンダンはひとしきり騒いだあと、宰相府にあるシエルの執務室へと向かった。

腰を落ち着けるなり、ブレンダンが待ちきれないとばかりにシエルへ詰め寄る。


「で………どうだった?」

「…何がです?」

「つがい様に決まっているだろう!」


ブレンダンがじれったそうに声を張り上げる。

シエルは先ほどまでのことを思い返すように口を開いた。


「かの方は、とてもお美しく、愛らしい方でしたね。将来が実に楽しみです。お人柄も温厚そうですし、聡明でいらっしゃる。何より、あの方がお作りになったお菓子が素晴らしかったのです。あのようなもの、私はこれまで一度も口にしたことがありません」


シエルは、リリのことを思い浮かべているのか、どこか嬉しそうに答えた。


「へえ。しっかし、不可侵の森に住んでる子供なんて聞いたときは、お前のことだから、もっと警戒するかと思ったが………。ずいぶんと気に入ったようだな」

ブレンダンは意外そうに目を丸くし、感心したように言った。


「………そうですね。ですが、あれほど動物たちに好かれているのです。悪い方ではないでしょう」

「動物?」


「………ふふふ。ええ。わたしも見たことのない種類の鳥たちが、まるで品定めするかのようにこちらを見てくるのですよ。まるで『リリを虐めたら承知しないぞ』とでも言いたげな顔をして」

シエルはそのときの様子を思い出したのか、くすくすと楽しそうに笑った。


「それに、部屋の窓からはエナガ族たちもこちらを見張ってましたよ」

「エナガ族?」

「ご存じないですか?」

「うーん…。聞き覚えがあるような、ないような………」


ブレンダンが首を傾げると、シエルは本棚へ向かい、一冊の本を取り出した。

そして、ページを開いて挿絵を指し示す。


「この子たちですよ」

「ああ、これか………!」

挿絵を覗き込んだブレンダンは、思い出したように声を上げた。


「絶滅したと思われていたのですが………。帰り道に陛下へ尋ねたところ、リリ様の大切な者たちだから、決して手を出すなと釘を刺されました」

シエルはそう語ると、ふっと表情を和らげた。


「そうか………陛下が無事に番うことができればいいな」

「………そうですね」

シエルは静かに頷いた。


「それと、家の中には入れていただけませんでしたが、リリ様はとても不思議な造りの家にお住まいでした。いったい誰が、どのようにしてあのような場所に建てたのか………。それに見たところ、家全体に非常に強力な結界が張り巡らされていました。リリ様は、まだスキルをお使いになれる年齢ではないはずです。」


「となると、誰が張ったのでしょうか………」

シエルは考え込むように呟いた。


「気になることは多々ありますが、そこは陛下の腕の見せどころですね。今まで通り、あまり焦らずじっくりと距離を縮めていただくのがよろしいでしょう」


「そうだな。しかし、強力な結界か……。もしかすると、森からでてくる魔獣が少し増えたのも、そのせいかもしれないな」


「結界の影響ですか?」

「ああ。それほど強力な結界が森の中に張られれば、魔獣の行動にも何らかの影響が出る可能性はある。結界を避けて移動するようになった結果、森の外へ出てくる数が増えたのかもしれない」


「なるほど………」


「今のところ、増えたといってもわずかだし、あの辺に住んでる連中は腕が立つ。自分たちで対処できるだろうと、放っておいてもいいかと思っていたが………。住民に少しでも被害が出れば、後々、そのことに気づかれたつがい様が気に病まれる可能性もあるな…。 明日、ちょっと間引きに行ってくる」


「………そうですね。リリ様ご自身は、あの結界の中にいる限り安全でしょう。しかし、結界の影響で住民が怪我でもしたと聞いたら、リリ様はご自身を責めてしまわれるかもしれません。早めに対処しておきましょう」


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