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閑話ーその頃王太子は2ー

それからというもの、煩わしいことばかりが続いた。


叔父上が領地から娘を伴って戻って来られたときもそうだった。


「殿下!娘のキャスリンを連れて参りました。大聖女様はいずこにおられるのですかな!?」

叔父上の顔は喜びに満ち溢れていた。


その隣では、車椅子に座るキャスリンもまた、長い闘病生活ですっかり瘦せ細ってしまっていたが、その顔には希望の光が宿っていた。


「おっ、叔父上。お久しぶりです」


「王太子殿下、長らくご無沙汰しております」


キャスリンもまた、丁寧に頭を下げる。

彼女とは従兄妹同士ではあるものの、幼い頃から領地での療養生活を送っていたため、顔を合わせる機会はほとんどなかった。


「それで!殿下の婚約者である大聖女様は、どちらにいらっしゃるのですかな!?」

その問いに、私は思わず言葉を詰まらせた。


今回、叔父上がどれほど娘の回復に期待を寄せているかを思うと、真実を告げることを躊躇わずにはいられなかった。

だが、黙っているわけにもいかず。


「……大聖女は、現在行方不明です」

「………は?どういうことです?」


叔父上の顔から、すっと笑みが消えた。


「カルラは、大聖女ではありませんでした」

「なっ………!?なぜです!殿下のご病気も、ほかの者たちの病気も治癒されたと聞きましたぞ!」


「そ、それが………叔父上は、『移り香聖女』の話をご存知ですか?」

「いや…存じませんが」


私は、あの大広間で大神官が語った内容に加え、現在、アマリリスが失踪中であることも伝えた。


話し始めた頃は、まだなんとか平静を保っていた叔父上だったが、説明が進むにつれて、その顔色はみるみる変わっていく。


ーーまずい。


この大公は、一人娘のキャスリンを溺愛している。

今や、叔父上の顔は憤怒に染まっていた。


「………ということは、本物の大聖女であるアマリリス嬢は、あなたのせいで失踪されたということですかな?」


「い、いや!それは………!」


その現実を受け入れるには、キャスリンにとってあまりにも衝撃が大きかったのだろう。

彼女は顔面蒼白となり、そのまま意識を失ってしまった。


「キャスリン!!」


叔父上が慌てて娘を抱き留める。

そして、私を一瞥すると、怒りを押し殺した顔で告げた。


「殿下………今日のところは帰らせていただきます。後日、改めて伺いますので」

そう言い残し、叔父上はキャスリンを連れて足早に退出していった。


………最悪だ。


それからというもの、叔父上は私と顔を合わせるたびに、アマリリスの行方について厳しく問い詰めてくるようになった。


「アマリリス嬢は見つかったのですか?」

「長年、婚約者であったのに見当すらつかないのですか?」

会うたびに「一刻も早くアマリリス嬢を見つけ出せ」と催促される始末だ。


叔父上自身も手の者たちを動員して捜索を続けているらしいが、そちらも一向に進展がないらしい。


キャスリンは、領地から王都までの長距離移動に加え、回復への期待を打ち砕かれた精神的ショックも重なり、ひどく衰弱しているらしい。


一刻も早く娘を救いたい叔父上にとって、アマリリスを見つけ出すことは、もはやまったなしの問題だった。

そのため、叔父上からの催促は日を追うごとに厳しさを増していった。


このまま、キャスリンが儚くなってしまうようなことがあれば………。

大公は、間違いなく私の敵に回るだろう。


まずい、まずい、まずい。

一刻も早く、アマリリスを見つけ出さねば………。


城内での居心地も、日に日に悪くなっていった。


あれほど、私とカルラの婚約を祝福していた者たちが、いまでは一転して、冷ややかな視線を向けてくる。


特に、身近に病人を抱えている者たちからの敵意は、隠しようもないほど露骨だった。

………彼らにとって、大聖女は病を癒してくれる希望そのものだったのだ。


弟に至っては、すでに自分が王太子にでもなったつもりなのか、何かにつけて偉そうに私に意見してくるようになった。


………まったく、腹立たしい。

身の程を弁えろと言いたい。


さらに、カルラはやはり早々に養子縁組を解消されたらしく、連日のように面会を求めてきていた。


だが、今の私は、カルラごときに構っている場合ではない。

こちらは父上や叔父上の機嫌を取り、城内の連中の不満を抑え、王太子の立場を守るだけでも手一杯なのだ。


そこへ、今さらカルラの相手までしろというのか。

そもそも、あの頃の私は、彼女を素晴らしい大聖女だという色眼鏡を通して見ていたのだろう。


あれほど、夢中になっていたのが不思議なくらい大聖女でないカルラには、何の魅力も感じない。


病を癒す力があるからこそ、価値があったのだ。

そうでなければ、どこにでもいる下位貴族の令嬢にすぎない。


今さら、彼女と会ったところで、何になるというのだ。


それよりも、早くアマリリスを見つけ出さなければ!


アマリリスは、いつも私に媚びへつらっていた女だ。

こちらから迎えにいってやれば、喜んで私の婚約者に戻るに違いない。


隣に並ぶには見栄えが悪いが、今はアレで我慢しよう。


見つかりさえすれば………。

ーー私の立場がこれ以上悪くなる前に!

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