七 飯屋ノ表
人間は、人間として産まれ、人として生き、そして、人間として死ぬ。
人間には、見えるものと見えないものがある。
見えるもの。それは、信号機、ビル、スマホ、オムライス、コーヒー、スプーン、蝶、花、猫。
見えないもの。それは、空気、時間、音楽、価値、心、嘘、神様、幽霊。
人には、ミエル者とミエナイ者がいる。
ミエル者。それは、幽霊が見える者。
ミエナイ者。それは、幽霊が見えない者。
西見 友里恵 (にしみ ゆりえ)
森崎 (もりざき)
楠見 (くすみ)
押切 (おしぎり)
津野 早希 (つの さき)
「デミグラスオムライスに、ダブルチーズトッピングで。ドリンクバーもお願いします」
森崎はメニュー表も見ずに、店員に言った。森崎がそれ以外を注文するところを見たことがない。
「平日ランチで。スープは、コーンスープで」
楠見は、本日のランチメニューを指さして注文した。今日は、ケチャップオムライスだ。
「西見は?」
モバイルバッテリーをスマホに差しながら押切は、西見に聞いた。
「チョコばななパン二つと、ドリンクバーで」
「え?」押切はすぐに、メニュー表を手に取った。オムライス屋のメニュー表だ。
「いいんだよ。押切」森崎は言った。
押切も楠見と同じものを頼んで、店員は席を離れた。四人は席を立って、ドリンクバーコーナーに向かった。
三人とは、大学で知り合った。付き合いが上手くない西見と関わりを持つ数少ない友人だった。
「昨日のさ、動画見た?」
「見た」
「見てない。え?追ガの、だよね?」追想ガーディアン。通称、追ガ。流行りの動画配信グループだ。
平凡な会話を聞き流す。
森崎がコーラを注ぎながら、頷く。
「総集編ね」楠見はアイスコーヒーにするようだ。
西見も隣でアイスコーヒーを注いでいた。
「そうだよね。四時間くらいあったし、あとで見よっかなって思ってた」押切のコップにはメロンソーダが注がれた。
「じゃあお前、重大告知見てねえんだ?」
森崎と楠見がニヤニヤと笑っている。
「そんなのあったの?!」押切は驚いた様子だ。
「帰ってみてみ」
「その日俺、講義休もっかな」
注文の食事が来るまで、スマホから目線が離れないだろう。
「帰って見るから、絶対言わないでね!」
「どうしようかなー。言っちゃおっかなー」
森崎に言う気はない。
「今度の金曜の十九時にー」
楠見も言わない。言うやつじゃない。
「心霊スポットで宿泊企画」
西見はそう言って、アイスコーヒーにストローを差した。
「ご注文のコーンスープです」
6
"「赤い鳥居を潜ったら、紛れた狸を追いかけろ」"
バスを降りてから山道を二十分くらい歩いたところで、それはあった。
「にい、しい、ろう、や」
古い鳥居のそばには、ざっと数えるだけでも二十ほどの狐の石像がひっそりと佇んでいた。
西見は苔で侵食された深緑色のガードレールを跨ぎ、雑草をかき分けながら近づくと、鳥居を潜った。
人が歩ける道が、かつてはあったようだった。周りと比べると地面が整備された形跡が見てとれた。しかし、今となっては誰からも忘れられたのだろう。腰の高さまである柔らかい雑草をかき分けながら、遠くで鳴いた鳥の声を聞いた。
分かれ道に来た時、立ち止まった。
左右どちらの道にも狐の石像が一つずつあり、格好も表情も違うものだった。
あちらこちらにあるほかの狐の石像にも目を向けると、進むべき道はすぐに分かった。
西見は、頭に葉を乗せた狐の道を進んだ。
同じような分かれ道を三度繰り返したところで道は開け、目的地に到着した。
『おめでとう』葉を手に持った狸の絵が施された木の看板は腐りかけていて、文字はほとんどが消えかけていた。『ようこそ。金風楼閣へ』
廃旅館だ。
七階建ての廃旅館は、緑色の葉やつるが建物の壁をびっしりとまとわりついていた。
客用の駐車場は当然空で、ひび割れたコンクリート地面から所々雑草が生えていた。
建物入口の半開きの自動ドアから中へ入ると、誰もいないロビーが西見を迎えた。
"「正面の階段を登って、左だ。
桜の道の突き当たりにある」"
案内人の言葉を思い出しながら、言われている通りに進むと、目を写った光景に西見は思わず、足を止めた。
足元に落ちた黄色の花びらを一枚拾って、それをじっと見たあと鼻に近づけた。それは間違いなく、桜だった。
橋に見立てた通路の両端には淀みない水が流れていた。天井を覆う程に咲く黄色の桜は圧巻で、花びらはひらひらとせせらぎの音に落ちていた。
足を踏み入れるのを躊躇するほどに美しい光景の先に、廃料亭はあった。
”「飯屋だ。
中は暗いが、入りなさい」"
「ここが、『初雪』」
西見は、『初雪』の木彫り看板の廃料亭の中に入った。
受付と思われる場所は無人で、個室がいくつかあり、さらに奥に進むと大広間になっていた。
もう二度と誰も座ることの無い座椅子には、茶色い埃が積もっていた。
秋には紅葉が一望できそうな壁一面の窓ガラスは、端のほうから白く曇って霞んでいた。
剥がれかけた天井に、腐敗が進んでよれた床、壊れたカーテンレールと日焼けしたカーテン。どれももう仕事を終え、眠りについているようにも見えたが、それは眠りというよりも安らかな死を連想させた。
「大丈夫。ゆっくり、おやすみ」
黄色の桜の盆栽に、西見は言った。
盆栽の向かいの個室の引き戸は、ほかの個室と比べて華やかなものだった。おそらく、ここで最も敷居の高い部屋であると推測できた。
"「奥の桜がある個室だ。
挨拶は必ずしろ。常識だ。常識が抜けた輩は相手にされない。
だが、そうかしこまらなくていい。
気難しいやつだが、ほかの誰よりも優しいやつだ」"
引き戸を開けると、座椅子と座卓が八席分ある少し広い和室だった。外から差し込む光がぼんやりと畳に影を作っていた。
西見は八席のなかで、一番光が当たる奥の席に腰掛けた。
「こんにちは。西見友里恵です。初めまして」
西見以外に誰もいない和室で、西見は挨拶をした。
しんとした部屋で西見は、来る途中で買っておいたビール瓶を開け紙コップに注いだ。
酒を注いでから時計の針が五周して、西見は言われた通りの台詞を言った。
「ここに鍋料理はありますか?」
"「ゆっくりみっつ数えてから、それでもおいしいと聞いたと言え」"
「でも、おいしいと聞きました」
"「つぎに、ゆっくりととう数えたら」"
「俺はフグも好きだけど、しゃぶしゃぶが食べたいんです」
既に営業していない廃旅館の、お品書きすら捨てられた廃料亭で、西見は言われた通りに誰かに注文をした。
そうしてまた、ゆっくりとう数えてから「俺はお腹がすきました」とお願いした。
"「四十分でいい、待て。
時間が来たら、目を逸らすんだ。前にも言ったが、これは礼儀だ。
窓の外の景色でも見て、時計の針が二周したら食事の時間だ」"
西見が再び目線を座卓に戻すと、座卓には湯気が立ちこめる鍋と、薬味が沈んだポン酢が入った器が並んでいた。
鍋には、薄ピンク色の牛肉と豆腐、椎茸に白菜、花形の人参が浮かんでいた。
手を合わせて「いただきます」と言うと、西見は肉を頬張った。
食べ終わると手を合わせて「ごちそうさまでした」と言った。
"「食事を済ませたら、渡したものをテーブルに置け。
置いたら、また外でも見て待て。
時計の針が三周するのを待ってから、依頼を受けろ。
それだけだ。
うまくやれ」"
西見は、食べ終わった食器を床に置き、渡されたものを座卓に置いた。左から、造花、少し空間をあけて、金が詰まった金袋。
時間が来て、外の景色を見ていた目線を座卓に戻すと、座卓には金だけが置いてあった。
食べ終わった食器は無くなっていて、座卓の左に置いたはずの造花は畳の上に落ちていた。
建物地下に、従業員駐車場はあった。そこには、古い軽自動車が一台止まっていた。
車検は切れていたが、捨てられたようではなかった。むしろ、最近まで使われていたようだった。
車内は、背もたれの倒れた運転席以外に物が散らかっていた。助手席にはブランケットが数枚丸められて転がっていて、ドリンクホルダーと助手席の足元は空や飲みかけのペットボトル、缶、煙草の吸殻、ハンバーガーの包み紙などのゴミ溜めになっていた。
後部座席は大きめのダンボールが二、三押し込められていた。
ドアは鍵がかかっていて開けられなかった。
西見はポケットから針金を取り出すと鍵穴に刺して、それを細かく動かした。
カチャカチャと音を立てながら針を動かして暫くすると、ガチャと重めの音と同時にセキュリティアラームが鳴り響いた。
ドアは開いた。
地下駐車場内を反響するセキュリティアラームをものともせず、西見は運転席に乗り込み、車内をくまなく探索した。
まず、接続してあるカーナビのケーブルを抜き、カバンから取り出したノートパソコンにカーナビを接続する。
画面が切り替わるのを待つ間、片手に端末を取り出し、画面に表示された『検索ワード』欄に必要な情報を打ち込んでいく。
フロントガラスに貼られた車検ステッカーから。
『車検 二〇二三年九月』
助手席グローブボックスに入っていた自動車保険証券と数冊のクルマの情報雑誌から。
『本名 津野晃司』
『年齢 五十六』『住所 宮原県行引市藤町沖内二丁目四十五』
『クルマ好き』
運転席と後部座席のドアポケットの薬から。
『既往歴 高血圧症 糖尿病 脂質異常症 不眠症 うつ病 大腸がん』
「市販薬で、整腸剤、ビタミン剤、睡眠導入剤、鎮痛剤、湿布、漢方薬多々。それから、サプリメントでマルチビタミンに、マルチミネラルと」
助手席シートバックポケットの写真と猫のキーホルダーから。
『成人済みと思われる娘が一人』
どれも奥さんは写っていない。
『妻 不明』
『飼い猫 有り』
後部座席のダンボールには、洋服や下着類、タオルなどの衣類が乱雑に入っていた。
「吸殻はあるが、本人の喫煙歴はなしでいいかな」
西見がそう思ったのは、助手席と後部座席に備え付けの灰皿には吸殻があるが、運転席の灰皿は使った様子がない。かつ、この車を乗ったと思われる期間は保険証券から考えて大体七年で、それに比較して内装にニコチンの色が付着していない。
同僚もしくは友人の喫煙を断ることはできなかったが、クルマ好きなことからもこまめに窓を開けていたことが想像できた。
それに、アクセルペダルもブレーキペダルも土の汚れが少なかった。西見の思った通り、助手席シート下には室内用と思われるシューズがしまってあった。
「ではなぜ、こんなに散らかってしまったのか」
ポロロンと接続が完了した音がして、パソコンの画面が切り替わった。
直近の案内と走行履歴に目を通す。
履歴は、一年半ほど前に途絶えている。それまでに頻繁に向かっていたのは、この旅館と自宅、それと県外の二箇所の病院。
頻度からしても、この旅館が職場であったことは間違いなさそうだった。
『職場 金色楼閣』
『頻繁に案内歴有り 福橋県立がんセンター』
『頻繁に案内歴有り 犬塚中央総合病院』
運転席から降りて、バタンとドアを閉めた。
打ち込んだ項目を送信する直前に、一応、トランクも開けて中を覗いて見ることにした。
トランクを開けると、中には、色とりどりの千羽鶴だけがあった。
底に二、三枚よれた色紙が落ちていて、それを拾うと裏の白い面に「お父さん、がんばってね」と手書きで書かれていた。女性の筆跡だった。
端末の『一括送信』をタップして、西見は廃旅館をあとにした。
「ついに、料理人を雇ったか」
帰りのバスを待つ間に、西見は、先ほどの食べた鍋を思い出していた。
肉も、豆腐も、人間が食する一般的なものだった。味も、食感も、温度も、疑うことのできないそれは、間違いなく本物だった。
案内人が”礼儀”とか”マナー”とかで括る、見ない行為。そのおかげで、あるいは、そのせいで、毎度一連の流れを目視できないでいる。
今回もその礼儀という行為の後、時間きっかりに、出来立ての食事は配膳されていた。
厨房からの音も、人の足音も、食器の音も、匂いも。それまでは何一つ感じられなかった。
車の持ち主は、おそらく今回の店主。料理人。
「そして、音もなく、彼は造花を選んだ」
つまり、雇った料理人が今回の依頼人ということになるのか?
「さっき俺に飯を食わせてくれた料理人が今回の依頼人なら、普通に出てきてくれよなー」西見は狭いバス停の中で、項垂れた。「全く。隠れてないで、挨拶くらいしろよー。茶番なんてしてないでさー」
端末が鳴った。
『検索結果』の通知をタップすると、暗殺対象とその詳細な情報が画面に表示された。
『依頼者』の欄に『亡者』とあるのを見て、「嘘ばっかりじゃん。そんなはずあるわけないっての」と、西見はこぼした。
西見がテーブルに置いたのは、造花、そして、金袋。
実はこれは暗示であり、西見はこの時店主に対して選択肢を提案した。
提案とは、サービスに対する代金の交渉である。今回でいうと、料理に対する代金である。
では、提案した選択肢は、造花か金。実は、そうではない。
提案した選択肢は、暗殺か金なのだ。
造花を選んだ店主は、購買人に対して暗殺を依頼したことになる。
金を選んだ店主は、サービスの代金を金として承諾することになる。
今回の場合、テーブルに残されたのは、金。造花はテーブルの上からなくなっていた。
つまり、店主は造花を選んだことの現れである。店主は代金として暗殺を選択したと同時に、購買人に対して暗殺を依頼したことになる。
検索結果の内容を読み終わったころ、ようやく遠くにバスが見えた。
平日朝の犬塚中央総合病院の待合室は、受付番号を握りしめた人で混雑していた。
受付の呼び出しのアナウンスが途切れることなく流れ、忙しなく看護師が歩き、自動精算機を待つ人は列を作っていた。
受付を待つ間、西見はぼうっとその景色を眺めていた。
時々、端末を開いて、一読しては閉じてを繰り返した。
呼び出しモニターに、西見の受付番号が表示されると、暗殺対象の元へ向かった。
西見が訪れたのは、『津野』のネームプレートの個室。
幾枚の透明なビニールカーテンに囲まれたベットの上で西見を迎えたのは、津田早希。
輸液バッグに繋がったチューブは、か細い腕に生きるための栄養を送っていた。
眠っているように見えた早希は、病室の扉が閉まる音でゆっくり瞼をあげると、西見に気づいた。
人工呼吸器マスク越しに、僅かに唇が動いたのが見えた。
しかし、声は聞こえなかった。
そこに看護服を着たスタッフが部屋に入ってきて、引き出しの上にあったヘッドホンと小型のマイクを西見に渡すと、そそくさと部屋を出ていった。
「聞こえる?」
小型マイク越しの西見の声に、早希は目を合わせて頷いた。
「俺は、君のお父さんの」
「お父さんの、おともだち、ですか?」
人工呼吸器のノイズが混じる中、微かに早希の声が西見のヘッドホンに届いた。
看護師から聞いたのだろう。面会の予約の時に、そう伝えたからだった。
西見は、早希と目を合わせて頷いた。
「俺は、君を殺しに来た」
西見の言葉に、早希が微笑んだように見えた。
「まさか、お父さんの、おねがい?」
途切れ途切れに、か細く優しい声が訊いた。
少し間があったあと、西見は笑みを浮かべて答えた。「まさか」
早希は、また微笑んだ。
「わたし、お父さんに、また、会える、かな」
早希の頬を涙が伝うのが、ビニールカーテン越しに見えた。
西見は、頷いて答えた。
ヘッドホンを外す時、「ありがとう」と聞こえたのが最後だった。
翌朝。
西見が自室で目が覚めると、枕元に一輪の花が置かれていた。
端末を開くと、通知欄に『依頼達成』と文字が浮かび上がった。
報酬の花を新しい花瓶に生けて、培養ルームのモニターの隣にそっと置いた。
生者の暗殺は比較的多くない。今までのほとんどの割合が、亡者の暗殺だった。
だからか、数少ない見える花が報酬の時、誰かの命がこれに置き換わったように錯覚する。
以前より詳細な分析機にかけても未だ不明な事項が多い報酬の花。これまでですでに数本になったが、西見の中で研究対象としてやりがいを感じるものとなりつつあった。
キッチンに立った西見は、湯を沸かし、カップにドリップコーヒーを引っ掛けた。
「スヴォスツ類のラニシの花の蜜はあまり知られていない毒で、古来から最も痛みや苦しみを感じない毒だと言われている」
湯が沸くのを待つ間、霧吹きと水差しでリビングの観葉植物達に潤いを与える。日課だ。
「だから同時に、最も自殺向けと噂されることも多い」
人を殺すことに、今更何の躊躇もない。それが、望まれない死でも、そうでなくても。
カーテンを開けると、鮮やかな朝焼けの空が広がっていた。
西見が輸液バッグに薬を混入する間、早希は静かに目を閉じていた。
ただの一言も話すことなく、眠っているようで、実は起きているようで。
どこか安心したような早希のその表情を、父親である依頼人は見たかっただろうと西見は少しの間考えた。
『検索結果』
依頼者 亡者 津野 晃司
推測暗殺目標ターゲット 生者 津野 早希:詳細情報
推奨暗殺場所 犬塚中央総合病院:詳細情報
推奨暗殺時刻 午前中:詳細情報
推奨暗殺方法 薬による暗殺:詳細情報
『各詳細情報』
犬塚中央総合病院:長期入院中
午前中:午後に検査問診予定多々あり 目標接近確率九十パーセント
津野 早希:生者 上京してから就いた仕事がうまくいかず自殺未遂の経験あり 後遺症治療のため現在入院中 院内カルテよりコンプライアンスはやや不良 面会歴父親のみ 父親の死後コンプライアンスはさらに悪化 栄養不良及び運動不足により身体能力低下傾向 問診時会話不良頷くのみ
購買人は、提供された商品やサービスへの代金をテーブルの上に提案する。
店主は、商品の代金を選択できる。
購買人によってテーブルに置かれる品は、造花と金が入った金袋。
では店主に提案する代金は、造花か金か。実はそうではない。
それは、人間が見える情報であるだけ。店主は、人間ではないかもしれない。
代金として提案されるのは、みっつ。
一つ目は、生者の殺し。
ふたつめは、亡者の殺し。
三つ目は、金。
このみっつの選択から、店主は代金を自由に選択する。
金を選ばなかった店主を、以降、依頼人と呼称する。依頼人は、最も恨む人間の殺しを依頼する。
それは生者でも、もしくは、亡者でも。
生者の殺しは簡単。暗殺するだけ。
でも亡者の殺しは、どうするか。亡者はその通り、もう死んでいる。
亡者を殺しは、蘇生だ。
生き返るんだ。人間として。
浴びせられるような悲劇と絶望を伴う豊かな人生を、また最初から始めてもらう。
そうだろ?この自殺願望で咲き乱れた世界で、亡者にとってそれが一番の殺しだろ?




