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閑話ーその頃カルラはー

アマリリスが不可侵の森で怠惰な生活を始めたころ、



ジルベルトとカルラは寝室で話をしていた。

「王妃教育の調子は、どんな感じだ?」

「大変ではございますが……ジルのためですもの。精一杯、頑張りますわ」


ジルベルトはそんな健気な言葉を口にするわたくしを、そっと優しく抱きしめる。


「……ありがとう。だが、疲れているのであろう。聖女としての仕事にも影響が出てきていると聞いている。アマリリスが逃げたせいで、君に負担をかけてしまって、本当にすまない。まったく、どこの小児性愛者(ロリコン)があいつの為に大金を準備したのか…」


「いいえ。アマリリス様には申し訳なく思っておりますわ。わたくしのせいで、王妃になる道が閉ざされてしまったのです。どうか、責めないで上げてください」


「君は、本当に優しくて素晴らしい女性だ。そんな君を娶ることができる私は幸せ者だな」


そうでしょうとも。

あんな子供の専属侍女を命じられたときは、どうしてやろうかと思っていたけど、わたくしは幸運だったわ。

毎日毎日、勉強ばっかり。

侍女として後ろについていて何にも面白いことは無いし、両親もあの娘に興味がないから、頑張っても出世しないだろうと思って適当に仕事してたけど…。


こうして王太子の目に留まったのは、あの娘のおかげね。感謝しなくちゃだわ。

ふふふ。だいたい、子供ながらに綺麗な顔をしているとは思うけど、兄はアレだ。

成長したら、所詮あんな感じになるのでしょうね~と思ってたけど、成長しないのには笑えたわ。


でも、まさか逃げ出すとは思わなかった。

おかげで、面倒な王妃教育を受けないといけなくなった。

あの娘が側妃なら、敵にもならないから仕事だけさせておけば良かったのに。


別の女を側妃にして仕事をさせるという手も、無いわけではないが…。

現王妃のように寵愛を奪われでもしたら一大事だ。最終手段だろう。


「カルラが大変な時に申し訳ないが、予定通り3日後に教会総本山の大神官様がお越しになる。君を正式に大聖女として認定するためだ。準備もいろいろと大変だろうが、よろしく頼む」

「分かりましたわ。お任せください」


ついに、3日後わたくしは大聖女になる。

人生バラ色とはこのことね。


そもそも、わたくしがジルの看病を申し出たのにも、理由があった。

王太子が発病する前日、わたくしは彼と関係を持っていた。


だからこそ、伝染病であれば自分も罹患している可能性は十分にある。


もし自分まで発病したとしてもーー。

「王太子殿下の看病をしていたから、うつったのだ」と言い訳ができる。


それに、王宮で王太子の看病をするのであれば、自分が体調を崩したとしても、当然ながら手厚く面倒を見てもらえる。


そんな打算を胸に、ジルの看病に自ら立候補したが、これほど幸運なことはなかった。

看病をきっかけに聖魔法のスキルに目覚めたのだから。


これからは、世界中の人間がわたくしに治療を頼みに来るわ。


ーーただ、最近、聖魔法の調子があまりよくないのが、少し気になるけど………。

以前ほどには魔法の出力が良くないというか………。

疲れてるんでしょうね。


「そうそう。叔父上も、娘を連れて5日後にはこちらへ到着するそうだ。娘の体調が思わしくなく、出発を延ばしていたらしい」


叔父上…。大公様ね。

娘は生まれたときから重い病を患っていて、ずっと領地に引きこもるように暮らしていることで有名だったわね。


「一人娘の治療を、君に頼みたいそうだ。これまで、完治の見込みがないと言われていた病気だからな。君に治してもらえると知って、叔父上は大変な喜びようだったよ」


ふふ。大公様に恩を売っておくのも悪くないわね。

大公様は現王の弟だ。

娘を治療してあげれば、それなりの見返りが期待できるだろう。

大公様ほどの人物に私の後ろ盾になってもらえるかも。本当にツイてるわ。



※※※



王宮の大広間で、王族と多くの貴族たちで、大神官の到着を待っていた。


しばらくすると、扉が大きく開く。

「大神官様御一行が到着なさいました」


その先から、数多くの神官や聖騎士を従えた一人の老人が、ゆっくりと姿を現した。

あの人が教会の頂点に立つ大神官か。


大神官は国王の前まで進みでると、丁寧に頭を下げた。

「お待たせいたしました。大神官、ただいま参上いたしました」


「遠路はるばる、わざわざお越しいただき、感謝いたします。こちらが、先日、聖魔法を顕現させました、カルラです」


国王から紹介を受けると、私は大神官の前へ進み出て、丁寧に一礼した。


「お初にお目にかかります。お会いできて光栄です。カルラ・ガーランドと申します」

「はじめまして。大神官を勤めております、オリバーと申します。どうぞ、お見知りおきください。」


大神官様は朗らかな笑みを浮かべながら、わたくしの挨拶に応じた。


「さっそくですが、カルラ殿の聖魔力を確かめさせていただきたい。あなたもお忙しいでしょうからね」


大神官は穏やかな笑みを浮かべたまま、そう切り出した。


「もちろんです。どうぞ、よろしくお願いいたします」


大神官が後ろを振り返ると、一人の神官が、水晶を平らにしたような不思議な物を両手で持ち、前へと進みでてきた。

それは、スキル取得の儀で使用する水晶に似ている。


「こちらは、神具でしてね。光の色によって、その方がお持ちの聖魔法の力の強さを測ることができます」


大神官がそう説明すると、わたくしの前にそれを差し出した。


「どうぞ、こちらの上に手を置いてください」


内心、緊張しながら、わたくしは言われるがまま水晶のような物の上に手を置いた。


しかしーー。

いくら待っても、何の光も現れない。

水晶は静かなままで、何の反応も示さなかった。


………これは、どういうことかしら。


「やはり、そうでしたか」大神官は、どこか納得したようにそう呟いた。

「どういうことでしょうか?」


「『移り香聖女』という言葉を、聞いたことはありますか?」

「いえ…そのような言葉は、聞いたことがございませんが」


わたくしは困惑と焦りを隠せないまま、思わず首を傾げながらそう答えた。


「数ある魔法の形態の中でも、聖魔法だけは特殊なのです。スキルは成人とともに発現するのはご存知でしょうが、聖魔法のスキルだけは成人近くなると、少しずつ身体から漏れ出ます。不思議なことに漏れ出た力は身近な人に移るのです。そして、成人後のスキル取得の儀により身体に留まり、本人が使用できるようになります」


「…申し訳ありません。おっしゃっている意味がちょっと………。」


「ようするに、あなたは聖女ではないということです」

大神官ははっきりと、そう告げた。


「お待ちください!彼女は、病に冒され、死の淵にいた私を救ってくれたのです!」

ジルベルトは焦ったように、大神官へそう訴えかけた。


しかし、その言葉を聞いたわたくしはーーただ茫然と、その場に立ち尽くすことしかできない。


「そうですね。彼女があなたを治癒したことは間違いないのかもしれませんが………。こちらでもカルラ殿について、失礼ながら少々調べさせていただきました」


大神官は、じっとこちらへ視線を向けると、わたくしに問いかけてきた。


「あなたは元々、聖魔力の初級もお持ちではないですね?」

「………はい」


「スキルを後天的に得ることは稀にあります。ですが、初級のスキルすらお持ちでないのに、中級を飛ばして、いきなり上級の力を持つなど………あり得ないのです。身近に成人間近の聖女がいる、という方がしっくりきます」


「そんな……。ですが!わたくしは聖魔法が使えます!!」


大神官はゆっくりと首を横に振りながら、「それも、一時的なものです」と告げる。


「聖女である方と離れると力は弱まっていき、いずれ使えなくなります。聖魔法にはこのような事例が起こり得るからこそ、教会による認定が必要なのです。この国では、もう数百年もの間、大聖女が現れていませんから…。その間に、かつての知識や情報が途絶えてしまったのでしょうね」


「ですが、悲観する必要はありません。漏れ出た力のみで病気を治癒できる、とても力の強い聖女がこの国にいることは、間違いないのですから」

大神官は穏やかな表情に戻ると、静かにそう告げた。


「カルラ殿、あなたの身近な人間で、どなたか成人間近な方はいらっしゃいますか?」


頭の中が真っ白になった。


何も考えられないはずなのに、そんなわたくしの脳裏に、ただ一人子供のような姿が鮮明に浮かびあがった。


ーーアマリリスだ

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