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ひきこもり8

それからというもの、ノアはきっちり七日に一度のペースで、我が家を訪れるようになった。


そして、毎回訪れるたびに、あちらこちらで流行っているお菓子を探しては持ってくる。


ただーー。

相変わらず、この世界のお菓子は、少々物足りない。


それでも、ノアは毎回「今度こそ」と言わんばかりに、私の口に合いそうなお菓子を探してきてくれているような様子を見ると、何となく断れず……。

私とお茶を飲みながら、とりとめのない話をしては帰っていく。


そして、そんなやり取りを繰り返すうちに、七日に一度の訪問はすっかり当たり前のものになっていった。


今日で、六回目。


小鳥たちも、もはや彼を警戒する様子はない。


ノアがやって来ても、ちらりと見るだけだ。

以前のような威嚇の声は、もう聞こえなくなっていた。


そして、るぅ達に至っては、ノアの姿を見るなり、嬉しそうに庭にお茶会の準備を始める。

ノアもどうやら、なかなか要領がいい男のようで、二回目の来訪からは、小鳥やるぅ達への手土産まできちんと用意しているのだ。


最初の頃は、あれほど警戒されていたノアは、今では小鳥やるぅ達を手懐づけ、いつの間にか、我が家にすっかり馴染んでしまっていた。


「ノアさん、来週も来る予定ですか?」


アマリリスが訪ねると、ノアは迷うことなく頷いた。

「もちろんだ」


その即答に、アマリリスは少し笑ってから続ける。

「でしたら、次回は手土産は不要です」


「………」


その瞬間、ノアの顔から、血の気が引いた。

まるで、この世の終わりを告げられたかのような絶望の表情である。


「い、いらない物だったか…?」

「えっ?」

「……まずかったのか?」


アマリリスは慌てて首を横に振った。

「いえ!もちろん、毎回とても嬉しいし、おいしかったです!」


「…だったら、なぜ?」

「次回は、私がお茶菓子を用意します」


アマリリスがそう言うと、ノアは目を瞬かせた。

「リリが?」


「はい。いつも頂いてばかりですから。次は私が作ります」


そう告げた瞬間。

ノアの表情が、ぱっと輝いた。


「リリの手作りが食べられるのか!」

「え、ええ。大したものは作れませんが……」

「楽しみだ!」


こうして、次回のお茶会は、アマリリスの手作りお菓子で開かれることになった。



※※※



さて、その夜。


アマリリスは、縮小解放した本屋の中にいた。

お菓子のレシピ本を選ぶためだ。


「……これなら大丈夫かな?」


ずらりと並ぶレシピ本の中から1冊を選ぶ。

「初心者が作るお菓子part1」だ。


アマリリスには菓子職人のような素晴らしい技術があるわけでもなく、電化製品もまだ自由に使えない。

オーブンや電子レンジをポータブル電源で稼働させるには、少々容量に不安が残るのだ。


………”そのうち、考えよう”でまだ何も考えていなかったからである。


簡単で、フライパンや鍋でできるもの。

オーブンを使うにしても、短時間で作れるものでなくてはならない。


ページをめくりながら、条件に合うのものを探していく。

………とりあえず、今回は無難にプリンかな。


せっかく作るのだから、ノアに美味しいと思ってもらいたい。


そして。

ノア(この世界の人間)が気に入るようなら、レシピを売る!


この世界には、あちらの世界の著作権など関係ない!


日本ではありふれたお菓子でも、この世界では真新しいものになる。

上手くいけば、かなりの値段で売れるかもしれないのだ。


「ふふふふふふふ」

この世界のお金もそろそろ欲しかったのよね。


アマリリスは、ノアが訪れる日までに、二度ほど試作を行った。

日本で食べていたら、可もなく、不可もないという感想だったと思うが、今食べると大層おいしく感じる。


「ふふっ…。私もやればできるじゃない」

思わず自画自賛してしまった。


完成したプリンを食べたるぅ達も、

「おいちぃでちゅ!」

「しゅごいでしゅ!」

「天才(てんしゃい)でしゅ!」

「とろけましゅ!」

と、予想以上の大好評だった。


小さな身体で夢中になってプリンを頬張るるぅ達エナガ族は最強に可愛い…。


しかし、やはり日本のお菓子は美味しいわ。

こちらの世界ではまだ馴染のない味と触感だと思う。

ノアもきっと気に入ってくれるはずだ。


そう思うと、次に彼が訪れる日が少しだけ楽しみになった。



※※※



当日、ノアが訪れると、アマリリスはさっそくむぅに声をかけた。


事前に氷室でしっかりと冷やしておいてもらったプリンを、頃合いを見て運んできてもらう。


目の前に置かれた器を、ノアは不思議そうに眺めた。

「今日は、こちらをどうぞ。プリンと言います」


見慣れないお菓子に、ノアは首を傾げた。

「………プリン?」


なめらかで淡い黄色のプリン

その上には濃い茶色のカラメルがたっぷりかかっている。


ノアからすると、上にかかっている黒っぽい液体しか見えないので、不思議そうだ。

「どうぞ。食べてみてくださいな」


アマリリスに促され、ノアは恐る恐る匙を入れた。

そして、そのまま口へ運んだ瞬間ーー。


ノアの目が、大きく開かれた。

次いで、その瞳がみるみるうちに輝いていく。


「これは、すごいな!!」

ノアはよっぽど気に入ったらしい。


一口、また一口と、匙を止めることなくプリンを口に運んでいく。


そして、あっという間に完食してしまった。

最後の一口を飲み込むと、ノアは名残惜しそうに空になった器をじっと見ている。


「………おかわりもありますよ」

そう声をかけた瞬間。

「ぜひ!」


「ふふっ。では、もう一つ持ってきてもらいますね」

「ああ!ありがとう」


その様子を見ながら、アマリリスは小さく笑う。

どうやらーー大成功のようだ。



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