ココ、変身!
ダンジョン近くの見張りは、イグニスたちへ一枚の紙を手渡した。
「戻ったら、これをギルドへ渡せ」
そこにはグラナードのダンジョン踏破という文字と共に冒険者ギルドの紋章が描かれていた。
「分かった。ダンジョンボスが、オークが3匹に変わっていることをこれから入る冒険者へ伝えてほしい」
「はぁ!? オークが3匹いて、生きて帰れる訳がないだろ!」
さっきまでの態度が嘘のように驚いている見張りへ、ポケットから3つの魔石を取りだして見せる。
「確かに3匹いた、これはオークが落とした素材だ」
イグニスが見せた証拠に見張りは息をのんだ。
「……ギルドから正式な連絡がきたら、伝えてやる」
見張りは顔を歪めた、不確定な情報を勝手に伝えないというのは組織の人間として正しいかもしれない。けれど、犠牲者が増えるのは望ましくない。
イグニスはココを抱いたまま早足で冒険者ギルドへ向かった。
街へ入る際に見慣れた門番がいたのでココは降りて遊びたがったが、今は急いでいるので我慢してもらう。冒険者ギルドの受付に直行すると、さっき貰った紙を出しながら伝える。
「ダンジョンのボスが3匹に増えてる、オークが3匹だ」
受付にいたのは、最初に冒険者登録をしてくれた妙齢の女性だった。
「はぁ?」
イグニスの言葉をナラが補足してくれる。
「私たちはさっきダンジョンのボスを倒したんですけど、オークが3匹いたんです。
みなさんそれを知らないだろうから、ギルドから周知してくれないでしょうか」
「幻覚でも見たんじゃないのか。アンタら、Eランクの冒険者がオークを3体も倒せる訳がないだろ。
さっさと冒険者カードを出しな」
とりあえずイグニスとナラは自分たちの冒険者カードを出す。冒険者カードの下部分には踏破したダンジョンとして、グラナードのダンジョンが追記された。
「いや、事実だ……これが、オークが落とした素材だ。
それと従魔について報告と聞きたいこともある、ギルドマスターのフィオルを呼んでほしい」
カウンターにおいた3つの魔石に女性は目を開いてから、奥へと引っ込む。受付の奥には木製の階段が見えていたが、その階段を女性が昇っていく。
そして、入れ替わりにやってきたのは金髪で眼鏡をかけてギルドマスターのフィオルだった。
「また厄介ごとか」
女性の代わりに受付へと立ったフィオルに、オークの増殖はこちらの責任ではないと内心で文句を言う。なお、ココの巨大化はまあ……誰の責任でもないということで。
再度オークが増えたことを言えば、フィオルは眉間にしわを寄せて最悪な周期だと呟いた。どうやらこちらの言うことを信用はしてくれたらしい。
「冒険者ギルドは積極的に情報を広めない。周期による変更は精確な情報を掴むのが難しい。
それは冒険者同士の横の繋がりで共有されるべきだが……ボスが3倍はよくない。
ギルドでも貼り紙とある程度の声かけはするが、お前らが勝手に作った横網で広げろ」
「サバイブのことを知ってるのか?」
「ギルド内で大声で宣伝されれば、嫌でも耳に入る。それで、従魔がどうした?」
「大きくなれるようになった……実際に見せた方が早いな、一緒に裏に来てくれるか」
ちなみにココはずっとイグニスに抱かれたままだ。犬を抱きかかえて他人と話すのは変に見える気がするが、ギルド内でそれを突っ込む人はない。今はきちんとした首輪をつけてないので、リードをつけるのが難しい、降ろす訳にもいかない。
「大きく? お前は何を言ってるんだ」
疑わしいものを見る視線は当然の反応だった。イグニスは付いてきてほしい、再度そう告げて歩き出す。ナラはお願いしますと隣で頭を下げた。
フィオルはこっちも暇じゃないんだと言いながら、他のギルドの職員に指示をする。それから、イグニスたちと一緒に冒険者ギルドの裏に広がる小さな広場へ向かった。
若手冒険者たちの集まり、サバイブでもよく使うことがある広場でココを地面に降ろす。
「ココ、大きくなれるか?」
『ワン!』
見せてやるとでも言うかのようにココが吠えると、その姿はどんどん大きくなっていく。そして、オークたちと戦った時と同じ大きさになったところで、姿が固定される。
「はっ、はあっ!?」
ココの尻尾がぶんぶんと揺れて、土煙が巻き起こる。砂が口に入ったのだろう、驚きで口を開いていたフィオルがごほごほと咳き込む。
「すごいな、元の大きさに戻れるか?」
『クゥーン』
せっかく大きくなったのに、褒めてもらえないことを残念に思ったのか、ココは悲し気な声を上げる。
「いや、違う。大きくなってくれたのは助かったけど、フィオルに見てもらいたかっただけだから、元に戻ってほしい」
イグニスがピョンピョンと飛び跳ねてココの背中を撫でるように軽く叩けば、褒められたことは分かったらしい。
ココの身体がどんどん小さくなっていって、元の大きさに戻る。そういえば、首輪のことを忘れていた。また紐が千切れてしまったので、落ちている紐を結び直して鉄のプレートと共にココの首にかけ直す。
「ココは伸縮自在になったし、大きい状態ならオークも倒せるぐらい強い」
褒めてくれと突進してきたココの身体や頭を撫でる。ココは本当に偉いよ、そう話しながら撫でていると尻尾をぶんぶんと振って喜んでいる。
「あの、ココちゃんは確かに強くて偉いんですが。それはそれとして、私たちにも理由が分からないですし、知らない人が大きいココちゃんを見ると魔物と間違えられるかもしれません。
ギルドで何か知らないでしょうか? あと、大きくなっても従魔として認めてもらえますか?」
ナラはイグニスよりもずっと社交的で交渉が上手い、聞き損ねたところを汲み取ってくれる。頭が痛い、そう言うかのように両手でフィオルが頭を抱える。
「ギルドでそんなこと知る訳がないだろ!!」
まあ、一理ある。元々、従魔の存在自体が知られていなかったようなので、これは無茶ぶりだろう。
「大体、変身するなんて。他に変身することはないんだろうな!?」
フィオルは何を言っているのだろうか。大きくなる以外の変身なんて……いや、まず大きくなること自体をイグニスたちも知らなかったので、まだ隠された変身もあるのかもしれない。
「ココ、他に姿を変えられたりするのか? その、例えば小さくなったり、人の姿になったり?」
イグニスは膝をついてココのつぶらな黒い瞳と目を合わせる。そして二人はじーっと見つめあう。
「あの、流石に他に姿は変わらないんじゃないですか? 確かに、人の姿になってもらえると一緒に行動しやすいかもしれませんが」
『ワォーン!!』
何かを決したようにココが遠吠えをする。高く、大きく、街全体にまで響くような声だ。
同時に、ココの姿が光に包まれる。眩しさに思わず目を閉じる。
そして、光が収まって目を開いた時。
ココがいた場所には、獣の耳と尻尾が生えた全裸の少女が立っていた。




