美少女:ココ
全裸であっても少女にはココと同じふわふわの茶色い耳と尻尾がついているから、それがココであると分かってしまう。
「裸は犯罪だ!?」
「まっ、まものが人に? あ、ありえない」
少女の裸なんて犯罪でしかない。茫然自失のフィオルはバタンキューとその場に倒れ込んで、ナラは走ってココに駆け寄る。
「こ、ココちゃん!? ハレンチです! イグニスさんは見ないでください!」
「ごっ、ごめん!」
イグニスは何に謝っているかも分からずに、咄嗟に振り向いてココへ背を向ける。
「わんわん!」
「ココちゃん、裸でイグニスさんに飛びついちゃダメ!」
後ろでバタバタという物音がすごく聞こえるので、ナラは頑張っているのだろう。何をどう頑張っているかは見えないが音で何となく分かる。
「きゃうん」
「だから、服をきて! どうしよう、尻尾でお尻が見えちゃう!」
ナラは人型になったココに服を着せようとしているが、犬の中には服を嫌がる子もいる。というか、人型になった犬はもう犬ではないような……人の姿で犬のように吠えているのも結構問題では。
ナラの声を聞くに今の問題は尻尾が服に収まらないことらしい。
「あー、ココ。尻尾は人間についてないよ、俺の尻にもついてないだろ。
もし、しまえるなら、しまうとか消すとかできないか?」
イグニスが後ろを見ずに言うと、軽い衝撃とともに後ろから誰かがイグニスへ飛びつく。
「ココちゃん!? その格好でお尻の匂いを嗅いじゃダメ!」
少女の姿をしたココはイグニスよりもずっと身長が低い。背中にクンクンと押し付けられた鼻は迷いなく尻へと向かっていくが、下手に止めようと手を伸ばせば変なところを触ってしまうかもしれない。
今はココの姿が見えないが、絵面を想像すると犯罪でしかないので、イグニスまでフィオルのように倒れてしまいそうだ。
「ココ、離れてくれ。ナラ、頼んだ」
「ほら、ココちゃん! 服を着よう、ねっ!」
ナラがココを連れて行ったのだろう。背中にあたっていた鼻息とささやかな胸の感触が離れて、くぅーんという悲し気な声が聞こえる。
「わぉーん!」
「尻尾がなくなった!? しまえるの? じゃあ、そのまましまっておこうね」
声でしか想像できないが、多分ココの尻尾が消えたのだろう。いや、尻尾を消せるのも驚きではあるのだけれど、もう驚きすぎて何も言えない。相変わらず後ろではクゥーンとかワンとか、じっとしてとか、色々な声や音が聞こえる。
「はぁ、はぁ。いっ、イグニスさん。振り向いていいですよ」
ぜーはーと息を切らしたナラの言葉に従って、イグニスは振り向く。
衝撃がすごすぎてきちんと姿を見ていなかったが、冷静に見ると犬耳が生えた美少女が立っているようにしか見えない。見かけだけでいうなら10歳前後だろう。ふわふわの耳だけは際立って異様だが、それ以外は人間と同じ姿をしている。茶色い髪に大きな黒い瞳、褐色の肌としなやかな手足。
人間の耳もあるが、犬耳もあるので、多分どちらかは姿を真似ただけのお飾りなのだろう。そもそもココは犬の姿の時からトイレをしていないので……人間としての機能がどこまであるのかは疑問だ。
ナラの服をとりあえず着せられているが、大きさは当然あっていない。ナラの服では大きすぎるのだろう、余った肩の布はずり落ちないように針で仮留めされている。あの騒ぎの中で服のサイズを調整できるナラはすごい。
「ココであってるのか?」
「わん!」
犬の時と同じに発音しているつもりだろうが、人間と犬では喉の形が違う。ままごとで犬の真似をしているような間抜けな声を出している少女はイグニスへと真正面から飛びつく。
「ああ、俺たちが姿を変えられないか聞いたから頑張ったんだろう。偉いよ」
ぎゅっと抱きついている少女の姿をしたココの頭を撫でる。ふわふわした耳はともかく、髪の毛は普通に人間のそれだから、イグニスはちょっと気が遠くなった。
わんわんと吠えて人語を話せない犬耳が生えた少女というのは、もうどう扱えばいいのか分からない。別にココが悪くないのは分かるが、イグニスたちは少女にわんわんと言わせている変態にしか見えない。
「……どうしましょう?」
途方に暮れたナラに、イグニスも無言で応える。どうしよう、当の本人はイグニスに撫でられてご機嫌に笑っている。イグニスは少し考えてから、口を開いた。
「布や帽子で耳を隠せば、人間に見える。犬の姿だと入れない場所だけで、この姿になってもらえれば」
「なっ、なるほど? 魔物に被害が大きかった街なんかだと、確かに……ええっと、そのためには服と帽子を用意しておいた方がいいですね」
その際は少女に犬の真似をさせている変態という称号を甘んじて受けよう。
イグニスたちがとりあえずの方針を決めたところで、倒れていたフィオルが目を覚ましていた。
「私はなんて悪夢を」
「残念ながら、それは夢じゃなくて現実だ」
犬と同じ感覚で過ごしている少女の姿をしたココが抱っこをねだるが、流石にナラへ構ってもらうように誘導する。
フィオルはあんぐりと口を開けて、これは夢だ、そうに違いないと願望を呟き始めた。
「ココは少女の姿になった、こっちが現実だ」
「馬鹿なことをいうな!! 魔物が人の姿になる訳がないだろう!」
けれど、なったものはしょうがない。少女の姿をしたココは、ナラに手を繋いでもらった状態でくるくると回っている……本人は犬の気分のままだ。
「魔物が人になってみろ!? もし、この先に同じような魔物が現れて街中に入り込んだら!?
……ギルドになんて報告したらいいんだ」
「ココは耳が生えているから、完全に擬態できてる訳じゃない。門番で気づくし、魔物にそこまで高位の知能はないだろう」
「そういう問題じゃない!」
そうは言われても、イグニスとしては頑張ってくれとしか言えない。イグニスの応援に、フィオルは頭を抱えた。
フィオルの苦労を知らずに、ココは人間の姿が新鮮なのか喜んでいる。喜びすぎてナラの顔を舐めようと飛び跳ねるので、イグニスは間に入って止める嵌めになった。
少女の姿はしているが、今のココはナラより力が強い。イグニスなら止められる程度だし、本当にナラが嫌がっていると分かったらココも止まるが。
多分、暫くこの姿になってもらうことはないだろうから。イグニスはココの気が済むまで遊びまわるのに付き合った。




