はじめての武器屋
宿で荷ほどきを済ませてから、イグニスはナラと今後の方針を話し合う。現状、本来得るべき冒険者としての情報を足りていないが、オークでざわめく程度なら、そこまで強い魔物が溢れているわけでないだろう。実戦に勝る情報はない、今の自分たちの実力を確かめる意味で、翌朝にダンジョンへ潜ることになった。
それまでは鍛錬……の前にやることがある。
「武器屋が二つありますね」
ナラのいうとおり、通りには二つの武器屋が向かい合って並んでいた。片方は豪勢な看板で“グラナードで一番の武器屋”と書かれており、片方は一部が割れた木製の看板で“ラグナ武器屋 どなたでもどうぞ”と書かれている。
「……高そうな方から入ってみるか」
武器や防具を揃えるのは命に関わる部分だ、多少値が張っても実用性の高いものを買う必要がある。
ちょっと嫌な予感はしていたが、グラナード一番の武器屋に入った途端、宝飾品を身に着けた恰幅のいい店主はイグニスたちをじろじろと見て嘲笑した。
「スキルなしが何の用だ、お前らの懐で買えるようなもんはウチには置いてねぇよ」
杖に魔法石はともかく、剣に宝石をつけている時点で趣味が悪い武器屋だと思う。並べられた武器は値段の割には質が良くない、イグニスたちはすぐに武器屋を出た。
「実用性は低かったし、店主の趣味も悪そうだった」
「武器の揃え方で趣味が分かるものなんですか?」
「ああ。儀礼用の武器ではないから、宝石をあしらう意味はない」
武器を仕入れているのが店主なので、実用性を優先するか華美さを優先するかは店主の趣味だ。もちろん、どういった客層を想定しているかにもよると思うが。
もう一つの『ラグナ武器屋』へ開けにくい木製の扉を無理やりに押し開けて入る。つい壊れてないかと振り返れば、気にすんなと店主の声が返ってきた。
「これが武器屋?」
ぽかんとした顔でナラが呟く、イグニスも内心でそれに同意した。店内にはひしめき合うように剣や槍に杖といったあり触れた武器から……鉄の棒にトゲトゲがついたもの、トンファーのようなもの、鎌のようなものまで。その他にも皮の鎧や水筒など、防具や小物まで扱っているようだった。
これでは武器屋というより何でも屋といった方が正しいだろう。物が溢れて棚に収まっておらず、一部はそのまま立てかけられたり、壁に飾ってあったりする。
「それで何をお求めで? 見てわかるとおり、うちには何でもあるぞ」
「値札がついてないものが多いが」
「途中で力尽きたんでな、基本的には応相談ってやつだ」
確かにこれだけの品があれば値段をつけるのに苦労するだろう、仕入れ量を絞ればいいだけの話でもあるが。
「彼女に見合う杖がほしい。重すぎないが、殴打での使用にも耐えられるものを」
小柄で瘦せている店主はナラへと視線を向ける。そして、大きな笑い声が店内に響いた。
「スキルなしが杖? 馬鹿言っちゃいけないぜ! それなら鉄の棒を振り回りしてた方がよっぽどいいだろ」
「その、びっくりすると思いますが、スキルがなくても魔法が使えるんですよ」
「はぁ!? 魔法のスキルもなしに、魔法を使うだって!?」
そう聞くと矛盾しているようにも聞こえるが、実際に使えるのだから仕方ない。
「少しだけ使って見せますね」
「いや、ナラ。土魔法だと、出てきた土を掃除するのが大変だ」
「そういう問題じゃないだろ。そもそも使える訳がないんだから」
イグニスは人差し指を立てると、『炎よ』と呟く。魔法が指先に小さな炎を灯した。ずこーっと店主が大げさなほどにその場で転ぶ。ナラは慌てて店主へ手を差し伸べていた。
「こりゃおったまげた、教会の連中が見たら目ん玉飛び出るぞ。土魔法は使わなくていいぞ、嬢ちゃん」
これ以上店が汚れたら叶わねぇからな、そう言ってナラの手を掴まずに店主は一人で立ち上がる。
「初心者向けの杖といったらこの辺かな」
店主は物に溢れた中から的確に数本の杖を取り出して木製のカウンターへ並べる。金額もバラバラなのだろう、木製から鉄製のものに小さな魔石がはめ込まれたものまである。
「魔石付きか」
「ああ、ちょい値は張るがな。魔法の行使を補助してくれる、これなら魔法の効果を少し大きくしてくれ
る程度だな」
そんなものが、そう言いながらナラは視線をさ迷わせた。
「どういうものがいいんでしょう?」
「最低限は手に馴染むもので、長時間持ち運びできるもの。後は気に入ったどうかだな」
武器は頻繁に買い替えるものでもない。試しに持ってみろよ、嬢ちゃん。そう言ってくれた店主に頷いたナラが幾つかの杖を持って、金額を聞いていく。
「これでどうでしょう?」
「ナラが決めたなら、それでいい」
ナラが選んだ杖は、細くて丸い鉄の棒で先端に青い魔石とそれを循環させるための装飾が施されていた。華美さはないが実用性は充分だ。魔石がついてないものよりも少し高いが、予算的には許容範囲内だった。
「この魔石、イグニスさんの瞳と同じ色合いなので、きっと私のことを守ってくれると思います」
はにかんだナラに少しだけ固まってから、首を横に振る。
「石よりも俺の方が役に立つし、守れる」
「お熱いね、ご両人! まいどあり、さっさと稼いで次はもっと高いものを買えよ」
「……防具を含めた必要なものも見繕ってもらってもいいか?」
この店主の目は確かそうだった。本来なら全部を武器屋で揃えるものでもないが、店主は威勢よく返事をしてあちこちから色んなものを集めてくる。この調子なら予定していたよりも早く全ての装備が揃いそうだった。
ナラはついさっき買ったばかりの杖は大事に両手に持っている。イグニスは自然と肩の力を抜いた。




