ダンジョン探索②
イグニスとナラは狭い通路を一定の速度で歩いていく。その内にいくつもの分かれ道に遭遇する。
「任せてください!」
そう言いながらナラが簡易なペンと木の板を取り出して地図を書き込む。
「単純に左からにするか」
イグニスは周囲への警戒を続けながら左の道を選んでいく。正直、どの道を行ったところで余り違いはない。15日で死亡扱いされる程度のダンジョンなら、そう広くはない。食料と水はある程度持ってきているが、帰り道さえ分かれば数日もかからずにダンジョンから出られる。
製図は得意だったようで、ナラは順調に地図を書き込んでいく。その間、イグニスは警戒を続けながら……べしょべしょという音に、もしかしてとイグニスは通路の奥を見る。
青いゼリー状の丸っこいものが二匹いて、ゆっくりと這いずるようにこちらへと向かってくる。
「スライム、だな。初めて見た」
「そうなんですか? 村の近くにはよく出ましたよ。子どもでも倒せるって有名でした」
スライムに目や耳はついていないので、どうやって外部情報を受け取っているのかさっぱり分からない。近づいた相手を丸のみにして吸収するらしいが、イグニスの腰よりも小さいので余り脅威には見えない。
「魔法で倒す」
「……もしかして、刀がべったりと汚れそうで嫌なんですか?」
ナラの窺うような目線にぎくりとする。イグニスは真剣にスライムたちを見つめて、魔力を練り上げる。ゆっくりとした動きのスライムが近くにくるまで充分な時間があった。
『ファイアウォール』
言葉にすると同時に炎の壁が通路を埋め尽くして、スライムたちを燃やし尽くす。炎が消えた後には青いゼリー状の球が落ちていた。
「どうして分かったんだ?」
「だって、イグニスさんって剣で魚を刺すと生臭くなるからって言うような人ですから」
魔法を使うには魔力が要るけれど、それ以上に魔法を使うまでの‘溜め’が前衛にとっては致命的だ。魔法を使える人間は基本的に前衛にならない。イグニスは確かに火魔法を使えるが、ダンジョンで使う機会は少ないので、今使っても問題ないはずだった。
「確かに気にしてた、ナラには何でもお見通しだな。一応、魔法を使える機会があるなら、ダンジョンでの火力調整のためにも使ってみたいのもあるけど」
ナラは自慢げに微笑んでから、頷いた。
「これでもイグニスさんの相棒ですから。確かに、森での練習とは少し使い勝手が違いますよね。
足の遅い魔物には試していきましょう」
攻撃手段は沢山あった方がいい。剣が届かない相手には魔法を使えばいいし、魔法が効かない相手には剣を使えばいい。
「ああ」
そういうイグニスの考えは変わっていて、母にもよく何を目指しているのかと苦言を呈されていた。出来ることは多い方がいいというのも、スキルや生まれを根底に生活している人たちには余り馴染まない考え方だった。
だから、イグニスの考えを理解して一緒に戦ってくれるナラは貴重な相棒だった。
通路を進んでいくとゴブリンやスライムに遭遇する。数は多くても3匹まで、種族は統一されていた。弓を持ったゴブリンも現れたが、真っ先に倒したので問題はなかった。イグニスなら素手でも矢を叩き折れるが、ナラを狙われるとほんの少し面倒だった。
通路が狭いので、このダンジョン内では矢をイグニスが落とせるので問題ないけれど。いずれ、ナラには弓持ちのような中~遠距離攻撃が可能な魔物の動向には気を付けて、その攻撃を躱せるように慣れてもらう必要がある。
危うげなく進んだ先の通路は行きどまりで、壁に面する位置に木箱……所謂、『宝箱』が置かれていた。ますますゲームみたいだ。
「これが宝箱、何が入ってるんでしょう?」
宝箱には色んなものが入っていると武器屋のラグナは言っていた。あの何でも集めているラグナが言うのだから、本当に雑多なものが入っているのだと思う。
「俺が開ける、後ろを警戒しておいてくれ」
足音がない魔物がいないとも限らない。魔物はダンジョン内では自然発生するし、倒す速度よりも発生速度が多くなるとダンジョン内から溢れる。後ろから襲われないと過信するのはよくない。
「はい、でも。私にも中身を教えてくださいね?」
ナラが後ろを振り返って通路の先を警戒する。イグニスは当然だと返事をしながら、ゆっくりと木製の素朴な宝箱の蓋を開いた。その中には、パンが入っていた。
「パン?」
「パン!?」
びっくりしたナラが咄嗟に振り返る、イグニスは中に入っていたバゲット状態のパンを取り出してナラに見せる。
「どこからどう見てもパンだと思う」
「……宝箱には何でも入ってるって、パンも入っているんですか?」
「そうみたいだ」
そう言いながらパンの匂いを嗅ぐ、腐ってはいないみたいだった。半分に割って片方を口に含む、固くて嚙み切るのは大変だが味は美味しい。奥行きのある小麦の味わいがする。
「味も大丈夫だ、美味しい」
「イグニスさんが全部食べて大丈夫ですよ。荷物を持ってくれて、よく動いているのはイグニスさんですし、持ってきた食料もありますから」
「そうか? この辺りで少し休憩にするか」
行きどまりなので魔物の気配を窺うには丁度いいし、ナラの息が少し荒くなっている。戦闘が続くと多少なりとも損耗する。自覚があったのか、ナラも休むことに賛成してくれた。
リュックから水筒や持ってきたパンを取り出して、座り込んで一息つく。思っていたよりも順調に進んでいる。
二人が今後のことを話しあっていたら、突然、通路のずっと遠くから男の悲鳴が聞こえた。直ぐに荷物をしまって立ち上がる。
「無理はしない、場合によっては見捨てる」
「でも出来る限りは助けましょう!」
さすがナラは話が早い、二人は目線を合わせて頷いてから走り出した。




