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第1話「名前のない成果」

月曜の朝。

企画課の一角にある五人のデスクが並ぶスペース。


ここが、北川聡の居場所だった。



「じゃあ、この方向でまとめるね」


神谷玲奈が軽く手を叩く。


その周りで、白石、美咲、中村、そして高橋が頷いた。



チームは五人。

表向きは、全員で企画を作っていることになっている。


だが実態は違う。



(……結局、全部俺か)


北川は無言でキーボードを叩いていた。


画面には、すでに完成に近い企画資料。

構成、数字、グラフ、競合分析――すべて揃っている。



「北川、そのデータちょうだい」


高橋が当然のように言う。


「……ああ」


USBに保存して差し出す。


それで終わりだった。



「助かるわー、これで通せる」


中村が軽く笑う。


白石も少しだけ申し訳なさそうな顔をしていたが、何も言わない。



(通せる、か)


北川は手を止めなかった。


この後の流れは、もう決まっている。



数時間後。


会議室。



「今回の企画は、こちらになります」


説明しているのは、神谷だった。


その隣で高橋が補足し、中村が資料をめくる。


白石は控えめに頷くだけ。



そして、その場に北川の姿はない。



会議室の外、廊下の壁にもたれながら、北川はただ待っていた。



(どうせ……また通る)


中の様子は見えない。


だが、分かる。



課長・黒瀬悠斗。

係長・藤堂拓真。

主任・山口圭吾。



あの三人が精査する。


そして最終的には、企画課として対外コンペに出す。



(でも、それを作ったのは俺だ)


口には出さない。


出しても意味がない。



ガチャ、とドアが開く。


神谷たちが出てきた。



「通ったよ」


軽い声だった。


「さすがに今回はいけると思ってた」


高橋が笑う。



「課長も褒めてたよ。“よくここまで練ったな”って」


中村が続ける。



北川は何も言わなかった。



(……そりゃそうだろ)


頭の中でだけ、そう返す。



「じゃあこのままコンペ用に仕上げるから、また頼むね」


神谷が振り返る。



頼むね。



その一言に、すべてが詰まっていた。



(俺は“作る係”か)



デスクに戻る。


さっき渡したはずのデータは、すでに編集されていた。


作成者の名前が変わっている。



「チーム作成資料」



個人名すら残っていない。



(……綺麗に消すよな)


怒りは、もうなかった。


ただ、冷めた感覚だけが残る。



その時だった。


一瞬だけ、視界が揺れた。



モニターの文字が、わずかに歪む。



「……?」


まばたきをする。


すぐに元に戻った。



(疲れてるだけか……)


そう思って、再びキーボードに手を置く。



だが、その違和感は消えなかった。



“何かがずれている”



成果と評価。

努力と報酬。

名前と実体。



そのすべてが、ほんの少しだけ噛み合っていない。



そして北川は、まだ知らない。



この歪みが、偶然ではなく――

回収できる“構造”であることを。

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