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ダンジョン探索④

 

 成人の議でスキルを授かった人は手の甲に紋章が浮かび上がる、それを教会は女神に祝福されていると称する。イグニスやナラのようなスキルを授からなかった人間は、女神から認識されなかった異端者として存在を否定される。


 教会の中に入ることすら出来ないのだから、治療なんてもってのほかだ。もし、教会に行ったら、入口で攻撃されるぐらいは覚悟した方がいい。


 教会は尋ねた人々を平等に扱うと謳っているが、実際は治療の対価にお布施という名目で金銭を要求するので、完全な慈善団体とはいいがたい。一応、困窮している相手には治療費という名のお布施を安くしたり、親のない子どもを引き取って育てたりはしているのだけれど。


 教会はスキルなしにとって頼れる場所じゃない。怪我を負っているグリドがスキルなしである以上、イグニスたちと同じように回復手段は高価なポーションしかない。


「リカルド……おいていって、くれ」


「お前をおいていける訳ないだろ!!!」


 この世界は危険に溢れている。治安だってよくはないし、魔物なんて存在がものまであるし。


 けれど、それでも。イグニスはそれでも、諦めなかった強い意志を持っている人を知っている。


「イグニスさん、今後私が怪我をしてもポーションは使わなくていいです」


 そう言って、ナラは何の迷いもなく懐からポーションを取り出した。以前、イグニスがナラへ渡したポーションだ。そして、その中身をグリドの怪我にかけた。即効性の強いポーションは抉れた肉を元通りに修復していく。全部使い切ったところで、怪我は跡形もなく消えていた。


「怪我が治った!? ……もしかしてポーション?」


「グリド~~!!!」


「抱きつくな!!」


 リカルドと呼ばれた手の甲に紋章が浮かんでいる男は、ついさっきまで怪我人だった相手に涙目で抱きついて引きはがされている。引きはがすだけの体力があるなら充分だった。


「イグニスさん、怒ってますか?」


「いや、全然。ナラは正しいし、俺はそういうところを尊敬している」


 イグニスはいつだって保身と正しさを天秤にかけてしまう。それが悪いことだとは思わないが、ナラは躊躇して動けないイグニスの背を押してくれる。


「ポーションはまだ二本ある、致命傷に近い時は迷いなく使ってくれ」


 予備があるのに惜しんだイグニスをナラは浅ましいと言わない。持っていたポーションを一本ナラへと渡す。


「私がやらなければ、イグニスさんもきっと同じことをしてましたよ。だって、私を助けてくれたんですから」


 イグニスは自然と苦笑してしまった。ナラがいなければ、イグニスはきっとこういう道を選べてなかったし、自分を嫌いになっていたと思う。


 落ち着いたのか、グリドが立ち上がって頭を下げる。


「なんて礼を言えばいいのか、本当にありがとう。ポーション代は……その、今は返せないけど」


「リグドを助けてくれてありがとう!! スキルなしを助けるなんてアンタら物好きだな」


 イグニスとナラはそれぞれ名乗ってから、目を合わせて頷いた。


「ポーション代は大丈夫です、その代わり他の人たちを助けてくれたら」


「俺たちは二人ともスキルがない。スキルなんて授からなくても、普通に生きていけるようになればいいと思っている」


 二人は目を丸くして、スキルがないのに魔法が使えるなんてとか、スキルなしにしては強すぎるとか言った。


「スキルがなくても、実践と鍛錬を続ければ剣の扱いは充分上手くなる。才能もあるが、それは程度の問題だ」


「魔法も使えるって信じて、家族に使える人がいたら……その、出来る出来ないの具体的な条件は分からないですけど」


 ナラの言うとおり、魔法については詳細な条件が分かってない。剣は重さを考えると力は強い方がいいので、体格は関係するけれど……刀のような繊細な武器になっていくと単純な筋力だけではない、才能というものが必要になる。


「紹介が遅れたな、俺はリカルドで剣のスキルを持ってる。こっちは幼馴染のグリドだ!」


 リカルドは人懐こい笑顔を浮かべて紹介する。対してグリドは軽く頭を下げるだけだった。


「ほんと助けてくれてありがとう、グリドだけじゃなくて他のスキルなしも俺たちが絶対に助けるぜ!」


「……俺たちはまだ弱いんだから、あまり大きなことを言うな」


 リカルドは明るく元気で後先を考えないタイプ、グリドはどちらかというと冷静なタイプらしい。


「そうだ、ナラ」


 初めての自分たちに好意的な冒険者に、イグニスはハッとして鞘ごと日本刀を両手に持つ。ナラもすぐに頷いた。


「イグニスさん、そのすごく強くてよく斬れる変わった武器はどこで手に入れたんですか?」


「これはラグナ武器屋にあったんだ。店には何でもあって、使いやすい剣や防具だってある」


「でも、お高いんでしょう?」


「ところがどっこい、店主は親しみやすくて予算に合わせたいい装備を見繕ってくれる」


 ナラが手に持った杖を、イグニスは刀を見せつけて声をそろえた。


「「武器屋や防具、冒険の装備はラグナ武器屋で!!」」


 うまく決まったはずなのに、リカルドとグリドはぽかんと口をあけている。やっぱりイグニスに宣伝は向いていなかったのだろうか。


「ぶっ、あはははは! アンタら、面白いな!!」


 リカルドは途端に大笑いを始め、その場で蹲るほどに腹を抱えて笑い続ける。失礼だぞ、そう言ってグリドはリカルドの頭を叩いた。


「このバカがすまない。武器を買う時はラグナ武器屋に行こう」


 宣伝は上手くいったようだ。


 自体が落ち着いたところで、地面が揺れるような振動が始まる。イグニスはとっさに抜刀して構える。


 ゴゴゴとダンジョン全体が揺れるような音が続いて、ナラが姿勢を崩しそうになるのを片手で支える。


 周期がきたのか、グリドは厳しい顔でそう呟いた。


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