第三話 天才と天才
「ここが、武理高校の音楽室かぁ。なんか普通だね。」
音楽室に着くと、兎鞠さんがそう呟く。いくら強豪と言っても県立高校だ。こんなところだろう。
「入ろっか。春香。」
兎鞠さんに連れられ音楽室にはいる。中には、部員の先輩達と見学の新入生であふれていた。
「すごい数だね。」
「そうですね……」
流石に強豪といったところか。先輩たちだけでざっと70人くらいは居る。
しかし、その中には今朝屋上で見かけた先輩の姿はなかった。
「そろそろ、見学の1年生達は集まったかな?」
そう言いながら先輩の一人が、前の指揮台に歩いてきた。
「あの人って……」
「そうだよね……」
新入生たちは、前に現れた先輩について噂を始める。音楽をしている同年代の中では彼女のことを知ってる人も多いのだろう。
最も吹奏楽で有名な訳ではないのだが……
「どうもはじめまして。私は、部長の竜胆花です……とその様子じゃ、私の事を知ってる1年生もいるのかな?まぁ普通に部長として接してくれればいいからね。」
彼女は、去年の全日本クラシック音楽コンクールのフルート部門、高校2年生の部で3位という成績を収めた人物だ。芸術高校生では無いにも関わらず、この結果は破格であり、県内のニュースや新聞でよく取り扱っていたのだ。
そんな彼女は、私の方を少し見たあと話を続けた。
「ねぇ今部長さん、春香の方見ていなかった?知り合い?」
「別に知り合いってわけでもないし、喋ったこともないんだけど、まぁお互い知ってはいる?みたいな感じかな。」
少し、先ほどの視線が気になりはしたが、私は兎鞠さんにそう返した。
「そこの1年、喋らない!!」
小声で喋ってはいたが、どうやら少し、迷惑をかけてしまっていたらしい。クラリネットを持った先輩が私たちに注意をしてきた。
私たちが悪いわけだし、怒られても仕方ない。
でもあの先輩、怖い……
「まぁ、落ち着いて玲ちゃん。それに小鳥遊さんたちも今は世間話なんかしてたら駄目だからね。」
「「す、すみませんでした。」」
私と兎鞠さんは声を合わせて謝った。
「それより、その1年生は部長の知り合いなんですか?」
きっと、竜胆部長が私の名前を知っていたことに疑問を持ったのだろう。先ほどの先輩が聞き返した。
「去年のコンクールのときに見かけただけだから知り合いってほどでもないんだけどね。彼女、一応去年の木管楽器部門、中学の部の1位だから。」
"ざわ、ざわ、ざわ"
竜胆部長の言葉で周りはざわつき始める。隣にいる兎鞠さんもマジか……って顔で見てきた。
私も一応、県内のテレビとかで取り扱ってくれてたんだけど、父親が凄すぎるせいでそっちにスポット当たってたし、知らなくても当然な訳で…
中学でもクラスメイトが誰も気づかない位には印象薄い感じの取り扱い方だったし。
「だからといって無駄口をたたいてて言いわけではないけどね。」
竜胆部長はそう釘を刺してきた。
隣の兎鞠さんなんかは、今にも私になにか言いたくて仕方が無いって顔をしてるけど一旦は保留だ。
「ちょっと話が逸れちゃったね。それじゃあ話を戻してうちの吹奏楽部について説明するよ……」
そこからは主に部活動方針や去年の成績(全国銀)などの説明、練習時間、活動場所といった具体的なことまで話してくれた。
今来てる新入生たちは、ほぼ全員が吹奏楽部に入るつもりで居るのだろうし、それくらいがちょうどいいのだろう。
「と、こんなところかな。詳しく聞きたい事があったら私のとこに来てね。それじゃあ入学式で疲れているだろうし、1年生はこれで解散。来週末の入部決定までは見学だけだからそのつもりで!」
「「お疲れ様でした!!!」」
新入生が声を合わせて挨拶をする。
私は少し遅れながらも釣られて挨拶をした。
ここにいる子たちは吹奏楽部経験者なのだろう。
運動部よりも運動部と言われる所以はこんなところにもあるのか……
さてと……
「春香!!」
「小鳥遊さん!!!」
一息つこうと思った矢先に、兎鞠さんと先程玲ちゃんと呼ばれていた先輩がすごい勢いで私に話かけてきた。




