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ダンジョン探索⑤

 

 グラナードの宿屋やラグナ武器屋でダンジョンについて聞いたところ、ダンジョンには『周期』というものがあると分かった。冒険者たちはダンジョンに潜ると自分たちでマップを作成して、帰り道を確保したり、宝箱を探したり、更に深いところに潜っていったりする。


 けれど、ダンジョンは定期的に中身を一新するので、その度に地図は作り直しになる。地面が揺れるような大きな音がしたら合図で、宝箱や魔物に分かれ道に奥へと潜る道、内部の構造が全部入れ替わってしまう。

 ダンジョンに出てくる魔物の種類は基本的には変わらないが、稀に新しい魔物が出現するようになったり、今までいたはずに魔物がいなくなったりするらしい。宝箱の中身も恐らくこのタイミングで補充されている。


 ダンジョンの中身が変わる周期がいつやってくるのかは定かではない。忘れた頃に周期がくることもあれば、数日で周期がくることもある。その度に地図を作り直して、探索は一からやり直しになる。


「周期って、一からやり直しか!? やってらんないな!」


「……俺たちにダンジョンはまだ早かったかもしれない、出直すか」


 リカルドはがっくりと肩を落として、グリドは冷静にダンジョンからの撤退を考えているらしい。イグニスは聞きそびれていたことを思い出す。


「虫のような魔物とゴブリンは一緒に遭遇したのか?」


「グリドが怪我しちまって逃げることにしたんだけど、最悪なことに走ってる途中で魔物同士が合流してな。まとめて二つの集団に追いかけ回されたんだ。3匹より多くは遭遇したことないよ」


 リカルドの発言に頷く、想定通り3匹が最大らしい。もっと奥に潜ったら数も変わるかもしれないが。


「あの、イグニスさん。一旦、私たちもダンジョンから出ませんか?」


「ああ、そうしよう。元々、今回は様子見のつもりだったし、雰囲気は充分掴めた」


 ナラの様子を見るに二人のことを心配しているようだった。冒険者はよく死ぬし、生き残れるかどうかは運もある。イグニスとナラが声を聞きつけ助けに入った時点で、彼らは非常に運がいい。


「なら、ここを出るまで仮のパーティーを組んでくれないか? 

 俺たちを助けてくれた二人が一緒に行動してくれたらすごく心強いからな!」


「……もう充分助けられた、リカルドの言うことは気にしないでくれ。」


 出口まで同行するぐらいなら、イグニスとしては問題ない。ナラへと視線を向ければ、こくりと頷いた。


「出口に着くまでなら構わない。前衛のイグニスだ、剣と刀……長物を二振り使い分けて近距離で攻撃する。

 他と即席の連携は得意じゃないから、出来れば先に斬りこませてほしい。」


「ぜひ一緒に行きましょう、お二人の話も聞きたいですから。ええっと、後衛?のナラです。改めてよろしくお願いします」


 イグニスとナラの言葉に、リカルドは大きな笑顔で頷き、グリドは気まずい顔で頭を下げた。




 イグニスは一人で鍛錬していたことが多かったし、実力差のある他人と連携するのはそこまで得意じゃない。宣言した通り、イグニスが先頭を歩いてダンジョン内の細い道を歩いていく。


「言いそびれていたが、その剣は刃こぼれしている。鈍器として使うならいいが、剣としては使えないと思った方がいい」


 リカルドの持つ長剣は折れてはいないが、刃は駄目になっている。打ち直すよりは買い直した方が早いだろう。本人も分かっていたのか、やっぱりダメかと自分の剣を見つめる。


「リカルド、交換しよう。スキルがあるお前がこっちを持った方がいい」


 唸りながらグリドと剣を交換したリカルドは、好奇に満ちた顔でイグニスを見る。


「鈍器っていうけど、もしかしてイグニスって剣を鈍器として使ってるのか?」


「……こっちの大きい剣は、そういう使い方も含んでいる。切るだけじゃなくて、殴りつける。その方が便利な時もある」


 複数の相手をまとめて潰したい時は、大きな剣を使った方が望ましい。一振りで複数を倒せば、数の優位差を崩していける。

 それに戦う相手の数がどれほど多くても、自分が一人なら、相手方の近接での攻撃は限られる。まあ、これに弓や魔法が加われば、一人で倒し切るのは難しいけれど。


「へぇー、すっごいなあ!! なぁ、戦う時に大事なことって教えてくれないか!?」


 短髪で赤みがかった黒い髪をしたリカルドは、灰がかった瞳を輝かせてイグニスへ聞いてくる。元々人好きのする性格なのだろう。


「怪我を含めた予想外のことがあっても冷静でいること、冷静さを欠いたら死ぬと思って戦っている……あとは、後ろにも目をつける、ぐらいだな」


「後ろに目を!? そりゃ無理だろ」


「無理じゃない、後ろに気を配る癖をつけたら背後の攻撃でも避けられる。ああ、でも魔物相手に直接攻撃を受け止めるのは推奨しない。

 魔物は人間よりも力が強いことが多くて武器が駄目になるから、受け流す程度にした方がいい」


 ぽかんとしたリカルドは、俺がゴブリンの棍棒を直接受け止めて剣をダメにしたって何で分かるんだと言った。流石にそのぐらいは分かる。


「見て学んだ方が早い。お前はスキルがあるらしいから、俺の戦い方は参考にならないかもしれないが……丁度いいな。ナラ、後ろは任せた」


「はい、イグニスさん」


 向かいから軽い足音と共にゴブリンが3匹やっている。


『グググ!!』


 声だけは恐ろしいが、中身はそうでもない。イグニスは大剣を構えると、そのまま斬りこんでいった。


 そして、数瞬もしないうちにゴブリンたちはみな血を流して、地面へと倒れ込んでいた。


「スキルなし、なんて嘘だろ」


 唖然としたリカルドが呟く、グリドも目を見開いていた。


 ナラだけは、イグニスさんは強いんですと胸を張っていた。


 当のイグニスは静かに大剣についた血を拭っていた。


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