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ひきこもり2

魔鳥は、もとは白を基調とした可愛らしい鳥のようだった。

その大きさは現在の小鳥たちと変わらない。


けれど今は、その白い毛のあちこちに痛々しい血が滲み、ところどころ赤く染まっていた。

見るからに深い傷を負っているようだ。


「ちょっと、そこで待っていてね。」


アマリリスは急いで、部屋に戻りスキルブックを取り出した。

あまり、人目にスキルブックを触れさせない方がよいと思ったのだ。

(どちらも人ではないけれど………)


「これまでケチって、あまりスキル獲得をしてこなかったけど。治癒系統の魔法はいつ必要になるか分からないものね。」

このタイミングで取得しておくことにしたのだ。


聖魔法の中級まで取得しておけば問題ないかしらね…と考えながら、スキルブックを開き、聖魔法に関する記述を探してページをめくっていく。


「えっ!?」


聖魔法はもちろん記載されていた。

『聖魔法初級 0コイン』

『聖魔法中級 0コイン』

『聖魔法上級 0コイン』

……なぜ?


今ひとつ理解できないが、魔鳥は傷ついており、一刻も早く治療が必要なのは間違いない。


「とにかく、今は治療が先ね!」


アマリリスは予定通り聖魔法を中級まで取得し、慌てて魔鳥が待つ外へと飛び出した。


外へ出ると、傷ついた魔鳥はその場にぐったりと身を伏せながら私が来るのをじっと待っていた。

その周囲にはいつも元気な小鳥たちが心配そうに魔鳥を見つめている。


「遅くなってごめんね。すぐに治療するからね。」


魔鳥のそばにしゃがみ込むと、そっと手を伸ばしスキルを発動する。

すると、傷口が淡い光に包まれ、痛々しく流れていた血が徐々に止まっていく。

やがて傷は跡形もなく塞がり、魔鳥はゆっくりと顔を上げた。


傷は治ったとはいえ、まだ体には血が付着している。

血の匂いをさせておくのも森の中では危険な気がするわね。


「血を洗い流してあげるわね。」

そう、優しく声をかけた。

嫌がらせないいように様子を見ながら、湯魔法を使って白い毛についた血をそっと洗い流していく。


??羽じゃないわ………。

フワフワで羽に見えていたのは……とっても短いけど、これは4本の指がついた”手”よね…。


血をすっかり洗い流し、濡れた毛をそっと撫でてやる。


すると、そこに現れたのはーー。


真っ白でフワフワとした身体に、ちょこんとついた、とても短い手。

まるでシマエナガをそのまま大きくしたような、愛くるしい姿だった。


ただし、普通のシマエナガと大きく違うのは、その大きさと………羽がない。

その代わりに、身体の左右には、まるで小さな手のような前肢がちょこんと生えている。


なに、この子。可愛すぎるんだけど。


そのシマエナガもどきは、こちらを静かにじっと見上げている。


つぶらで愛くるしさ全開の瞳は、今にも零れ落ちそうな涙で潤んでいる。

そして、その小さな瞳をうるうるとさせながら、


「たしゅけてくれて、ありがとでしゅ」とペコリと頭を下げた。



………。

「しゃべった!!?」


まさか、魔獣が人の言葉を話すとは思ってもおらず、驚愕したまま固まってしまった。


「はい。エナガ族(じょく)は、しゃべるでしゅ。ことば、わかるでしゅ。」


まっ、まぁ…、神様がいたり、獣人がいたりする世界ですもの。

しゃべるフワフワがいてもおかしくはない…のかしら…。

アマリリスは無理やり自分を納得させる。


「そっ、そう…。でもお礼なら、私じゃなくてこの子達に言ってあげて。あなたを助けたかったのは、この子達なんだから。」

周囲で心配そうに見守っている小鳥達へ視線を向ける。


フワフワは、私の言葉を聞くと、周囲にいる小鳥たちへと視線を向けた。そして、小鳥たちに向かって深々と頭を下げる。


「たしゅけてくれて、ありがとでしゅ」

小鳥たちは嬉しそうに鳴き声を返している。


それから、もう一度、私に向き直り、

「しょれでも…たしゅけてくれてありがとでしゅ。ぼくは、エナガ族(じょく)の、るぅでしゅ。」

と、先程よりも丁寧に頭を下げた。


「私は、アマリリスよ。それより、どうしてこんな危険な場所にいたの?こんな場所に一人でいたら、危ない目に遭うでしょう?」


その瞬間、るぅのつぶらな目からボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。


「えぇ…!」

まさか泣き出すとは思ってもいなかったので、慌ててその姿を見つめる。


るぅは、短い手で何度も目元をこすりながら、しゃくり上げるように、

「いもうとが………。びょうきで死(ち)んじゃいしょうなんでしゅ」と言葉を紡いだ。


潤んだ目からさらにまた涙をこぼしながら、

「だから………おいちい果物を、食べしゃしぇてあげたかったんでしゅ。」


うーーーーん。

聖魔法上級を取得すれば、るぅの妹を助けてあげられる気はするけど………。


どうしようかな。

と、考えながら、ふと頭を上げる。


すると、そこにいた小鳥たちと目が合った。

小鳥たちは、その凶悪な三白眼をキラキラと輝かせながら、私を見つめていた。


「当然、助けてあげるんでしょ?」と、言っているようだった………。


「………。」

どうやら、助けないという選択肢は無いらしい。


「その妹さんの所へ案内してくれないかしら?私が治療してあげられるかもしれないわ。」


るぅは、泣き伏していた顔を勢いよく上げた。


「いいんでしゅか!?」


潤んだ瞳を大きく見開き、信じられないとばかりに私を見つめてきた。


「ぜひ!お願いちましゅ!!」

「じゃあ、準備してくるからちょっとだけ待っていてね。」


そう言うと、聖魔法上級の取得と、この子が持ち帰りたがった果物を準備するべく、急いで家の中へと戻った。



※※※



必要なものを一通り準備し、出発だ。


「準備ができたわ。さぁ、行きましょう。私の周囲に結界を張るから、その中から出てはダメよ」

「はい!」

「「「「「ぴぃ!」」」」」


「ん?ジュウエン達も行くつもりなの?ここで待っててくれても良いのよ?」

「ぴぃ!? ぴっぴぴっぴ!!」


「あまりりしゅしゃまのごえい、がんばるいってるでしゅ。」


確かに今の小鳥たちの見た目はとても強そうだけど………。


「というか、るぅはこの子達の言葉が分かるの?」

「わかるでしゅ。とりしゃんのことば、わかるでしゅ」


………この子は、羽が無いから鳥じゃないわよね?

あれ………?鳥の定義って何だろう?

まぁ、難しいことは考えなくていいか。


「そっか。なら妹さんの所に着くまで、この子達の通訳はるぅにお願いするわね」

「まかしぇるでしゅ!」


るぅが、その小さな胸を精一杯張る姿は、たいそう愛らしいものであった。

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