第2話「ズレの正体」
コンペ用の資料は、順調に仕上がっていった。
――表面上は。
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「このデータ、もう少し強調できる?」
神谷がモニターを指さす。
「あとここ、課長が気にしそうだから補足入れといて」
高橋が続ける。
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北川は無言で修正を加える。
数分で、すべての指摘は形になった。
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「ほんと早いよな」
中村が軽く笑う。
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(……一人でやってるからな)
北川は答えなかった。
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夕方。
資料は完成した。
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「これでいけるね」
神谷が頷く。
「明日のチェック、俺らで通すから」
高橋がUSBを手に取った。
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“俺らで”
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北川は何も言わない。
それが当たり前になっていた。
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夜。
オフィスにはまだ数人残っていた。
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課長席には黒瀬。
少し離れた席に藤堂と山口。
そして北川たちのデスク。
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距離にして、数メートル。
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北川はいつものように、残作業をしていた。
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その時だった。
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視界が、わずかにブレた。
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「……?」
目の前の画面ではない。
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“横”だ。
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黒瀬の方に視線を向けた瞬間――
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一瞬だけ、何かが“重なった”。
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――82
――85
――74
――78
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「……っ」
思わず目を細める。
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消える。
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(今の……)
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心臓の音が少しだけ大きくなる。
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もう一度、黒瀬を見る。
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何もない。
ただ電話をしているだけだ。
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(気のせい……か?)
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そう思って視線を戻す。
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だが数秒後、また起きた。
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今度は藤堂の近く。
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――77
――68
――80
――75
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「……なんだよ、これ」
小さく呟く。
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“人に反応している”
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その感覚だけははっきりしていた。
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距離も近い。
視界に入っている人間。
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その時だけ、何かが見える。
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だが、まだ不完全だ。
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(+?)の部分は見えない。
意味も分からない。
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ただ一つ分かるのは――
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(人によって違う)
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同じじゃない。
誰もが違う数字を持っている。
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その時、黒瀬が立ち上がった。
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距離が少し縮まる。
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その瞬間。
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さっきよりも“はっきり”見えた。
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――82
――85
――74
――78
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ノイズは減り、輪郭が強くなる。
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「……っ」
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(近いほど、見える……?)
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仮説が浮かぶ。
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だが同時に、違和感もあった。
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(なんで、こんなものが……)
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それは“能力”なんて言葉で片付けられるものじゃない。
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ただ一つ確かなのは――
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“今まで見えていなかったものが見えている”
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それだけだった。
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誰も気づいていない。
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この異常に。
このズレに。
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北川だけが、それを認識し始めている。
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そしてそれは、もう止まらない。




