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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
9章_厄災が眠る場所

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9.03_集合知

人間の本質とは何か?

農耕民族である日本人からすれば「欲」こそが人間の本質であろう。


農耕をする動物は、人間をおいて他に存在しない。

農耕こそが、人間が他の動物とを画する「生態」なのだ。


農耕と狩猟の差は何か?


それは、投入する労力と、得られる食糧の関係性にある。


狩猟は、狩れば狩るほど、食糧は減る。

獲物を乱獲すれば、そこで食料は得られなくなってしまう。


だから、狩猟動物は、足ることを知らないといけない。


狩りをして、獲物を仕留めて、お腹がいっぱいになったら、昼寝をする。

動かず、エネルギーを温存する。


そうするとこで、獲りすぎない進化をしてきた。

そうでない者は、皆、淘汰された。



しかし、農耕は違う。

働けば働くほど、食糧は増える。


畑を耕して、畑を広げて、たくさん作物を育てれば、食糧はどんどん増える。


人間に、「財産」の概念が誕生した。

財産が多ければ、生存に有利になることが分かった。


他の動物が、足ることを知る進化を辿るなか、人間は満足を知らない進化を辿った。


財産を、他の者よりも多く獲得する。

それが生存に有利だから。


生存競争の力学により、人間は選別され、欲深い人間が生き残った。


だから、人間は欲深い。


そう進化したから。

その方が、「財産」の獲得に有利だったから。


人間の欲に、際限はない。


一時(いっとき)、増えた財産に満足したとしても。

いずれは、それに慣れてしまう。

次が、欲しくなる。



富める者も、貧しき者も――。


皆、貧しさにあえいでいる。

欲しい物が、違うだけで。



そして、地球に生きる人類は、魔法を手に入れた。

魔法を手にした、幸運な貧者はいったい、何を思う。





現代における、武術の価値とは何か?

戦いにおける、徒手の価値とは何か?


物心がついた頃は、拳ひとつで最強になれると思っていた。


スクリーンの向こうで繰り広げられるバトルみたいに、1人で敵をバッタバッタと千切っては投げ、天下無双の武人になれると、本気で思っていた。


だが、現実は違った。


戦国時代、武士が刀を振るうことは稀であった。

どんなに優れた剣豪でも、百姓が構える竹の槍衾(やりぶすま)に勝てなかった。


時代が下ると、銃が発明された。

剣も槍も、時代遅れになった。


さらに時代が下ると、ネクストが発見され、ギアが発明された。


ネクストには、情報を書き換える性質があった。

さらに、人間の感情に反応して、出力や強度が上がる性質があった。


人間は、銃弾に耐えられるようになった。

ミサイルにも、耐える者も出てきた。


戦場は再び、白兵戦が主流となった。

刀や槍が、戦場の舞台に返り咲いたのだ。


だが‥‥。

だがしかし。


拳だけは、いつの時代も、脚光を浴びなかった。


刀が槍に勝てないように、槍が銃に勝てなかったように。

拳は、刀にすら勝てない。


槍、銃などは、もっと勝てない。


拳が強いのは、フィクションの中でだけ。

フィクションの中の、幻想(ファンタジー)が、拳を強くしていただけなのだ。


それでも、自分は鍛錬を続けた。

それが性に合っていたから。


そして今。

自分は、かつての憧れを、思い出しつつあった。



‥‥‥‥

‥‥



「ふぅ――。今日は、こんなもんにしとくか。」



左手で、右手の拳をさする。


乱れた道着を直し、目の前のロボットに礼をする。

ロボットからも、礼が返ってくる。


ロボットの手には、金棒。


金棒のような刀が握られている。

厚さが3cmはあろう分厚い鉄板は、ところどころ凹んでいる。


今日の稽古でついた凹みもあれば、昨日ついた凹みもある。


鉄板が、刀の形を保てなくなるのも、時間の問題だ。



東京都にある、自衛団のトレーニングセンター。

城山 譲治(しろやま じょうじ)は、そこで日課の稽古を終える。


城山 譲治。

セントラルでの名を、JJ。


生まれは北の方なのだが、武者修行と社会勉強のために、生まれ育った町を離れ、幼馴染と上京してきた。


爺さん曰く、「遊びも稽古のうち」らしい。


確かに、色んなものを見て、経験することは大切だ。

特に、色んな人間と出会うことは、大切だ。


勉強になる。

思考は、行動に現れるのだ。


色んな人間を観て、どんな動きをするのか?

それを考えると、良い稽古になる。


街を歩き、すれ違う人々を観るだけでも、稽古になる。


慣れると、渋谷を歩く人間の中から、自衛団や武術の経験者を見抜けるようになる。


仕事は準備が8割。

戦いだって、準備が8割だ。


武術では、100個の技を練習するよりも、1つの技を極めた方が強い。

けれど、防御に関しては、100個の技を知って対策しておく必要がある。


そのためには、観る・受ける。


情報と経験。

見取り稽古も、1日では成らず。


日々の生活の中にも、稽古ができる場面があるのだ。

町を離れ、師と離れることで、実感として理解した。



そんな彼の、最近の稽古内容は‥‥。

もっぱら、魔法の鍛錬。


ある日、「なんかイケる」そう思って、模擬戦用ロボットと組み手をしてみた。

ギアを使わず、組み手をしてみたのだ。


常人の膂力を遥かに上回るロボットと、生身で戦う。


結果、ロボットは修理屋送りになった。

入院である。


譲治は、素手で金属の塊を破壊したのだ。

――全身の細胞が震えた。


昨年の暮れに、テロリストと命のやり取りをした。

その時に匹敵する、細胞の震え。


自分の身体は、今まで寝ぼけていたと、そう思ってしまうほどに、自分の中で何かが崩れ、覚醒する感覚。


自衛団のAIに、「生身で模擬戦用のロボットを壊した」と報告した。

AIからは、それは魔法の影響かも知れないと返ってきた。


1週間ほど前から、全国で、不可思議な力に目覚る人間の報告が相次いでいるらしい。

譲治も、その1人だろうとの回答を貰った。


詳細は関係各所で調査中とのことで、異変や異常を感じたらすぐに連絡をしてくれとも言われた。



そうか‥‥、魔法‥‥。



これがあれば、自分の拳は、もっと強くなれる。

魔法がある社会なら、拳は、あるいは――。



幼き日の夢が、手の中に蘇った。



まあ、それはそれとして。

ロボットが、ベコベコのボディを労わりながら、トレーニングルームから退室する。


譲治は、シャワーを浴び、汗を流し、自宅へと帰る。


トレーニングセンターから自宅まで、徒歩で10分。

大学に近いところじゃなくて、トレーニングセンターに近いマンションを借りた。


マンションに帰ったら、道着を洗濯機に放りこんで、スイッチオン。

それから、自室の布団の上に、横になる。



遊びも稽古のうち、だ。





セントラル南部。

大小様々な島々が広がる、諸島地域。


JJは、PvPサーバーのセントラル南部を訪れていた。


そこの島で、今日は集会があるのだ。

今日、自分のために、集まってくれた連中だ。



「ようJJ。」

「よう、スミス。」


「まさか、お前が頼み事なんてな。」

「チャットでも言ったが、みんなの知恵を借りたいんだ。」


「応とも。オレ達で良ければ、いくらでも知恵を貸すぜ!」

「助かる。」



セントラル南部の、とある無人島。

バカが暴れても、ご近所のご迷惑にならない島。


そこに、10人ほどのプレイヤーが集まっていた。


今日この島に集まった面々。

普段は積極的につるむことは無く、たまに集会を開いた時にだけ顔を合わせる面々。


ここに居る者は、全員「火薬術士」だ。


5弱クラス「火薬術士」の小さなサークル。


彼らは今日、JJの相談に乗るために集った。


JJを出迎えたのは、スミスという女性。

女性アバターであり、女性プレイヤー。


口が悪く、ガサツな性格。

現実世界では敬遠されそうな言動も、電脳世界では長所に早変わり。


赤く長い髪に、タンカージャケットという風貌。

ジャケットの下に着ているタンクトップの裾から、へそを覗かせている。


ガサツで野暮ったい、スミスがこのサークルのリーダー。


JJをサークルに勧誘したプレイヤーでもある。


彼が、彼の幼馴染と一緒にPvPサーバーを散歩していたとき、スミスはサークルのビラ配りをしていた。

勧誘作業である。


JJは、その時に捕まえた。


その日はビラだけ渡し、後日、体験見学。


気の良い連中が多かったので、JJはサークルに入ることにした。


()()()()3()()では出来ない、火薬術士談議。

それが、新鮮だったのだ。


また、サークルメンバーとしても、JJの加入は大きかった。

大型新人の加入である。


エンジョイ勢が多い火薬術士の中で、JJは超貴重なガチプレイヤー。

上位層の実力を持ったプレイヤーの加入に、メンバーは喜んだ。


クラス談議の質が、向上した。


今日は、大型新人のJJから相談を受けたのだ。


「知恵を貸して欲しい」と、サークルのチャットにメッセージが来たから、せっかくなので集まることにした。


百聞は一見に如かず。

理論や理屈は、実戦で証明してこそだ。


M&Cプレイヤーは、模擬戦民族。

口より先に、手が出る世紀末。


戦えば分かる。

何事も。



JJとスミスは、肩を並べて歩き出す。


他のメンバーの所へ向かう。

他の連中は、PvPで盛り上がっている。


距離があるので、雑談しながら歩く。



「そんで――。今日はオレらの戦い方が知りたいって?」

「そうだ。」


「アンタの方が強いのに、戦い方を聞くのか?」

「俺よりも、もっと強いヤツをぶっ飛ばすのに、必要なんだ。」


「‥‥サウザントの連中か?」

「ああ。今のままじゃ、ちょっと厳しい。」


「はーん。強いってのも、大変なんだな。」



M&Cには、シネマチック・シナリオ・システムという、分岐システムが存在する。


そのシステムにより、シナリオが有機的に変化するだけでなく、難易度も、プレイヤーに合わせて変化する。


JJは、ランカーという、プレイヤーの最上位。


敵の強さも、最上位に設定されている。


ただでさえ強い敵に、シネマチックの補正が掛かるものだから、サウザントのと戦いは、激戦が必至。


だからこそ、火薬術士の知恵を借りたい。

ブレイクスルーが要る。


クラスの性能を、より引き出すための、ブレイクスルー。

それが欲しい。



上澄みの事情を知り、スミスは手を頭の後ろで組む。


頼られるのは、悪い気分じゃない。

スゴイ奴からのそれは、格別だ。



「勉強熱心だね~。

 オレなんか、火薬をぶっ放せば楽しい。

 それくらいしか考えてない。」


「俺も同じさ。

 だから、もっと楽しくしたい。」


「なるほどな。」



雑談をしていると、足元にプレイヤーが転がってきた。

PvPで、火薬鎚に殴られてすっ飛んで来た。


焦げた服の匂いが、足元から漂う。



「ようJJ、来たか。」

「ようニック。」



挨拶をして、JJは手を貸す。

JJの手を借りて、ニックと呼ばれたプレイヤーは立ち上がる。


ニック、正式なプレイヤーネームは、コペルニクス。

偉人の名を名乗っているが、天文学は良く分からない。


でも、地球が丸いことは知っている。


PvPもひと段落。


サークルのリーダーであるスミスが、音頭をとる。



「よーし。お前ら、今日は良く集まってくれた。

 今日集まってくれた理由は、チャットであった通りだ。

 凄腕火薬術士が、オレ達に火薬の使い方を教えてくれだとさ。」


「みんな、よろしく頼む。」


「「「へーい。」」」



火薬術士集団から、賑やかなような、落ち着いたような、そんな返事が返ってくる。



「で、誰からいくよ?」



ニックが、全員に視線を送る。

栄えあるトップバッターに、名乗り出る者がいないか、立候補を待つ。


すると1人、無言で前に出る。

グルリと円になって集まっているメンバーの中から、1歩前に出て立候補。



「‥‥俺がいく。」

「おっ、レイサーか? かましたれ!」



ニックに、レイサーと呼ばれた男。

古ぼけた焦げ茶色のロングコートに、フェイスマスク。

頭には、ハンチング帽にヘッドフォン。


肌の露出を嫌ってそうな男が、小声で名乗り出た。



「レイサー、頼む。」



JJの言葉に、コクリと返すレイサー。


インベントリから、主力火器を取り出す。

量産型パイルバンカー。


いま、火薬術士たちあいだで、もっとも熱いアイテム。


全員の視線が、無限に放てる欠陥品に集まる。



「‥‥必中法がある。」


「「「おお!!」」」



JJだけでなく、周囲の人間からも歓声が上がる。

火薬術士による、火薬術士のための技術交流会。


トップバッターが披露します技は、なんとパイルバンカーを必中にする方法。


最初から、大きな期待がかかる。



「‥‥JJ、受けてみてくれ。」


「分かった、やってみてくれ。」



ここは電脳世界。

強い技を理解するには、くらってみるのが手っ取り早い。


実学主義。


ギャラリーは、レイサーとJJから距離を取る。


JJも、レイサーから離れる。


彼我の距離が10メートルほど離れたところで、足を止める。



「この距離でも、必中か?」

「問題ない。」



ボソボソと喋っているが、通信機能のおかげで、良く聞こえる。


JJは、自然な状態で構える。

武人の宮本武蔵のように。


両手をだらりと垂らし、膝を抜く。


半身にならず、守りも取らず、相手が攻撃しやすい構え。


この構えは、後の先の構え。


相手を先に動かし、こちらが相手よりも先に攻撃を当てる。

攻撃を誘う構えであり、自分は脱力し動きやすい構えなのだ。


レイサーは、パイルバンカーを照準。

右手だけで、パイルバンカーを抱え込む。


成人男性の身の丈ほどある、巨大な杭銃を抱え込み、右半身となる。


左手に、火薬籠手を装備する。

左手を、後ろへ向ける。


蒼い炎が、籠手から噴き上がる。

レイサーの背後で、轟々と燃える。



(ん? これは――?)



必中パイルバンカー。

種も仕掛けも、分かってしまった気がする。


籠手の炎が、より強く燃え上がった。

ブースターオン。


レイサーがかっ飛んだ。

JJに向かって。


火薬の力を推進力に。

足で地面を焦がしながら、疾走する。


10メートルの間合いを、一瞬で詰める。


必中パイルバンカー。

それは、火薬を使った加速により放たれる一撃。


近づかないと当たらないのなら、近づいて当てればいい。

速く、逃げられないスピードで。


コンマ何秒という速さで、彼我の距離は無くなる。

パイルバンカーの間合いとなる。


そして――。



「ぐふっ‥‥‥‥!?」



レイサーが倒れた。

仰向けに倒れて、倒れた拍子に、銃の引き金を引いてしまう。


誤射。

空に向けて、火薬杭が発射される。


脇に抱えこんでいた銃が、反動で沈み込む。

皮膚と肉が挟まって、地味に痛い。


火薬杭は空に向けて発射され、短い空の旅を終えて、レイサーのデコに落ちた。



「‥‥ラリアット。」

「大丈夫か? レイサー?」



JJの手を借りて、レイサーが立ち上がる。

必中パイルバンカー、失敗。



‥‥多くの者が気付いたはずだ。


バレバレなのだ。

この必中バンカーは。



左手を後ろに向ければ、「今からブースターで加速して、そっちに行きます」と、そう言っているような物だ。


火薬術士を知らない者には、決まるかも知れない。

しかし、ネタ的な話題に事欠かないクラスである「火薬術士」を知らないなんてプレイヤーは、居ないだろう。


ただ、魔法界の敵に対してならば、有効な初見殺しだと言える。

相手を選べば、充分に強力だ。



「‥‥必中、失敗。」


「そう言うな。悪くなかったぞ。

 ――何より、大和魂を感じた。」



JJのサムズアップに、レイサーもサムズアップで答える。

ギャラリーからも拍手が送られる。


そこに、ニックが登場。



「なあ、その竹槍突撃だが‥‥、火薬刀でやってみれば良いんじゃね?

 こう、刺突みたいな感じで。」



ニックのアイデアを聞き、全員の視線がJJに集まる。

そういうのは、刀の扱いに長けた、彼の出番だろう。



「やってみよう。」

「じゃあ俺が受けてみる!」



選手交代。


JJが攻撃し、ニックが受ける。

こういう構図となった。


10メートルの間合いを取る。


左手に、火薬籠手を装備。


火薬刀を鞘から抜き放つ。

正眼に構える。



「よっしゃ来ーい!」



ニックも、刀を抜いて応戦の構え。


両者立会い‥‥。

ブースターオン。


JJの手元で、蒼い炎が噴き出す。


炎が燃え盛り、加速。


火薬籠手は、別に手を後ろに向けなくても、加速ができる。

そもそもこの武器は、拳の威力を火薬で高めるための武器なのだから。


先ほどのレイサーよりも弱い加速で、JJは間合いを詰めていく。


刀の切っ先が、ゆらゆらと揺れる。

相手のガードを揺さぶる。


そして、突きの構え。


ニックは半身になり、刀の影に自分を隠す。


突きをいなし、逸らすように構える。


火薬によって距離が詰まり、刀の、突きの間合い。

攻めと守りが、交錯する。


‥‥‥‥JJが、身を翻した。


くるりと一回転しながら、ニックの横を通り過ぎる。



「‥‥あれ?」



まんまと背後を取られるニック。

背後には、抜き身の刀を握るJJ。


身を翻す体捌きと連動させ、白刃を下から上へ掬い上げる。


白刃が、ニックの背中を逆袈裟に切り裂く。



「ギャー!?」



背中を逆袈裟にした刀は、上に流れる。

上に流れて、上段の構え。


‥‥ブースターオン。



「ぬぅん!」

「ギャーーッス!!?!?」



蒼い炎が弾け、煤けた白刃が、背中を袈裟に斬って捨てた。


変化は、速さに勝る。

一直線一辺倒の高速よりも、千変万化する攻め手の方が、遥かに見切り辛い。


ニックは刀を手から落とし、膝をつく。



「む、無念‥‥、ガクっ。」



パタリ、その場に倒れる。


JJは刀を振り、血払い。

残身をして、納刀。



「――フッ。面白い奴を斬ってしまった。」



火薬突撃、使い方次第のようだ。

火薬籠手や火薬杭を除く火薬武器は、残弾が共有されている。


なので、刀や鎚が弾切れとなった場合、この火薬突撃は緊急処置として有効だ。


威力は、通常よりも劣るが、いざという時の攻撃手段となる。

弾切れになるとポンコツと化す火薬術士にとって、知っておいて損は無いだろう。


ギャラリーも、JJの技を興味深そうに見ている。


レイサーがサークルに持ち込んだ、竹槍突撃。

それにニックが改良案を出し、JJの手によって改良が施された。



これぞ、集合知のチカラ。


知識とは、トライ&エラーの集積だ。

膨大な失敗を集積し、その中から砂粒ほどの成功をかき集める。


砂粒には、黄金以上の価値がつく。


そして、その黄金は、次なる黄金を生み出す。


集団に知識が共有されることで、次なる知識を生み出す着火剤となるのだ。



個人の専門知が、集合知のレベルを底上げする。

底上げされた集合知は、別の専門知を生み出す。



このサイクル、この横軸の継承こそ、ネット社会の利器なのだ。


情けは人の為ならず。

どこかで自分に返ってくる。


因果応報が世の常ならば、人の恨みよりも、情けが返ってきて欲しい。


人間の本質は欲ではあるが、それで良い。

その欲が、誰かの役に立つことで、社会は回っている。



倒れていたニックが起き上がる。



「へへへっ。俺も、良い物を仕入れてんだ。

 さっきのお礼に、とっておきを見せてやる!」


「ほう。そいつは楽しみだ。」



自信満々なニックの表情に、スミスは額に手を当てる。

呆れたように、首を横に振る。



「JJ、ソイツの言う事に耳を貸すな。

 気にしなくていい。」


「なにを~!?」


「‥‥正直、アレは無い。」


「レイサーまで!?」



何やら、たいへん酷評らしい。

この2人は、「良い物」の正体を知っているようだ。


スミスとレイサーの静止を振り切って、ニックはスマートデバイスを取り出す。



「良いもんね! 何を言われようが、みんなに見てもらうもんね!

 ――ポチっとな!」


『センチュリオン、オーバードライブ。』



空に魔法陣が展開。

青い魔法陣が描かれて、CEが転送される。


‥‥魔法陣に、黒い稲妻が走る。


そのエフェクトは、呼び出すCEが、”悪魔”であることの証。


魔法陣の中央が開く。

大きな――、雪の結晶と共に、氷の女帝が降臨した。



三悪魔CE、スノーデビル。



厄災の幼体、グレイドラグーンの姉にあたる機体。

軽量級のCEで、長い爪と、シャープなボディを持つ。



闇の支配者、カオスルーラー。

氷の女帝、スノーデビル。

厄災の幼体、グレイドラグーン。



これらは三悪魔CEと呼ばれ、龍の肉体の一部を取り込んだCE。


ニックは、この悪魔に、スキルリンクで火薬を注入するつもりでいるらしい。

意気揚々と、CEに乗り込むニック。


‥‥心なしか、CEが、心底嫌そうな表情をした気がした。



「へへへっ。皆の衆、刮目しなッ!

 セントラルに、黒い雪が降るぜ!


 DDD――、ダイヤモンド・ダスト・ディアマンテ起動!

 スキルリンク!!」



スノーデビルは、龍の血を取り込んだCE。


龍の血は、龍の憤怒すら凍てつかせる。

龍が、自らの力で自壊せぬよう、強力な負のエネルギーを有している。


負のエネルギーが、周囲から力を奪う。


負の力が、氷の結晶となる。

ダイヤモンドダストが、女帝を起点に広がっていく。



‥‥‥‥空から、CEがフォールしてきた。



ギャラリーの視線は、突如フォールして来たCEの方に行ってしまう。

CEは、こちらに攻撃してきた。


レーザー光線が、女帝を暗殺せんと狙撃する。


レーザーが、ダイヤモンドダストに接触する。


女帝の氷は、剣であり鎧である。

耐久力はCEワーストであるものの、氷の鎧により、重量級のような耐久力を実現できる。


の、はずなのだが――。



「ギャーーーーッス!!??」



女帝が弾けた。


火薬の爆発が、女帝に化粧を施す。

黒い爆煙が晴れた先には、くたびれた女帝の姿があった。


スミスは、憐れなCEと、救いようのないバカに対し、溜め息。



「見ただろ、JJ?」

「ああ見た。しっかりと。」


「あれ、氷の中に火薬を詰めてるんだ。」

「みたいだな。」


「スノーデビルは軽量級だ。たいていのCEよりも速い。」

「その速度で、黒い雪をばら撒くって戦術か。」


「当たり。‥‥けど。」

「衝撃に弱いと。」



どうやら、火薬は、龍の血によっても止められないらしい。

氷の中に封入した火薬は、少しの衝撃で発火。


先ほどのように、自爆してしまうリスクがあるのだ。



秀でた速度で、火薬をばら撒く。

なるほど、理論上は強そうだ。


不可避の面制圧になる。



しかし、所詮は5弱クラスのネタクラス。


上手い話しには、オチがあるのだ。


レイサーが、ボソリ呟く。

バカに、トドメを刺す。



「‥‥黒い雪は、スノーデビルが高速機動しただけでも、発火する。」


「‥‥‥‥。」



火薬とは、繊細なのだ。

ガラス細工のように、丁寧に扱ってあげないといけない。


氷のおくるみでは、少々心許ない。

‥‥心許ないが過ぎる。


黒い雪化粧は、女帝が勢いよく動き回るだけで、爆発してしまう。


スノーデビルに火薬を積むと、手の込んだ自殺装置になるのだ。



「クソ! シンクロを使って、爆風よりも速く動ければ‥‥!」


「そのCE、シンクロできないだろ。」(※ep.170より)


「‥‥浪費女帝。」


「ぐぬぬぬ――。てか誰だよ! 俺に攻撃してきたアンポンタンは!!」


「‥‥あ、もう会話に混じってイイ感じ?」



先ほど、スノーデビルを狙撃したCEが、空を飛ぶ。

その背後には、輸送ヘリが2機。


ヘリから、合計で10人弱のプレイヤーが飛び降りる。


CEによるアンブッシュのお詫びに、空から爆発する魔法をプレゼント。


火薬術士の周囲に、砲弾のような魔法が着弾。

全員、爆風に包まれる。


非礼に、非礼を重ねる挨拶。

セントラル流である。



「オラァ!」

「ぬぅん!」



爆風を、火薬で払いのける。

火薬刀で、爆発を叩き斬った。


和気あいあいとして交流会は一変。

剣呑な雰囲気となる。


ヘリから飛び降りたプレイヤーの1人、リーダーらしき人物が、前に出る。



「おうおうおう!

 湿気た(しけた)火薬どもが、発破士の庭で何やってんだ? あぁん?」


「アァん?」



売り言葉に、買い言葉。

口の悪いスミスが、即座にメンチを切り返す。


PvPサーバーの事情に疎いJJは、レイサーとひそひそ話。



「どちら様?」

「‥‥発破士の連中。商売敵。」


「理解した。」



火薬術士と、発破士。

火薬にロマンを求めた者と、爆発にロマンを求めた者。


どんぐりの背比べ。

底辺争い。


同業者であり、ライバル関係。

犬猿の仲。


――っていう、設定。



発破士サークルのリーダーが、偉そうに腕を組む。



「今日こそ、貴様らに引導を渡してやる。」


「面白れぇ! 返り討ちにしてやる――ッ!」



リーダー同士が、メンチを切り合う。

互いの取り巻きたちも、武器を構える。


数は互角。


なのに、発破士のリーダーは、余裕の表情。



「格の違いを、貴様らに見せてやろう。

 優れた、発破士の力を!

 ――先生! お願いします!」



どうやら、相手には助っ人がいるらしい。

それも、自信満々になれるほどの実力者が。



「先生! ‥‥先生! ‥‥先生?」



しかし‥‥。


呼べども呼べども、先生は姿を見せない。

恥ずかしがり屋さんなのだろうか?



発破士の取り巻きが、みんなに聞こえる声で、リーダーに耳打ちをする。



「あの‥‥、リーダー。

 ブーマーさんですが、帰られました。」


「えっ!? なんで!?」


「女のケツ追っかけに行きました。」


「‥‥‥‥。」



黙りこくるリーダー。

スミスは、納刀している刀で、肩を叩く



「おいボンクラァ、覚悟は良いか?」


「ふ、ふん! 先生の力などなくとも、湿気た連中など、恐るるに足らんわ!」


「‥‥ケツに火薬詰めて、蹴り飛ばしてやるッ!」



‥‥‥‥

‥‥



こうして、火薬術士の技術交流会は、発破士を交えた、多業種交流会へと発展した。


勝負は、火薬術士の圧勝だった。

ランカーである、JJの存在が大きかった。


発破士の先生――。

ランカーであるブーマーが居れば、結果は変わっていたかも知れない。


まあ、女好きの彼である。

火薬術士サークルのリーダーが女と分かれば、平気で寝返っていただろう。


やっぱり、結果は変わらなかった。



交流会により、会場だった島は地図から消えることになるのだが‥‥。

それも、些末な問題だ。


来週になれば、また生えてくる。

何事も無かったかのように。

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