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過労死して高校時代に戻った私、『人生計画』を破り捨てた  作者: 朧月 華


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第18話 春雷


大学の心理学講義で藤原は突然顔を上げた。教授の「共感能力の神経基盤」という言葉が、神崎が直面している問題への解答のように響いた。


「…つまり、感情の伝達には言語以外の経路が存在する」


彼は講義中にも関わらずスマートフォンを取り出し、グループチャットにメッセージを打った。


「神崎さん。感情認識アルゴリズムに情動生理学のデータを組み込むべきでは」


一方、専門学校の暗室で森川は現像液に揺られる写真を見つめながら、あることに気づいた。赤城の笑顔の写真と、無防備な寝顔の写真では、目の周りの筋肉の動きが微妙に違う。


「…表情の偽装を識別できるかもしれない」


その夜、五人は初めてのオンライン会議を開いていた。


「データが足りない」神崎の声には疲労がにじむ。「感情を数値化する基準が不完全だ」


「待って」森川が写真データを送信する。「俺の観察を分析に活用できないか?」


赤城がカウンセリング実習で得た知見を共有する。


「相手の感情を理解するには、言語以外のサインが9割以上を占めるんだ」


夏希はそれぞれの意見を素描にまとめていた。一枚の紙の上で、五人の思考が見事に交差している。


「これだ」彼女の手が自然に動く。「私たちがずっと追い求めてきたもの」


突然、神崎の画面が揺れた。


「…しまった」

「どうした?」藤原が身を乗り出す。

「サーバーが過負荷だ」神崎の指がキーボードを疾走する。「想定以上のデータ量に耐えられない」


その時、夏希の携帯に祖父からのメッセージが届いた。実家の倉整理の写真とともに。


「この古いサーバー機、まだ使えるかね?」


彼女は息を呑んだ。前世で祖父が廃棄を惜しんでいた、あの高性能マシンが。


「みんな」夏希はカメラに向き直った。「解決策が見つかったかもしれない」


翌週末、実家の倉で五人は再会した。ほこりまみれのサーバーを囲んで。


「これは…十年前のモデルだが、性能は現行機に引けを取らない」神崎の目が輝く。

「おじいさん、これをくれるの?」赤城が驚いた声で聞く。


夏希の祖父が笑いながらうなずいた。

「好きにしなさい。ただし、条件がある」

「条件?」藤原が警戒する。

「この機械で、人の心を温めるものを作ることだ」


五人を見つめる祖父の目は、どこか彼らすべてを知っているようだった。


「約束します」夏希が深々と頭を下げた。


サーバーを美術室に設置したのは、三日後の夜だった。


「さあ、新しい始まりだ」神崎が起動ボタンを押す。

「待って」森川がカメラを構える。「この瞬間を記録したい」


モニターにプログラムが流れ始め、かつてない速さでデータを処理していく。


「すごい…」赤城が感嘆の声をあげる。「これなら、もっと複雑な感情も解析できるぞ」


藤原が心理学の教科片をめくりながら提案する。

「基本感情の分類を、もっと細かくしてみないか」


その夜、それぞれが持ち寄った知識と技術が、一つの形になり始めた。神崎のプログラムは森川の写真解析技術を取り込み、藤原の心理学理論を基盤とし、赤城の対人観察力を検証材料にしていく。


「できた」神崎の声は震えていた。「感情の『間』を認識できるアルゴリズムが」


夏希は完成したプログラムの前で、静かに微笑んだ。


プログラムは、笑顔と泣き顔の狭間にある、複雑で儚い感情までも捉えていた。


「これが…私たちの次の一歩」藤原が呟く。


窓の外では、春の嵐が去り、新月が顔を出し始めていた。


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