スタンピードの呼び声
ダンジョンのボスが増えているのは厄介だったが、ボスのオークが落とした素材は結構なお金になった。まだ魔法石がついた水筒を買うには微妙だが、使ってしまったポーションを一本買い足せた。
ナラとイグニスで一本ずつポーションを持っているので、緊急時にも困らない。
フィオルは一応冒険者ギルドにココの巨大化や人化?を伝えてくれたらしいが。冒険者ギルド本部からは、人に危害を加えないなら放置という回答があったらしい。
「街の中では大きくなったり、人になったりするな。分かったな?」
「ああ」
疲れた顔で忠告したフィオルに、イグニスはちょっと悪いことをした気分になった。まあ、当のココは何も気にしていないが。いつもの犬の姿に戻ったココは元気に過ごしている。
それにココは無邪気に善意で動いているだけなので、全ては飼い主のイグニスの責任である。ゴムよりも更に伸縮性のある魔物由来の謎素材を使って、ココの首輪は新しくなった。これで大きくなったとしても千切れたり失くしたりすることはないだろう。
グラナードにはイグニスたちのような低ランクの冒険者が多い。周辺の魔物もダンジョンボスのオークを除けば大して強くないし、クエストのDかEのものが多い。
「次のクエストが終わったら、別の街に行かないか」
だから、早朝の宿屋で自然とイグニスはナラへと相談していた。イグニスとナラはまだEランクだが、次のクエストを受けたらDランクへ上がれるとギルドで言われた。ランクが上がったところで移動するのは、いいタイミングだろう。
「そうですね、明日のサバイブで違う街のことを聞いてみましょうか」
ナラが頷いたので、移動は決定したようなものだった。今日のココはあんまりやる気が出ないらしい。ご飯も食べるし体調が悪い訳ではなさそうなので、単純に機嫌が悪いのだろう。雨が降っているからかもしれない。
雨の中で行動するのは大変だ。靴も剣も水や泥で汚れてしまうし、後で洗い流すのも手間だ。ココに雨除けのマントをつける。
『クゥーン』
「そんなに嫌なら、一人で待ってるか?」
絶対嫌だとでも言うようにココが突進してきた。分かった分かったとココの頭を撫でる。外から聞こえる雨音が激しくなるが、雷の音は聞こえない。
「嫌な雨ですね」
珍しくナラが眉をひそめた。ナラは不機嫌を表にしないタイプだから、そういう表情は珍しい。
「いいクエストがなかったら、今日はダンジョンに潜ってもいいかもな」
この雨だからこそ貼り出れているクエストもあるかもしれないが、雨を避けてダンジョンに潜ってもいい。地下のダンジョンは地上の天候の影響を受けない。
雨具を身に着けたイグニスたちは外へと一歩踏み出す。ぬかるんだ地面の感触と打ち付ける雨に、イグニスは後で武具を乾かすことを内心で誓った。
通い慣れた冒険者ギルドに入ると同時に並んだクエストを見る、必ず受けたいというクエストはない。ギルドの床板は濡れていた。
イグニスが今日はクエストを受けないでおくか、そうナラに相談する前にギルドの扉が豪快に開かれる。
バタンという大きな音とともに扉を壊す勢いでドアが開かれ、人影が屋内に入り込む。ギルドの紋章が入ったマントを羽織った男は、はぁはぁと息を切らしながら精一杯の声で叫んだ。
「スタンピードが起きた!」
男の声で誰もが動きを止めた。ギルドの時は一瞬止まったようで、次の瞬間には受付の奥から飛び出したフィオルが男に駆け寄る。
「どこで起きた!?」
「らっ、ラディウスだ……俺は、救援を呼べって」
険しい顔をしたフィオルがギルド中に響く声で叫ぶ。
「緊急クエストを発令する! 手が空いている冒険者を集めろ!」
イグニスはナラとココへ視線を向ける。目線を合わせたナラは頷いて、ココはちょっとやる気が出てきたのか尻尾を振った。




