第17話 冬の約束
初雪が校舎の屋根を薄く覆う朝、夏希は最後のレモンキャンディを口に入れた。今日で高校生活最後の授業日だ。鞄には五つ目の小さな包み——それぞれの進路に合わせた餞別の品を入れている。
教室では、少しだけ大人びた面々が集合していた。藤原は紺のブレザー、森川はフォーマルなコート、赤城はきちんとアイロンがかけられた制服、神崎は初めてのスーツ姿だ。
「おはよう」夏希が微笑みながら挨拶する。
「おはよう、相沢さん」藤原の表情は穏やかだ。「今日で最後かと思うと、感慨深いです」
森川がカメラを構える。
「この瞬間を記録しておきたい」
「おい、まだ始まってもないのに」赤城は笑いながらも、きちんとポーズを整える。
神崎は窓の外の雪景色を見つめていた。
「春には、それぞれ別の場所にいる」
「でも」夏希がそっと続ける。「心は一つです」
授業が終わり、彼らは最後に美術室に集まった。机の上には、それぞれの合格通知書や内定書が並んでいる。
「さて」藤原が書類を整えながら言う。「私たちの新たな始まりだ」
夏希はカバンから五つの小さな包みを取り出した。
「みんなへの餞別です」
藤原には猫の形をしたブックマーク、森川にはカメラのストラップ、赤城には笑顔のキーホルダー、神崎にはコードが刻まれたペン。そして自分には、五人が描かれたレリーフだ。
「これで」赤城の声が少し詰まる。「ばらばらになっても、忘れないぞ」
「ばらばらではない」神崎が静かに言う。「私たちはプロジェクトチームだ。これからも続ける」
その時、ドアがノックされた。小林美桜が笑顔で立っている。
「先生が、最後のホームルームを始めるよ」
「行こう」藤原が立ち上がる。
教室では、担任の先生が温かい眼差しで彼らを見つめていた。
「君たちは、この一年で大きく成長した。それぞれの道で、その経験を活かしてほしい」
放課後、五人は校門の前で立ち止まった。雪はもう止み、弱い冬の日差しが差し込んでいる。
「ここで」藤原が深く息を吐く。「お別れか」
「違うよ」赤城が肩を組む。「新しい始まりだ」
「ああ」森川がうなずく。「私たちの物語は、まだ第一章が終わったところだ」
神崎が突然、スマートフォを取り出した。
「新しいプロジェクトの企画書だ。閲覧してくれ」
画面には、「遠隔感情共有システム」と書かれた資料が表示されている。
「これなら」藤原の目が輝く。「離れていても、一緒に働ける」
「もちろんさ」赤城は笑みを浮かべる。「俺たちの絆、簡単には切れないぜ」
夏希はスケッチブックを取り出し、今この瞬間を描き始めた。雪化粧した校門を背景に、笑顔で立ち並ぶ五人の姿。
「約束しよう」彼女が静かに言う。「たとえ離れていても、この絆を大切にしていくって」
「約束だ」藤原が微笑む。
「当然だ」神崎がうなずく。
「もちろん」森川がシャッターを切る。
「ああ、永遠にさ」赤城の声には温かい笑いが含まれている。
それぞれの道を歩み始める。藤原は心理学の道へ、森川は写真の世界へ、赤城はカウンセラーとして、神崎は技術者として、そして夏希は——彼らを見守る者として。
駅までの道で、五人の影が長く伸びている。夕日に照らされ、一つに重なり合うように。
美術室の窓には、誰かが置いていったレモンキャンディの包みが一つ。そしてその横には、小さなメモが添えられていた。
「また春に、ここで会おう」




