第四話 父は有名人
「え、えっと……」
2人から同時に話しかけられたことで私は少し、戸惑っていた。
しかし、
「先輩の用事からどうぞ。」
という、兎鞠さんの言葉で落ち着きを取り戻した。
「あ、ごめんね……そんな大事な用事ってわけではないんだけど……さっき声荒げちゃったことを謝りたかったのと……」
玲ちゃんと呼ばれていた先輩は、歯切れの悪い話し方を始めた。
「それより自己紹介がまだだったね。私は、本堂玲。この部の副部長をしてます。楽器はクラリネットをしてて……」
またも歯切れの悪い言葉で更には私の目をチラチラと見てきている。
「その……本堂先輩、何か私の顔についてます?」
さすがの私もバツが悪く変なことを聞いてしまう。
一体何なのだろうか?この態度。
「いやぁ、実はね。私はクラリネットを10年くらいやってるんだけど、福井でクラリネットやってたら憧れるのは一人しかいないじゃない?」
なるほど?
どんどん、謎が解けてきた。
つまりこの人は……
「小鳥遊さんのお父さんて、あの"小鳥遊さん"なんでしょ?良かったらサインとか貰えないかなって……」
この先輩は、父のファンなのである。
私は話しが繋がり、納得の顔をしていたが、横にいた兎鞠さんは何が何やら分からない表情を浮かべていた。
「えっと君は……」
「兎鞠です。兎鞠楓です。」
「兎鞠さんね。実は、小鳥遊さんのお父さんは、有名なクラリネット奏者で県内だけでなく、全国、いや世界で活躍してる人なんだよ。」
もはや驚きとは別の引きつった顔で私を見てきた兎鞠さんだが、私は一旦置いとくことに。
「さっきの話ですけど、父は楽器をしてる人には誰にでもサインを書いてますから、クラリネット奏者の本堂先輩になら、尚の事、喜んで書くと思いますよ。今、家にいますし。聞いてみますね。」
私がそう答えると本堂先輩は嬉しそうな顔を見せかなりはしゃぎ始めた。
すごくクールな見た目の先輩だが、こういうところがあるらしい。
「玲〜」
そろそろ部活を始めたそうにしていた竜胆部長が本堂先輩のことを呼んだ。
「ほんとに?それならお願い。あ、あとさっきはごめんねぇ。」
呼ばれた本堂先輩は、かなり急ぎ気味で自分の席に戻っていった。
「………」
兎鞠さんが、何か言いたげな顔をしている。
「兎鞠さん?」
「敬語やめて楓って呼んでくれれば許してあげます。」
一体何を許してくれるのだろうか?
わからないが、少し不機嫌な顔をしているのはわかる。
「なんかわかんないけど、ごめん楓!!」
「許す!」
ほんとなんなのだろうか……
しかし、友達の少なかった私にとって初日から、こんなにも話せる人ができたのはうれしいことだ。
吹奏楽部にも早く馴染めそうだし、未来は明るい……
そう思っていた。
でも、私はまだ知らないのだ。
入部後あんなことになってしまうことを…




