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ひきこもり9

「…それで、ですね」


プリンを食べ終えてまったりしていたノアを前に、アマリリスは少しだけ背筋を伸ばした。

「このプリンがお世辞ではなく、本当に美味しいと思っていただけたのなら………レシピは売れると思いますか?」


日本では馴染み深いプリンも、この世界ではまだ知られていないはずだ。

実際、帝国に住むノアも、初めて目にしたかのような反応を見せていた。


「売れる。間違いなく」

「!」


やったね!

心の中で小さく拳を握った。


「では、ノアさんはどこに売るのが良いと思いますか?」


アマリリスは身を乗り出すようにして尋ねる。

「お菓子屋さんでしょうか?それとも商業ギルドとか?どこに持って行けば、一番高く買ってもらえるでしょうか?」


その質問に、ノアは顎に手を当て、考え込んだ。

やがて、何か思い当たったのか、顔を上げると、アマリリスへ向き直った。


「少し待って欲しい。アテがある」

「アテ、ですか?」


「ああ。もし良ければ、次回そいつを連れて来てもいいだろうか?」


アマリリスは少し考えた。


できれば、自分から街へ出向いて売り込みに行くのは避けたい。

人が多い場所へ行くのはめんどくさい……


ここを知らない人に知られるリスクと天秤にかけ……。

「はい。よろしくお願いします」

相変わらず、怠惰であった。


ただ、ふと森の外へ視線を向けた。

「でも、この森は危険ですが………」


「大丈夫だ」

ノアはあっさりと答えた。


「そいつも、なかなか強いからな」

それなら………。


「では、次回お待ちしております」

「ああ」


ノアは頷き、それから思い出したように付け加えた。

「それと、他にも売りたいレシピがあるなら、次回までに試食を準備しておいてくれ」

「分かりました」



※※※



それから、さらに七日後。

今日は、外へ出てノアが来るのを待っていた。


一体どんな人物を連れて来るのだろう。

そんなことを考えながら森の先へ目を向けているとーー。


「…あら?」


二人の男が、ものすごい勢いでこちらへ向かって走って来ていた。

二人は息を乱す様子もなく、凄まじい速度で一直線にこちらへ向かってくる。


一人は、いつも通りノア。そして、その隣にはもう一人、前回話していた『アテ』だろう。


その人物は、ノアより少し身長が低いが、それでも十分に高く、すらりとした細身の身体つきをしていた。

腰のあたりまで伸びた白髪は一つにまとめられ、さらりと背中へ流れている。


そして、何より印象的なのはその光を宿した黒曜石のような瞳。

整った顔立ちに、すっと通った鼻筋。細身ながらもどこか隙のない雰囲気をまとった美丈夫だった。


ちらりとノアを見る。ノアも人外の美形。こっちもまた美形。

イケメンにはイケメンが集まって来るのかしら………。


二人がアマリリスの前までやってくると、白髪の男が実に丁寧な所作で一礼した。

「初めまして。シエルと申します」

穏やかな声色だった。


「事務関係の仕事をしておりますので、商業ギルドや菓子店、さらには貴族の方々にもいくらか伝手がございます。今回、リリ様がお菓子のレシピを売られるということでやってまいりました」


「わざわざ来ていただいて、ありがとうございます」

アマリリスもシエルに向かって、丁寧に頭を下げた。大事なお客様である!(金払いに期待する!)


「リリです。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


シエルは柔らかな笑みを浮かべ、もう一度、礼儀正しく一礼した。


そのやり取りを横で眺めていたノアは、どこか不満そうである。

「では、さっそくですが………」

アマリリスはそう言うと、何やら不満そうな顔をしているノアを完全に無視した。


「こちらへどうぞ」

いつものように、庭に準備してあるちゃぶ台へと二人を案内する。


「どうぞ、お掛けになってお待ちください」

ノアは、素直に腰を下ろしたが、シエルは不思議そうな表情を浮かべている。


しかし、アマリリスはそれを気にすることなく、その場を離れた。

「少々お待ちください。今、お菓子を持ってきますね」


そう言い残して、部屋へ戻っていく。


今回、私が用意したお菓子は、前回と同じプリンに、蜂蜜入りのクッキー、それからドライフルーツ入りのケーキだ。

後者の二つを用意したのは、砂糖が貴重で高価なこの世界でも、広く普及させられる可能性があると考えたからである。


そして、レシピを記した紙も二種類用意してある。


一つは、高価ではあるがこの世界でも手に入る羊皮紙。もう一つは日本の紙だ。


彼らが信用に足る人物だと確信できたら、日本の紙を見せるつもりでいる。

現在、この世界では作ることのできない紙だ。見せれば必ず食いついてくるだろう。


この真っ白で、表面にまったく凹凸のない素晴らしい紙。


残念ながら、作り方までは知らない。けれど、在庫ならたっぷりあるし、必要になれば複製本のスキルで、増やすことだってできる。


「うふふふふふふ………」

思わず、笑みがこぼれる。


これも、かなり高値で売れるんじゃないかしら。

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