新たなる異端者
冒険者ギルドに犬のことを確認してから、返答を待っている間、イグニスとナラは街の近くで犬と一緒に夜営することになった。犬が1匹でいたら魔物と間違われて攻撃されそうだけれど、犬は冒険者ギルドから許可が出ないと街に入れない。
ナラだけでも宿に泊まればいい、そう話したが義理堅いナラは首を横に振って、一人で必要なものだけ街から取ってきた。
前世で犬は出かける際には首輪とリードをつけていた、ナラにそう話せば街で必要なものを見繕ってくれた。茶色いベルトの長さや金具を調節して首輪に変え、丈夫な紐に金具をつけて首輪に引っ掛けられるようにする。
出来上がった首輪をつける時、犬は大人しくしていた。やっぱり人に飼われたことがあるのだろう、リードをつけて散歩の練習をすれば、きちんとイグニスを見上げてペースを合わせながら歩いてくれた。
ブラシで犬の毛を梳いて汚れを落とし、伸びた爪をナイフで削る。抱きかかえて爪を削るのは怯えていたが、それでも犬は暴れずに情けない声を上げるだけだった。
「よく我慢したな」
大人しくしていた犬を褒めれば、犬はやっと解放されたと言わんばかりに周囲をうろうろとする。その内、犬の身体を洗ってやらないといけない。きっと当の犬は嫌がるだろうが、長い毛は汚れがつきやすいので仕方ない。
近くで野営していることを門番たちに伝えていたので、翌々日にはギルドマスターのフィオルがイグニスたちの下まで来た。部下を使わずに自分で来るのは偉いと思う。
「冒険者ギルド本部から通達がきた。その魔物を人間に従う魔物、従魔として認める。その魔物の名前は?」
「名前か」
犬はイグニスを見てニコニコと笑っているような顔をしている。目が合ったナラは頷いた、イグニスが決めろということらしい。自然とイグニスの頭に犬の名前が浮かび上がる。
「ココア、じゃない。『ココ』でどうだろうか」
『ワン!!』
それが自分の名前だとでも言うように犬が吠える。つい、イグニスはココでいいかと犬にもう一度聞いた。また犬が吠えて近寄ってきたので、本犬も納得しているようだった。
「イグニスの従魔『ココ』として登録しよう。ギルドカードに付け加える、後で冒険者ギルドにくるように……街にも通達はするが、ある程度の混乱はある。イグニス、お前が従魔が暴れないように監視しなさい」
「それはつまり、俺がココを飼育するということか? 勇者が従えた魔物はココと同じ姿をしていたのか?」
「他に誰がいる? 連れてきたものが責任をとる、当然のことだろう。
勇者の伝承に確かに従魔を連れていたという記載はある、但し当時の記録は姿形を鮮明には描いてない。
冒険者ギルドはそれを暫定として従魔として扱うが、人間を傷つけたら取り消して単なる魔物として駆除する必要がある。ゆめゆめ忘れるなよ」
フィオルは言うことは終えたとばかりに、背を向けて街へと戻っていた。
ナラはイグニスとココを見て微笑んだ。冒険者なんて危ない職業だ、犬を安全に飼える環境ではない。街中で飼ってくれる人を探した方がまだ安全に過ごせるのではないのだろうか。
「ココちゃんはきっとイグニスさんに会いにきて、一緒に過ごしたいんだと思います。
だって、こんなにかわいい子がイグニスさんを助けるためにシルバーウルフに立ち向かったんですよ?」
『ワン!』
イグニスの不安をナラが見抜く。ナラの言うことに賛成するかのようにココは吠えた。
こんなの人間のエゴでしかない。犬はもっと安全なところで過ごすべきだ、生きるか死ぬかの世界なんて犬のような可愛くてふわふわとした犬には似つかわしくない。それでも。
「ココ、俺たちと一緒にきてくれるか?」
『ワン!』
犬はこの世界で存在しないはずの生き物で、イグニスたちと同じ異端だ。イグニスたちは女神の加護を受けない、この世界の常識から外れてしまった生き物だ。
だから、イグニスはココに首輪とリードをつけてから抱き上げて、ナラと一緒に冒険者ギルドに向かった。
「きゃーーっ!! 魔物が、魔物がいるわ!!」
「魔物がなんで抱きあげられているんだ!?」
街中に入った途端に悲鳴や困惑の声が広がる。ナラは先導してイグニスたちが通る道を確保して、従魔だから大丈夫だ!とイグニスは声を張り上げ、ココは舌を出しながら尻尾を振っていた。
冒険者ギルドに入れば、流石に周知はされていたのか誰も大きな声は出さなかった。但し、ギルド中の視線はココに釘付けだった。イグニスが受付にギルドカードを差し出すと、『従魔 ココ』と付け加えられた。
「あと、これは従魔の見えるところにつけな」
ギルドの受付は声を震わせながら、イグニスへと小さな穴が空いた手の平サイズの金属のプレートを渡した。それには冒険者ギルドの紋章と『これを従魔として認める』と書かれていた。
一旦ココを地面に降ろして、首輪の金具にプレートの穴を引っ掛ければ、上手くくっついた。
「これからよろしくな、ココ」
『ワン!』
吠え声にギルドの受付は短い悲鳴を上げて、奥へと引っ込んだ。ギルドの中にも殺気立ち始めた冒険者がいたので、慌ててココを抱き上げて冒険者ギルドを出る。
なお、泊まっている宿にココのことを伝えれば、1名分料金を増やしたら泊まらせてくれるとのことだった。財布的には痛いが、得体の知れない生き物を置いてくれるだけ有情ではある。
ココが仲間になったことをナラはすごく喜んで、もふもふの身体を撫でた。




