第3話「回収」
コンペ前日。
会議室の空気は張り詰めていた。
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「今回の企画、かなり完成度高いな」
課長・黒瀬悠斗が資料を見ながら言う。
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「よくここまで詰めた」
視線は、神谷たち4人へ向けられる。
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「ありがとうございます」
神谷が代表して頭を下げる。
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「データもちゃんとしてるし、構成もいい」
係長・藤堂が頷く。
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「このままコンペ出せるな」
主任・山口も同意する。
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評価されているのは“チーム”。
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だが――
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(それ、全部俺が作ったやつだ)
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会議室の外。
北川は静かに壁にもたれていた。
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いつも通りの光景。
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(まぁ、いい)
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そう思った、その瞬間。
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――視界が変わる。
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「……っ!」
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ドア越しに見える黒瀬に、“表示”が重なる。
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■課長(表示)
【ステータス】
名前:黒瀬 悠斗(48)
役職:課長
性別:男
判断力 82(+63):A
交渉力 85(+70):A
集中力 74(+52):B
処理力 78(+58):A
回収可能合計(+243)
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「……なんだよ、これ」
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完全に見える。
意味も理解できる。
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(+63……これ、俺の分か)
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直感が答えを出す。
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(取り返せる)
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条件が頭に流れ込む。
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・10m以内
・過去に奪った相手
・任意で回収
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小さく息を吐く。
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(やっとかよ)
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その時、ドアが開く。
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黒瀬がこちらへ歩いてくる。
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距離が縮まる。
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表示が、はっきりと浮かぶ。
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回収可能合計(+243)
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(今なら――)
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北川は、ゆっくり手を伸ばした。
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触れていない。
だが、確実に“掴める”。
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そして――
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引き抜いた。
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何かが静かに抜ける感覚。
音も衝撃もない。
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ただ、確実に“戻ってきた”。
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表示が変わる。
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■課長(回収後)
【ステータス】
名前:黒瀬 悠斗(48)
役職:課長
性別:男
判断力 19(+0):F
交渉力 13(+0):F
集中力 22(+0):E
処理力 18(+0):F
回収可能合計(+0)
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同時に、北川の視界。
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■主人公専用ステータスUI
【ステータス】
名前:北川 聡
年齢:22
役職:平社員
性別:男
振り分け可能ポイント:243
判断力 28(+0):E:[+](0)[-](0)[確定]
交渉力 19(+0):E:[+](0)[-](0)[確定]
集中力 31(+0):E:[+](0)[-](0)[確定]
処理力 14(+0):F:[+](0)[-](0)[確定]
資産:243000円
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(……取れた)
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その時。
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「……ん?」
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黒瀬がわずかに眉をひそめる。
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「……少し、疲れてるな……」
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こめかみを押さえる。
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「大丈夫ですか?」
藤堂が声をかける。
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「ああ……ちょっとだるいだけだ」
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それだけ。
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それ以上の異変はない。
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会議室に戻る黒瀬。
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「じゃあ、最終確認を続けるぞ」
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普通に進行する。
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だが――
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「……ここ、どういう意図だ?」
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資料の一部で、わずかに言葉が詰まる。
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「え……?」
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神谷たちも一瞬戸惑う。
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だがすぐに、
「えっと……市場分析の部分です」
と繋ぐ。
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大きな違和感にはならない。
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ただ、ほんの少しだけ“精度が落ちた”。
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北川はそれを静かに見ていた。
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(なるほどな)
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完全に崩れるわけじゃない。
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だが確実に、弱くなる。
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誰にも気づかれないレベルで。
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(いいな、これ)
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誰も気づかない。
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奪われたことにも、戻されたことにも。
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北川はゆっくり目を閉じる。
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振り分け可能ポイント:243
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(……まずは、どう使うかだな)
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静かに、戦いが始まった。




