日本刀
ラグナ武器屋の店主ことラグナは一式を買い揃えたイグニスとナラに大きな礼を言った。
「嬢ちゃんたちが沢山買ったお陰でいいものを仕入れられそうだ」
仕入れの量を抑える気はないらしい、これ以上店内に置き場はなさそうだが。上機嫌に笑う店主から視線を逸らしたとき、掠れてぼやけた古い記憶に存在するものが後ろの壁に飾ってあることに気づく。
「……日本刀?」
「ニホントウ? 兄ちゃん、もしかしてこの‘カタナ’を知ってるのか?」
見てみろと店主が壁からそれを持ち上げて、イグニスへと手渡す。黒い鞘に朱色の鍔、刀身は軽い。
「抜いてもいいか?」
「いいや、裏に回れば試し切りできるからな。ずっと東の方から来たっていう商人から仕入れたはいいものよ。誰も曲がった刃物の使い方を知りやしなくて、さっぱり売れねぇ。
この際、使い方を知ってるなら実演してくれや」
その言葉に頷いて、刀を手に持ったまま裏口から外へ出る。店主のいう通り、裏庭のような空間が広がっていた。藁を束ねて真っ直ぐに地面へ突き刺したものが幾つか並んでいる。
鯉口を斬ると傷一つ知らない美しい刀身が光を浴びる。イグニスが普段身に着けている剣よりもずっと軽い。持ち手を含めた全長はイグニスの腕の長さぐらいだろうか、両腕で刀を構えれば充分な長さがある。
「斬っていいか?」
「おう、やってみろ! 藁といえど一回で斬るのは難しいぞ、しっかり束ねてあるからな」
不思議と手に馴染む、イグニスの腰にいつもある大剣と同じぐらいに。構えた刀身に竹で作られた刀身の面影が重なる。
「はぁっ!!」
かけ声とともに刀を真っ直ぐ縦へと振り下ろす、藁は縦に真っ二つになって両横に倒れた。
「なっ、なにやってんだ!? こんな割れ方する訳ないだろ!」
「すごい! まるで魔法を使ったみたいです!」
店主は真っ二つになった藁を信じられないかとでもいうかのように、近寄って本当に斬れていることを確かめる。その切り口はがたついていた。
イグニスは刀身を鞘へと収めて、店主へと差し出す。
「ありがとう、試せてよかった」
「兄ちゃん、これは兄ちゃんにしか使えないだろ!」
「いや、切り口が汚い。もっといい使い手はいるだろう」
それに、これだけいい刀を買うには財布が心もとないと正直に伝えて購入を断る。イグニスには既に剣があるし、それだけで充分に戦えるので今は必要ない。ぐぬぬと考え込んだ店主は、決めたと顔をあげた。
「なら、これをもらってくれ! 今回のみお代はいらねぇ!」
「いいのか? これはいい品のはずだが」
「その代わり!! このラグナ武器屋を宣伝してくれ、兄ちゃんたちはきっと大物になる。宣伝してくれりゃ客は大量、大儲けだ!」
そんな理由で受け取っていいのだろうか。ナラは見るとこくりと頷かれた。
「責任をもって宣伝しましょう」
「分かった、ありがたく受け取ろう。その代わり、これを身に付けられるベルトや腰ひもを買いたい。後は手入れに必要なものを」
店主は勢いよく頷いた。それから、思い出したかのように言う。
「ところで兄ちゃん、そのカタナをどこで知ったんだ?」
「……」
これは困った、どう答えればいいのか全然分からない。不審に思われるだけなので隠したい、イグニス自身にだって上手く説明できないことを他人が納得する訳がないのだから。
「イグニスさんは元々すごい人で、沢山の本を読んだり、色々な人と話してきたから。普通なら知ってい
いないようなことも知ってるんですよ!」
ナラがイグニスにだけ分かるようにウィンクをしたので、これ幸いとイグニスも頷く。そんなに大した知識はないが、ナラが助けてくれたことは分かっていた。店主は少し疑問に思っただけのようで、それ以上深く聞かれることはなかった。
イグニスが愛用している両手剣の横に、軽い刀身の刀が加わる。これで叩き潰す、叩き斬るに斬り落とすという選択肢が増えた。それに刀はみねうちがしやすい、逆刃が潰されていて刀身も軽いので対人戦では手加減しやすくて便利だ。
まだ扱い慣れていないが、鍛錬を続ければもっと上手に斬ることが出来るだろう。以前のオークのような大剣では斬れない分厚い装甲がある敵には、こういった取り回しがきく刀の方が有効だ。
イグニスが今日はこの刀で沢山鍛錬をしようと内心で思っているのがバレたのか、ナラはほどほどにしましょうねと笑った。




