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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
11章_下北スクランブル

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351/372

11.26_08:46 俺はこのまま、タイムアップでもいいんだが?

午前8時15分36秒。

異界洞窟へ突入。


時間との勝負だ。

戦いが長引けば、こちらの戦力は消耗していく。


相手が力を蓄える前に、首謀者を討ち、ケリをつける。


そのための作戦は組んできた。

――ゲーマーは、ただでは転ばない。





昨日のアタックとは異なり、セツナたちは走って洞窟を進む。


警戒は最小限。

速度を重視し、一気に洞窟の奥へと進んでいく。


八車が、洞窟の壁へと目を向ける。


岩の壁に、何かで引っ掻いた痕が残っている。

‥‥昨日、八車たちがナイフで付けた目印だ。



洞窟の内部までは覚えていないが、洞窟の入り口の雰囲気くらいは覚えている。

そして、ナイフの目印を見て、確信した。


この洞窟は、昨日潜った時と同じ構造をしている。

入り口が池尻大橋から下北沢へ移動しただけで、内部構造は同じだったのだ。


だとすれば、罠も、昨日と同じ。



フロントさんが先頭を走っていると、前方の地面に魔法陣が展開される。

最後尾を走るJJの後ろにも、魔法陣。



『返り討ちにしてやるゼ!』


『突撃☆ 突撃☆』



魔法陣から敵襲。

チョコのカジキ。

宙を飛ぶカジキが、縦や横に整列し、鋭い角を光らせて突進してくる。



昨日と同じ。



セツナが、先頭のフロントさんを飛び越える。


右手のガントレットが赤熱。

開かれた(てのひら)は、息を吸い込んだ龍のごとし。

熱と炎が、ガントレットや掌が漏れ出している。



エレメンタルコア × 炎撃掌 = プロミネンスフレア



セツナの右手から、龍のブレスが放たれた。

太陽を彷彿とさせる火球が、洞窟の壁や天井を溶かしながら直進。

壁をガラス質に変えながら、カジキの群れへと迫る。



『げげ!?』



閉所では、広範囲攻撃が猛威を奮う。

壁も天井も溶かしながら直進する火球を、躱す術などありはしない。


チョコカジキの群れは、太陽の熱に溶かされ――、カボチャは丸焼きにされた。



『オーマイガー!!』



カボチャのコミカルな断末魔が響く。

セツナたちの前に立ち塞がったカジキの群れは、壊滅。



一方、攻撃部隊を背後から奇襲するカジキの群れは――。



魔技:フルオートショットガンパンチ



――カジキの群れは、魔法の散弾の嵐に晒されていた。


ハニカム構造をした魔力の装甲を作り出し、火薬に見立てた魔力を発火させ拳を撃つ。

火薬の衝撃で魔力の装甲は砕け、ハニカム状の破片が、前方に飛散する。


それを、両腕を使って、絶え間なく放つ。

JJの魔技、敵は全滅する。



『う、うおおおぉぉぉ!! と、突撃ぃぃ!!』



カジキたちは背びれを畳み、旋回性能を上昇させて、散弾の嵐を突破しようとする。

だがしかし、ここでも閉所である環境が裏目に出る。


火薬と化した魔力により、文字通り目にも止まらぬ速さで放たれる猛ラッシュ。

1秒間に10発を超える数の拳と散弾が、カジキの群れへ叩きこまれる。



『ぎゃ~!? 無理ゲーだぁ!!??』



結局、散弾の壁を突破できたカジキは居なかった。

圧倒的火力と連射速度により、あっけなく全滅する。


同じ手は、ここに居る人間に通用はしない。



部隊は前進。


これは作業だ。

戦いじゃない。


ここで手こずっている時間は無い。



洞窟を進めば、第2の罠が起動。

部隊が、魔法の壁で分断される。


フロントさん・セツナ・八車。

ダイナ・JJ。


3人と2人で分断された。

そして現れる、2体の()()ぎ男。



『ゆけ~、改造人間! 奴らを皆殺しに――。

 ぎゃ~~~!!??』



ダイナの先制攻撃。

居合刀が抜刀される。


青白い閃光が刃を走り、宙をひらめき、継ぎ接ぎ男を切りつける。

男の右腕をやった。


彼が両手で担いでいたガトリング砲が、地面に落ちる。

男の、腕と一緒に。


足の上にガトリング砲を落とした、継ぎ接ぎ男。

彼に、3本のナイフが突き刺さった。



抜刀投擲術。

白い魔法の矢。



「宇宙」を、小さなナイフに凝縮させた遠距離攻撃。

それは異常な貫通力を誇り、継ぎ接ぎ男の身体を貫通する。


胸に2発、頭に1発。

3本のナイフが、継ぎ接ぎ男を貫いた。


男は膝から崩れ落ちる。

紫色の炎に包まれ、火葬されて灰となる。



『ノ~~!? リスキル (※)だぁ~~!?

 ノーマナーはんた~い!!』

※リスキル:敵を待ち伏せて、湧いた瞬間に倒すこと。



見せ場もなく継ぎ接ぎ男を倒され、カボチャはガックリと項垂(うなだ)れる。

それは、もうフロントさんサイドの戦闘でも同じ。


分断されたもう片方の部隊、フロントさん・セツナ・八車。


継ぎ接ぎ男が出現するや否や、フロントさんが敵に目掛けて突進。

姿勢を低く、地を這うように進む。


継ぎ接ぎ男が、ガトリング砲の引き金を引く前に、フロントさんの間合いとなる。



得物を振るう。


廃材を継いで接いで拵えたような武器。

コンクリートの板を削って、ボルトで持ち手を固定した、大雑把な武器。


剣と盾を兼ねる武器、スクラップヤード。


スクラップヤードを、剣として握り、振るう。

ガトリング砲の砲身がひしゃげる。


追撃。

フロントさんが、左拳の振るう。


雷属性の左。

聖なる(いかずち)が、継ぎ接ぎ男の脇腹に突き刺さる。


追撃の追撃。

右手で握っている廃材武器を振り上げる。

柄頭を使い、男の顔面に一発。


ダメージは加速し、継ぎ接ぎ男は後ろへ仰け反る。

間合いが開く。


廃材武器を振るう。

大剣ほどの大得物を、横一線。


切れ味など期待できない廃材が、男の腹部を捉えた。


10メートルほど吹き飛んで、男は横たわる。

起き上がる様子は無く、そのまま燃えて灰になった。



『汚いぞ~! 卑怯だぞ~!!』



カボチャは、負け惜しみを言いながら、洞窟の奥へと逃げていく。

第2のトラップも、余裕で突破。


‥‥‥‥。


さて――。

ここからが本番だ。



洞窟の奥から、二筋のライトが伸びて来る。

ライトの数が、どんどん増えていく。


数え切れない数のトロッコが、爆弾を積んで特攻してくる。



『粗挽き肉団子にしてやるゼ!』



第3のトラップ、自爆特攻トロッコ。

昨日のブリーフィングでは、これをどう突破するのか?

それが大きな課題と議題になっていた。


そして、魔導者たちが出した結論が‥‥。



セツナの横に、ライザが召喚される。

セツナの腰からリボルバーを引き抜き、自分のホルスターにしまう。


いつもと調子の変わらないライザに対し、どこか神妙な面持ちのセツナ。


ライザは神妙なセツナのことなど、特に気にする様子もない。

前に歩きながら、ひらひらとセツナに手を振る。


女ガンマンは、フロントさんの横に並ぶ。



――自爆特攻トロッコ。

これを、いかにして攻略するか?


単純だ。

活路は、前にある。



「俺は、セントラルのイチローですねと言われた男。

 守備力は実際かなり高い。

 守りは俺1人で充分なんだが?

 エリア51という名守備を知らないのかよ?」


「バカね。1人よりも、2人の方が確実でしょ?」



昨日も、同じことを言った。


ライザは銃を抜き、シリンダーの中を確認。

6発の弾が込められていることを目視で認め、シリンダーを元に戻す。



「取りこぼしは、私がフォローしてあげる。」



フロントさんとライザ。

2人は、同時に走り出した。


先行する。

後続の部隊と距離を取る。


‥‥爆風の余波が、後続に届かないほど、大きく、距離を取る。



活路は前にある。

目には目を、特攻には特攻をぶつける。


メイン盾のフロントさんと、高いタフネスを誇るライザ。

この2人が、爆発を跳ね除けながら突き進む。


これが作戦。



トロッコの自爆特攻が不可避であるのなら、耐えれば良い。

トロッコが絶え間なく突っ込んでくるのなら、その中を進めば良い。



単純だ。

これほどシンプルな作戦は無い。



奥を目指すセツナたちの背後を、二筋のライトが洞窟を照らす。


挟み撃ち。

後ろからも、自爆トロッコが進行してきた。


直後、前方で爆発。

フロントさんとライザ、2人がトロッコと接敵した。


約150メートル先で起こった爆発。

なのに、セツナたちの場所には、風速20メートルを超える衝撃波が伝わる。


風速20メートル。

普通の人間が、歩行困難になるレベルの風。

身体を前に傾けて、地面を這うように進まないといけないレベル。



これほどの威力を持つ爆発が、1度きりではなく、絶え間なく連続で襲い掛かってくるのだ。

無策で挑めば、生きては帰れない。



セツナたちは前へ走り出す。


後ろから迫るトロッコ軍団から逃げるように。

先行したフロントさんとライザを信じ、彼らが切り開いた道を進む。


引き返すことは考えていない。

――首謀者をぶちのめし、それからゆっくり、帰れば良いのだ。



フロントさんは、廃材武器を盾として構え、全速力で駆ける。

その後ろを、ピッタリとライザがついて走る。


ライザは、フロントさんの影から、自爆トロッコを射撃。

少しでも自分たちから遠い位置でトロッコを起爆させ、フロントさんへの負担を軽減させる。


それでも、爆発の威力は凄まじい。


150メートル離れていても、常人が立っていられないほどの衝撃波が伝わるのだ。

それを、30メートルやそこらの距離で受けるのだから‥‥、いくら防御が固いフロントさんでも、無傷とはいかない。


爆発を盾で受け止めると、足が止まる。

踏ん張るので精一杯となり、前進できなくなる。


足が止まってしまうと、後続部隊との距離が縮まってしまう。

そうすれば、後続が爆発に巻き込まれてしまう。

あるいは、後ろから迫っているトロッコに追いつかれて、彼奴等の餌食となってしまう。



だから、止まる訳にはいかない。



ライザが、フロントさんに後ろからぶつかる。

セツナが相手なら、背中を蹴っ飛ばしてやるところだが、加減して肩でぶつかる。


フロントさんの背中を押してやり、フロントさんはまた前へ進む。



ライザは、銃を左手で持つ。

走りながら、洞窟に転がっている石を拾う。


弾丸を温存したい。

これを使おう。


フロントさんの影から飛び出す。

石を、投擲。


レーザービーム。

馬のように丈夫な脚で助走をつけ、投げられた石は鋭い軌跡を描く。


石はトロッコに命中し、爆発を起こす。


ライザの投球に、フロントさんは見事な仕事だと関心が鬼なる。



「ほう。イチローは、そこにもいたということかな?

 やはりイチローは、防御がかなり高い。」


「わけのわからないこと言ってないで、さっさと走りなさい!」


「hai!」



フロントさんの背中を蹴っ飛ばす代わりに、ライザはトロッコに目掛けて鉛弾を飛ばす。

爆風の衝撃を、フロントさんはフロントステッポで、華麗に受けきる。


フロントさんとライザ。

ハイタフネスな2人によるコンビネーションで、自爆トロッコたちの爆撃を耐えながら、洞窟の奥へ向かう。


このまま何事も無ければ、このままの調子で、奥まで進める。



‥‥まあ。

そんなことは、ありはしないのだけれど。



洞窟の壁に、ヒビが入る。

左右の壁、ヒビが入って、穴が開く。



『ギュィィィイイイン!!』


『ドリル! 掘削! 最強ッ!』



掘削型自爆トロッコによる奇襲。

ライザの背後に、トロッコが現れた。



「――――ッ!!」



銃声が2発、鳴り響く。

ライザのファニングショット。


2台のトロッコを撃ち抜く。


爆発。

至近距離で、2台のトロッコが爆発した。



「あが――ッ!?」



肺から空気が押し出され、声帯が震える。

苦しそうな呼気が漏れた。


爆発に、ライザもフロントさんも巻き込まれる。

2人とも、洞窟の奥の方へと吹き飛ぶ。


トロッコ処理の陣形が崩れる。



地面に仰向けとなるライザ。

リボルバーは弾切れ。


短慮な性分があだとなった。

1発で充分だったのに、反射的に2発撃ってしまった。



‥‥洞窟の天井に、ヒビが入っている。

洞窟の奥からは、まだまだトロッコがこちらに向かって来ている。



「‥‥‥‥。」



晶力解放:銃(ラピスサクスム/フラーウス)



右手に、レバーアクションライフルを召喚。

連射性能に乏しいが、装弾数の多いライフル。


うつ伏せとなる。

ライフルを構える。

敵を狙う。


‥‥洞窟の、奥のトロッコ。



爆発。

ライザの髪が靡く。

被っていた、カウボーイハットが飛んで行ってしまう。


フロントさんは、爆風を盾でいなす。

ライザの方へ振り返る。



「ライ――!」


「バカ! 走りなさいッ!」



そう言って――、ライザは爆発に巻き込まれた。


直撃。

天井から奇襲してきた掘削トロッコの自爆を、モロに受けた。


爆風の余波で、フロントさんは洞窟の奥へと身体を押し出される。

ライザは、爆発の衝撃で、地面に埋められる。



「‥‥‥‥。」



むくり。

上体を起こす。


地面から掘削トロッコ。

弾切れになったリボルバーを投げつける。


爆発。

身体が洞窟の奥へと吹っ飛ぶ。


うつ伏せになった身体を起こしながら‥‥、震える手でライフルのコッキング。


左の壁から、掘削トロッコ。

爆発。右の壁に叩きつけられる。


射撃。

洞窟の奥を狙った射撃。

霞む視界で狙った銃弾は、トロッコに命中。


フロントさんの前方で爆発を起こす。



‥‥膝から崩れ落ちる。


地面にヒビが入る。

掘削トロッコが出現。


這って地面を移動。

トロッコを蹴り飛ばす。


爆発。

衝撃を利用し、洞窟の奥へと転がる。


転がりながらコッキング。

身体が無意識にそうした。


天井から掘削トロッコ。

射撃。


爆発を受ける角度を調整。

洞窟の奥へ。



‥‥‥‥。



「これくらい‥‥、全然、何とも‥‥‥‥。」



ライフルを杖の代わりにして、立ち上がる。


大丈夫。

作戦通り。


ライザは囮。

掘削トロッコを引き付け、フロントさんを前に進ませるための。



ライザは異界武器。

人の姿をしているが、人間ではない。


ホルダーのセツナが死なない限り、彼女は復活できる。


人のように痛みを感じるが、人のように恐怖は感じない。


彼女の本質は、武器なのだ。

それも量産品。

壊れたら、次のを使えば良い。



壊れることを、恐れる武器はいない。



ただ、目的のために、自分は使われる。

それをライザは受け入れ――、自分自身を使う。


コレクションケースの中に、大切にしまわれること。

それが、彼女にとっては、何よりの屈辱だから。



「‥‥どう? とっても、役に立つでしょ?」



――上下左右、四方から掘削トロッコが出現。

ライザは、爆発の中に消えた。



セツナたちがそこを通り過ぎても、彼女の姿を見つけることはできなかった。


彼女は、少し疲れたのだ。

だから、少し休む。


ライザは知らない。

人の心は、そう簡単に割り切れないことを。



‥‥‥‥

‥‥



作戦は順調。

ライザの犠牲も、作戦通り。


彼女は、セツナが生きている限り死なない。

量産型で、不死なのだ。


セツナが言うには、程度にもよるが、1週間もあれば回復するらしい。



だからと言って、割り切れる訳が無い。

メイン盾を自称するフロントさんであれば、なおのこと。


仲間が、ナイトである自分よりも先に倒れてしまう。

屈辱だ。



「‥‥すまん。助かった、ライザ!!」



フロントさんの魔力が跳ね上がる。

動力源は、弱い自分に対する怒り。


既定路線を変えられなかった、自分への怒り。

それを、なおも止まらぬ自爆トロッコの軍団へ向ける。


魔力を盾へ。

魔力を全身へ。


全霊でもって進む。



前方で爆発が起こる。

至近距離での爆発。


フロントさんは止まらない。


速度を維持したまま、砂塵の中を突っ切る。

フロントさんが止まらずに走るものだから、洞窟では連鎖的に爆発が起こっていく。


フロントさんの身体が、砂塵で汚れる。

廃材武器に亀裂が入る。

服の下には火傷を負い、爛れた皮膚が服にくっついてしまっている。



それでも止まらない。



残りのメンバーを、無傷で洞窟の奥へと届けるため。

洞窟の奥には、ジェインソン男と、この災害の首謀者がいる。


セツナたちが消耗していては、勝てるものも勝てなくなってしまう。


反攻作戦は、フロントさんの特攻が成功しなければ始まらない。

彼の持つ、黄金の鉄の(たましい)に、掛かっている。

それでやっと、スタートライン。



フロントさんは、白夜を思わせる魔力で身を包み、重くなってきた足を精神力で動かす。

決して立ち止まらない彼に、ついに掘削トロッコの部隊が追い付いた。


標的をライザから、フロントさんへ変更。


彼の背後に出現。

上下左右に穴を作り、爆発。



盾で守られていない、背後からの爆発。

前からの攻撃では立ち止まらなかったフロントさんの足が、地面から離れた。


宙を不格好に舞い、地に伏せる。


そこに、追撃の自爆トロッコ。

洞窟の奥からの部隊。


線路の上で寝ているフロントさんを、轢いてから爆発する。



「う――、ぉぉおおお!!」



右手で盾を構え、左手を地面へ突き刺した。

爆発の衝撃が、盾を突き抜ける。


骨の芯まで、衝撃が襲う。

平衡感覚が失われ、触覚も鈍くなり、宙に浮いている感覚に見舞われる。


地面に突き刺した左腕。

アンカーの代わりにした腕から、嫌な感触。

触覚も痛覚も鈍くなっているので、どうなっているのか分からない。



だが、身体は後退してはいない。

爆発を耐え、その場に踏みとどまっている。



――前に。

――奥へ、進む。



メイン盾は砕けない。

自爆トロッコの爆風を耐え、掘削トロッコの爆発を凌ぎ‥‥。


奥へ、奥へと走る。



「‥‥お前、それでいいのか?」



不敵に笑って、挑発をする。


トロッコの密度が上がってきた。

そして、洞窟の奥に、明るい光が見えた。



『とめろ! とめろ!』


『遅いぞ! 早くいけいけ!』



カボチャたちが、トロッコに早く進めと、宙で慌ただしく指示を出している。

その下を、フロントさんが突っ切る。



「ようやく必死な顔して、なんかカボチャが顔を出して来た――。」



フロントさんとトロッコが接触。

爆発。


爆発にカボチャが巻き込まれる。

残ったのは、フロントさん1人。



「――だが、とき既に時間切れ。」



フロントさんの背後から、掘削トロッコが奇襲。


フロントさんは身を翻し、カカッとバックステッポ。

掘削トロッコから距離を取りつつ、左手に握っていた石を投げつける。



「振り向きガードを固めた俺に、隙は無かった。」



爆発。

これを盾で受け、受け身を取り、起き上がる。



洞窟の奥へと進む。

自爆トロッコが突っ込んで来る。



「――俺はこのまま、タイムアップでも良いんだが?」



爆発。

それが最後の爆発となった。


爆発は止み、静かになる。

‥‥‥‥。



少しして、セツナたちがフロントさんに追いつく。


広い空間に出た。

閉塞的な一本道の先には、直径80メートルはあろう、ドーム状の空間。


線路は途切れ、空間の中央には、鉄柵で囲まれたリング。


‥‥どういう理屈で、トロッコを走らせていたのかは分からないが‥‥。

自爆トロッコの罠を抜けた。



一本道を抜け、たどり着いたのは、ジェインソンファイトクラブ。

敵の本拠地に乗り込んだのだ。



「‥‥‥‥ぐっ!?」



トロッコ地帯を突破して気が緩んだのか、フロントさんが膝をつく。


八車が、フロントさんに駆け寄る。

彼を介抱する。


収納空間から、自動注射器を取り出す。

注射器を、フロントさんの腕に打ち込む。


フロントさんの顔が歪む。

痛みによるものだ。



「ぐぐ‥‥‥‥ぐ、ぐ!?」



身体が震え始める。

震えを抑えられない。


歯を食いしばり、身体を強張らせても、抑えが利かない。

痛みから逃れようと、暴れ出した。


すかさず、八車がフロントさんに覆いかぶさる。



「大丈夫――。大丈夫だから――。

 息を吸って。ゆっくり、吐いて。」



慌てないで。

落ち着いた口調で、フロントさんに言って聞かせる。



‥‥爆発に何度も耐えたフロントさんが、痛みで暴れてしまうほどの薬。

八車は、何を彼に投薬したのか?



それは、グレイの血だ。

要するに、龍の血。



ドリーに調合してもらった、間に合わせの回復薬。


強い負の力を持つ龍の血を、回復魔法で中和。

その後、血液に含まれる生命力を、0.001%未満まで不活性化させた、単純な薬。


薬の分類としては、回復薬というよりも、滋養強壮剤に近い。

単純な薬ではあるが、効果は非常に高い。


龍の生命力を、体内に取り込むのだ。

瀕死の重傷であろうと、一時のあいだ、健康体のように振る舞える。


反面、単純であるがゆえに、副作用も高い。


龍の力など、人の身には余る。

投薬された時の苦痛は、血管の中をガラス片でズタズタに切り裂かれる感覚に似ている。


その苦痛はもちろん、全身に及ぶ。



手、足、胃、肺、心臓、脳。



身体のありとあらゆる部分。

本来は、痛覚が無い組織でさえ、痛みを覚える。


血管の中、体細胞の中。

そこを、ガラス片が通って、身体を痛めつける感覚。



常人なら、痛みで発狂して廃人となってしまう。

彼らが魔導者であるから、一時的な発狂で済んでいる。



八車が、フロントさんを抑えつけること、数十秒。


フロントさんの身体から、力が抜けていく。

龍の血が身体に馴染み、痛みが引いた。


痛みが引いても、身体の感覚が鈍いまま。

強烈な刺激のせいで、神経系がマヒしている。


しばらくは、味覚などにも影響が出るだろう。



しかし、背に腹は代えられない。

生きて帰るためには、代えられない処置なのだ。



呼吸の安定したフロントさんが起き上がる。

それを待っていたかのように、広間の上から、男の声。



「ヂェーンソッソッソォ!

 よくぞここまでたどり着いた!

 ハロウィンに挑む戦士たちよ!」



大仰な口ぶりと共に、ジェインソン男が姿を現す。


広間の中央、ファイトリングの上。

魔法の足場の上に立ち、数々のトラップを潜り抜けた魔導者たちを讃える。


彼は今日、ドラキュラのマントを身に着けている。

気分だけはラスボス。



「知恵と勇気、そして絆!

 確かに見せてもらったぜ!

 俺の好敵手として、不足なし!


 ――ファサ!」



セルフ効果音を発しながら、マントをファサり。

芝居を打ちながら脱ぎ捨てる。



「――ん、しかぁしぃ!!

 まだまだ、一級廃人ハロウィニストには程遠い!」



啖呵を切ると、大画面の魔法画面が起動する。

そこに映っているのは、渋谷だ。



「すでに、神の魔法が発動しているぜ!

 いざ召喚――! リヴァイアサンッッッ!!」



渋谷に、魔法陣が展開される。

魔法陣から水が――、海が、広がっていく。



海獣リヴァイアサン。



2日前、JJと八車が戦った大蛇(おおへび)

それが、再び渋谷の地に出現した。



「さらにさらに~!

 特別ゲストの登場だぁ~!!」



渋谷の空が曇る。

渋谷の地に、岩の柱が生える。


怪鳥ジズ。

巨獣ベヒーモス。



「場に出たリヴァイアサンと、墓地のジズとベヒーモスを、融合――!」



リヴァイアサンが、空に向かって大きく口を開く。

魔法の画面では、音声までは拾われていない。


画面の向こうでリヴァイアサンは、咆哮を上げるように、世界を吸い込むように、大口を開いている。



「3体の神獣は、融合することで真の姿を(あらわ)す!

 三頭一鼎(さんとういってい)

 出でよ、界王リヴァイアサン!!」



――大海が、空と陸を飲み込んだ。


リヴァイアサンが、ジズとベヒーモスを取り込む。

取り込み、その力を我が物とする。


三頭一鼎。

三界の神獣が、一体となった。



界王リヴァイアサン。



大蛇の背から、翼が生える。


透き通った、薄い翼。

トビウオのヒレに似た、長い翼。


大蛇の胴に、手足が生える。


地面から、巨岩が突き出る。

巨岩が割れ、砕け、成形され、手足の形を取る。


それは鋭く、獰猛な猛禽類の爪にも見える。

あるいは、凶暴な偶蹄類の蹄にも見える。


岩で作られた、4つの手足。

それが、大蛇の胴の前で浮いている。



「ヂェーンソッソッソォ!

 これが神の切り札!

 今日を待っていたのは、お前たちだけじゃないぜぇ~?

 こっちも、決戦の準備をしてたんだよぉぉぉ!!」



界王リヴァイアサンが、渋谷に召喚された。


昨日の夜、敵が大人しかった理由。

それは、これを召喚するためだ。


異界を維持するための魔力を削り、リヴァイアサンを回復させ、界王へと至らせるために魔力を使っていたのだ。



ジェインソン男は、界王リヴァイアサンを見せつけながら、なおも得意げに語る。

自分が召喚した神獣ではないのに、まるで自分の手柄のように。



「ソッソォ! お前たちは、こう考えているな?

 リヴァイアサンが召喚されても、CEがあるから大丈夫! ってな!

 ソッソッソォ! ‥‥それはどうかな?」



魔法の画面が切り替わる。

映されたのは、三軒茶屋。


三軒茶屋の、キャロットタワー。

‥‥セツナたちの拠点――!



タワーの最上階。

展望台エリアが拡大される。


待機していたハルが、渋谷の異変に気付いた。


屋上へと向かい、駆けだす。



ジェインソン男が、不気味に肩を上下させている。



3(スリー)2(ツー)1(ワン)‥‥‥‥。」






「トリック・オア・トリート――。」






キャロットタワーが爆発した。

タワーが外部から攻撃を受けた。


タワーの展望エリアは、その半分が抉られ、一瞬にして消し飛んだ。


‥‥ハルが、力無く横たわっている。

直撃は免れたが、意識を失っている。



「ヂェーンソッソッソォ!

 追加で、ヂェーンソッソッソォ!


 CEのパイロットが、くたばっちまったなぁ?

 これで、界王を止められるヤツは消えたァ!!」



ハルを奇襲で戦闘不能にし、勝ちを確信するジェインソン男。


すべては、この盤面を作りたかった。

魔導者を、自らの拠点へと誘い込み、奥深くへたどり着いた時、切り札を外へと放つ。


そして、切り札への対抗手段を、一撃で仕留める。

CEさえ居なければ、他の魔導者が寄って(たか)ろうとも、犠牲は避けられない。



セツナたちが帰る頃には、街はメチャクチャになっている。



「この俺様が、生け捕りにしたファイターをタダで帰す訳ねぇだろ!

 お前たちの拠点を探るために、マーカーをつけさせて貰っていたのさぁ!


 残念だったなぁ!

 お前らの負けだぁ!


 お前らは戦術的に勝利し、戦略的に敗北するぅ!!」



ジェインソン男は、上から指を差す。

セツナたちの、戦略的な敗北を突き付けるように。



ヂェーンソッソッソォ!

ヂェーンソッソッソォ!!


ヂェーンヂェーンソッソッソッソッソォ!!!



‥‥‥‥。


‥‥しかし。

どういうことだろう?


この場にいる5人、誰もが、顔色ひとつ変えない。



自らのタクティクスがハマって気持ち良くなっているジェインソン男は、それに気づけない。

なのでセツナが、冷や水を掛けてやる。



「‥‥‥‥それはどうかな?」


「ソッソォ?」



我に返るジェインソン男。

魔法映像を見る。


ズームアウトされた魔法映像に、人影が映った。

キャロットタワーの屋上、ヘリポートに女性の姿。


金髪碧眼。

ハルの姿。



「来なさい――、グレイドラグーン!」



ハルが、空に向けて右手を掲げる。

空に魔法陣が展開される。


魔法陣が空を覆い、するとハルの足元の影が濃くなる。

影が、広がっていく。


影が咆えた。

影の咆哮により、影が湧き立つ。


湧き立ち、湧き上がる。


泥のように湧き上がった影。

ハルを包み、ハルを空へと連れ去っていく。



ハルは影の中に消え、影は魔法陣の中へと消えた。

その様子を映像で見ていたジェインソン男が、マスクの上からでも分かるほどに焦る。


――センチュリオン、オーバードライブ。



「‥‥‥‥げっ!?」



――タイタンフォール、スタンバイ。



渋谷に、灰色の竜がフォールする。


界王の御前。

三界を統べる王に、恐れもせず咆哮した。



「さあ、始めましょう。」



‥‥‥‥

‥‥

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