生き残るために、サバイブ
足元から生えてくる土の針を、地面を蹴って後退することで避ける。避けている間も魔力を練り続ける。ナラが次の魔法を繰り出す前に、イグニスが作り上げた炎が具現化する。
『ファイアボール』
イグニスの頭上、空中に3つの炎の塊が浮かび上がる。三つの火の玉がナラへ向かって飛んでいくが、速さが足りない。
初めて使っているので上手くいかなかった、次は素早さを重視しようと思い直す。
「ファイアボールってあんな魔法じゃなかったよな!?」
観衆がざわめいているが、それはイグニスとナラには関係のない声だった。
魔法を避けようとナラが走り出すが、回避が間に合わないと悟ると土の壁を作り出して身を守った。魔法の発動速度が速い、簡易的な土の壁は炎に当たっても形を残している。
「魔法ってあんなに動きながら早く使えるのか?
というか、ファイアボールって手の平から火の玉を放つ初級魔法だよな!?」
イグニスはナラへと向かって走り出す、魔法使いは近距離が苦手だ。距離を詰められたら死ぬと思っておいた方がいい。
ナラは以前よりも近い距離、魔物がすぐ近くにある状態での戦い方を熟知している。素早く魔法を使って距離をとるか、幾つかの攻撃を避けながら魔法を使って仕留める。その二つで弱い魔物なら距離を詰められても勝てるようになってきている。けれど、それは弱い魔物の話だ。
『アースパレット』
ナラの声とともに、ナラの周囲に複数の土の塊が浮かびあがる。それはイグニスへ向かって一つずつ射出されていく。
「当たると痛いですよ!」
「それは嫌だな」
土の塊が結構な速度で的確にイグニスへ向かって飛んでくる。イグニスがそれを屈んだり、転がったりして避けていると、ついに両横から二つの塊が同時に飛んできて挟まれた。
掴んでいた刀を自身の周囲で一回転するようにして、二つの土の塊を一閃でまとめて斬る。これは回転斬りといえばいいのだろうか。初めて刀をこういう風に使って、だから、こんな使い方もあるのかと内心で驚く。
「もしかしてナラちゃんって規格外の魔法使いだったりする?」
リカルドがグリドに聞いて、グリドは今更気づいたのかと呆れていた。ナラはいつだって、イグニスに新しいことを教えてくれる。
「もっと大きく、もっと早く、もっと強く。打ち破るだけの力を!!」
ナラの声とともに頭上に大きな土の塊が出来上がっていく。どんどんその土は大きく膨れ上がっていき、そして。
「流石にそれにあたると死ぬ」
魔法が完成する前にイグニスはナラの元に辿り着いて、刀を彼女へ突きつけた。ナラは杖で刀を払おうと試すが、当然ナラの力で動く訳がない。力負けしたナラは肩を落とす。
「イグニスさんにはまだまだ叶いませんね」
「いや、ナラは充分強いよ。それに、もっと威力が強い魔法を試すのはいいことだと思う」
そう言いながらもイグニスは持っていた刀を鞘へと収める。
「魔法を使うのは難しいな、俺ももっと使い方を練習しないと」
「動きながらだとズレるのは仕方ないとは思いますけど。私も近距離で素早く魔法を使えるようにしないと」
イグニスとナラが話していると、まだ疲れているのかヨタヨタとしているリカルドが近寄ってきてイグニスの肩を叩く。
「二人ともすごいぞ! また俺たちとも手合わせしてくれ」
他の若い冒険者たちも、座り込んだまま俺たちも!そう声をあげた。ナラが頷いたので、イグニスも口を開く。
「情報交換も含めて、定期的に集まらないか。例えば4日に一度程度で、クエスト途中なら来られないこともあるだろうから、参加できる人だけ。
もちろん、新しい参加者が増える分には構わない」
「えーっ、いいなそれ!! すごく助かるかも、魔物の特徴とか素材とか分からなくて困ることもあるしな」
リカルドはすぐに賛成して、グリドは静かに大まかな時間を決めようかと頷いた。
リカルドとグリドが中心に、他の冒険者たちとも話して細かい開催頻度と日程を決める。イグニスは決まった日取りを木の板に書いていく。
「名前を決めようぜ! 最強を目指す会とかでどうだ?」
「最強を目指してない奴だっているだろう、そのまま冒険者の集会ぐらいでいいんじゃないか」
リカルドの言葉にグリドが冷静に返すが、他の冒険者がそれだとカッコよくないと言う。カッコよさが重要なのだろうか。まあ、『冒険者』と名前をつけると、参加していない熟練の冒険者からクレームが入るかもしれない。
「集まることで、みんなが無事でいられるといいですね」
ナラの願いは理想論かもしれない。けれど、イグニスも同じように思う。門番たちやダンジョンの見張りが、冒険者はすぐに死ぬと言っていた。確かに一歩間違えると死ぬというのは間違っていない。
「生き残るだと、サバイブぐらいか」
「サバイブってかっこいいな! それにしよう」
他の冒険者たちも賛成のようだった。イグニスは木の板の一番上にサバイブと書いて、広場の近くにある木に紐で括り付ける。これで目印になるだろう。
グリドに預けていたココは、すっかり眠ってしまっていた。イグニスが声をかけてもまたウトウトしているので、そっと起こしすぎないように抱き上げる。
そうして、イグニスはココを抱いたままナラと一緒に宿へと戻った。
若手冒険者たちの集まり、『サバイブ』はその後も続いていく。初めはイグニスが剣の扱い方を指導したり、ナラがスキルがなくても魔法が使える様子を実践したり、リカルドやグリドが中心になって魔物やクエストの情報を共有していたけれど。
イグニスたちがいなくなっても、『サバイブ』で世話になった冒険者がスキルのあるなしに関わらずに新人たちを誘って、習慣は引き継がれていく。
その結果、グラナードの街は他と比べても冒険者たちが死ににくい街として、冒険者ギルドに認識されるようになった。小さな一歩は確実に広がっていった。




