↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『戦わないで生きたい俺、最弱のマナゴケに転生したので美少女たちにスキルを貸して経験値を徴収します』  作者: 浅入燈馬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/37

第13話 死の領域

 三日後、俺たちは森の奥へ向かった。


 アリシアの肩に乗るのも、もう慣れた。慣れたというより、諦めた。歩幅が違いすぎて、自力で歩くと日が暮れる。


「あるじさま、あっち。くさいにおい、する」


 ――ああ、俺にも分かる。


 魔素感知(中)が、森の奥から流れてくる濁りを捉えていた。進むほど濃くなり、ある地点で景色が変わる。


 緑が、消えた。


 木々は白く枯れ、葉の一枚も残っていない。地面は灰色にひび割れ、空気そのものが、うっすらと霞んで見えた。毒ガスと言われても信じる濃さだ。


「……あるじさま」


 アリシアの足が止まった。


「ここ、いや」


 ――大丈夫か? 息苦しいか?


「へいき。あるじさまのくれた、きゅうしゅうのちから。からだ、まもってる」


 貸与した魔素吸収(小)が、彼女の体で働いているらしい。濃すぎる魔素も、吸い込んで力に変えられるのだろう。


 俺のほうは、拍子抜けするほど何ともなかった。


 (マナゴケの体質か。魔素を浴びて育つ生き物だもんな)


     *


 奥へ進むにつれ、アリシアの様子がおかしくなった。


「……なにか、いる」

「みられてる、きがする」

「あるじさま、はなれないで」


 枯れ枝が風に鳴るたびに、びくりと肩が跳ねる。ついには、俺を両手で掴んで、胸の前に抱え込んでしまった。


 ――アリシア、これは……。


「はなれない。ぜったい」


 顔が、柔らかいものに埋まっていた。


 (ちょっと待て! これはもう歩きにくいとかいう次元じゃ)


 進化前は鱗だった。今は違う。暖かくて、むにゅりと形を変える、圧倒的なおっぱいの谷間だ。手のひらサイズの俺の顔面が、左右から挟まれている。


 ――アリシア、苦しい!


「あ、ごめんなさい。でも、こわい」


 ――こわいのは分かった! でも、せめて肩に戻してくれ!


「やだ」


 即答だった。


 (前世で三十二年、これを妄想し続けた俺が、なぜ今、素直に喜べないんだ)


 答えは明白だった。腕の主が、怖がって震えているからだ。幼竜だった頃の、あの震え方と同じだった。


 邪な気持ちは、ゼロではない。ゼロではないが、それより先に「守らなきゃ」が来る。そんな自分に、少しだけ驚いた。


 ただ、胸の谷間に埋まったままでは何も見えない。


 ――……魔素感知で歩くから、道案内は任せてくれ。


「うん。あるじさまのいうほう、いく」


 こうして俺は、胸に抱えられたまま、死の領域を進むことになった。


 シリアスな探索のはずだったが、絵面は完全にコメディだった。


     *


 どれほど歩いただろう。魔素の濃さは、ある地点から、明確な流れに変わった。


 一方向へ向かって、濁りが川のように流れている。その源は、奥の窪地だった。


 ――あの先だ。


 魔素の質を、意識して探る。


 ざらつく感触は、魔獣たちの濁りとは違った。もっと鋭く、刺すように酸っぱい。触れたら、皮膚が焼けそうな感じがする。


 (これは、悪意のある魔素じゃない。自然に湧いてくる毒のような……)


 うまく言えないが、誰かが企んで撒いたものではない気がした。魔獣を凶暴化させたのは、あの濁りとは別の、何かだ。


 窪地の縁に立った。


 眼下に、枯れ果てた泉が広がっていた。


 水は一滴も残っていない。ひび割れた底に、白い石だけが転がっている。


 そのほとりに、誰かが佇んでいた。


     *


 女性だった。


 二十代前半に見える。ふわふわと柔らかそうな蒼いロングヘアが、風のない空気の中で、ゆるやかに揺れていた。背筋をすっと伸ばし、泉の底を見下ろす横顔には、憂いが滲んでいる。


 優雅、という言葉が、これほど似合う人を初めて見た。


 肌は白磁のようで、傷一つない。こちらへ振り向いた瞳は、深海のように静かな蒼で、目尻が少し下がっていた。


 そして、目のやり場に困る要素が、二つあった。


 ゆるいタンクトップが、圧倒的な質量を支えきれていない。首元は深く垂れ、脇の隙間からは、横乳の丸みがちらりと覗いていた。動くたびに、生地が今にもずれそうで、視線が勝手に吸い寄せられる。


 (G……いや、Gはあるな。あのおっぱいは、危ない。存在そのものが事故だ)


 薄い水色のミニスカートは、プリーツが揺れるたびに、太ももの付け根近くを危うく見せる。網目の荒い白のハイソックスが、その脚線をさらに際立たせていた。


 (落ち着け。落ち着け俺。今は調査中だ。あそこにいるのは、酸性の魔素を漏らしている存在かもしれないんだぞ)


 自分にそう言い聞かせながらも、視線は三秒ごとに胸元へ戻る。前世の三十二年分の修行不足が、こんなところで露見した。


 その隣で、アリシアが低く唸った。


「あるじさま、みすぎ」


 ――え、見てない。


「みてる。おくちが、ぽかんって」


 ――口はない。


「かおが、そういう、かおしてる」


 バレていた。


     *


 女性は、こちらに気づいたようだった。


 蒼い瞳が、ゆっくりと見開かれる。驚いたというより、恐れに近い色だった。


 彼女が一歩、後ずさる。その足元で、枯れた地面が、じゅ、と音を立てた。


 白い煙が立ちのぼる。石の表面が、ぼろぼろと崩れていった。


 彼女自身は、何もしていない。ただ、そこに立っているだけだ。


 (酸だ。あの人の身体から、酸性の魔素が漏れてる)


 魔素感知が、はっきりと告げていた。この窪地に満ちた酸っぱい魔素の源は、この女性だ。


 彼女は、細い指で自分の胸元を押さえた。何かを恥じるように、あるいは、耐えるように。


 枯れた泉のほとりで、蒼い髪だけが、ゆらりと揺れていた。


 俺たちは、警戒しながら、一歩を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。