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15 腐れ縁というか、臭れ縁?

 ――――あれから、一週間が経過したある日のことである。その日は暖かな晴れの日で、酒場はいつものように喧騒に満ちていた。そして俺は、そんな店内で一人――――


「んぐ、んぐ、んぐ……っ」


「ほら、頑張りなさい! 全部飲み干さないと、ちゃんと効果が出ないわよ!」


「そんなこと言ったって、これ、滅茶苦茶臭いんだよ……」


「大丈夫、全盛期の貴方の口臭ほどは臭くないから! 頑張って最後までちゃんと飲みなさい!」


「……っ、ううっ! うがあああっっ!!」


「そう、その意気よ! やればできるじゃない!」


 ――――というわけではなく、フラン特製の口臭治療薬を彼女に見守られながら必死に飲み込んでいた。それはラフレシア・ヒュドラの体液をすり込み、その他様々な薬草やオイルなどをミックスした、まずい・くさい・喉につっかえるの三拍子揃った悪魔の秘薬。調合から何まで、全てフランの手によって行われたどろどろの液体を、俺は毎晩毎晩飲まされていたのだ。そう、フランに手酷く振られたはずの俺は、その実未だに彼女と行動をともにしていたのだ。


「……っ、はあ、はあ……」


 飲みきったころには汗がびっしょりで、俺は力なくテーブルに項垂れる。彼女はそんな俺の額をタオルで拭って、それから頭を撫でてくれた。


「良く出来ました。この調子であと一年この薬を飲めば、貴方の口臭は治ってるはずよ」


「あ、あと、一年……」


 遠い。あまりにも遠い。それでも堪えて頑張らなければならない。彼女にここまでさせているのだから、男である俺が折れるわけにはいかない。


「……水飲む?」

「あ、ああ、いただく……」


 なんでも後で調べてみると、ラフレシア・ヒュドラのエキスの中には臭気成分と同時に一定量の消臭成分が含まれていたらしく、これが全身に回ることで、体中から臭いの元が徹底的に断たれ、結果根治が可能になるということらしい。そして一応彼女曰く、この液体のおかげで俺の口臭はすこーしずつだが弱まってきてはいるらしい……まだまだ牛歩で、道は遥かに遠いのだが。


「大丈夫、安心して……匂いをしっかり直すまで、私がちゃんとケアしてあげるからね」


 そう。彼女があの場で俺の告白を断ったのは、別に俺のことが嫌いだからだとか、口が臭いからとはではなく――――まだ仕事が終わっていないから、ということだったのだ。自分に託された仕事がまだ終わっていないのに、気持ちを受け止めるのは正しくない。そう思って拒絶したらしい。そうならそうと、あの場で分かるように教えてくれたら……変なショックを受けずに済んだのになあ。


「匂いが治ったら……その時は、もう一度告白するからな!」


 水を飲み干すと、少し喉の調子が良くなった。俺は起き上がり、彼女に啖呵を切る。それを聞いて、彼女は優しく俺に微笑んだ。


「ええ、待ってるわ。その時ちゃんと口臭が治っていたら、ちゃんと受け止めてあげる――――でもまだ、今は駄目だから、調子に乗らないこと」


「……っ、分かってるよ……」


 そんなわけで、未だに俺の恋は叶っていない。告白が成功するまでは、あと一年はかかりそうだ。

 と言ってもまあ、彼女と一緒にいられることを思えば……今で結構、満たされた日々ではあるんだけど、さ。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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