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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
9章_厄災が眠る場所

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9.01_修行

シーズン3、開幕。

22xx年代。

新エネルギーネクストが発見され、著しい科学の発展を遂げた新現代。


人類は、ネクストがもたらした無限の富によって、緩やかな絶滅に向かっていた。


月の女神は、そのとこを嘆いた。

嘆き、人々に悪魔を遣わせた。


愛しい我が子が、少しでも生きながらえる様に。


人間の内に眠る、人ならざる力。

女神は我が子に、それを与えた。


進化の悪魔を利用して。


最初の悪魔であり、進化の悪魔。

彼は、地球の人間を進化させる。



人を、人の形を保たせたまま、それ以外の存在へと‥‥。



全ては、新月の女神の愛情ゆえに。

愚かで愛しい我が子が、安寧の夢を見られるように。


新月は、()()を好む。

しかし、無情の世を好まない。


愛しい愛しい我が子。

どうか、理想に微睡み(まどろみ)、目覚めぬ夢を‥‥。


狂おしいほどの平穏を。

悠久さえほど眠ってしまうほどの安寧を。


眠りなさい。

月が導くままに。

母の膝のうえで。



――悪魔が女神を殺す、その日まで。



‥‥‥‥

‥‥





マジック&サイバーパンクは、今から約半年前に発売された。

シグレソフトと――、女神が開発したVRゲーム。


ゲームソフトの正確なジャンルは、ハードVRアクション。


プレイヤーは、人類が魔法を発見したパラレルワールドを舞台に、冒険をする。


ハードVRゲームを遊ぶには、脳に電脳野が必要。

電脳野とは、人工的に構築した脳領域。


いわゆる、言語野に該当する領域で、人間の言語を機械の言語にしたり、機械の言葉を人間の言語に訳する役割を持つ。


電脳野は、国防にも関わる大切な技術であるため、保有にはライセンスが求められる。


イメージとしては、旧現代の猟銃免許に近い。

電脳野があれば、「ギア」と呼ばれる兵器を扱うことが可能になる。


ギアを使えば、壁を走ったり、銃弾に生身で耐えたり、超人的な身体能力を獲得する。


一般人が電脳野を持つ手段は、自衛団という組織の入団トライアルをパスするか、あるいは科学者として実績を残すか。


大きく、この2つに分けられる。


電脳野を持つ日本人は、全国で20万人ほど。

人口6000万人の中で、20万人。


内訳は、半分が軍人や警察などの公人。

残り半分が、自衛団。


科学者は、全体の3%にも満たない。

※ただし、科学者でありながら、自衛団にも所属する人間もいる。



ハードVRというゲームジャンルは、全国で20万人しかいない者を対象にしたマーケット。


当然、電脳野を持っていても、VRゲームを趣味としない人間だっている。


新現代の日本は、ゲーマー大国。

人口のおよそ3割が、ゲームを趣味にしている。


そんなゲーマー社会においても、ハードVRは、相当ニッチなジャンルであり、界隈。


言うなれば、絶海の孤島。

繁栄と栄華を極めるゲーマー社会から断絶された、地図の最果て。



ハードVRの世界を旅するダイバーは、今日も地図の果て、電脳都市(セントラル)に赴く。

半年前、新たに海図に記された、新天地。



マジック&サイバーパンク。

‥‥この世界は、ゲーム以上の、意味と価値を持っている。



気付き始めている。

目覚め始めている。


ダイバーたちが、現実の異界化に。

魔法が、現実を侵食していることに。


ダイバーは、電脳に潜り新月を探す。


全ての答えを、その海に求めて――。



‥‥‥‥

‥‥



「ぜぇ‥‥! ぜぇ‥‥!

 なんか、すっごい疲れた、かも‥‥。」



結晶に覆われた、異界化した街の真ん中で、ダイナは息を切らす。

電脳の世界で息切れなど、本来はしないのだが‥‥、気疲れはする。


心強い旅のお供がいたはずなのに、今日はすっごい疲れた。


灰色の杖を地面につき、体重を預ける。

呼吸を、整える。


視線を前に戻せば、金髪翠眼の美女。

腰に少し届かないくらいの金髪を、ポニーテールでまとめている。


手には、ダイナと同じ、灰色の杖。

抜刀することにより、強力な魔法を放つ、魔法剣。


それを握る美女は、まるでスポーツマンの風貌。


スポーティなショートパンツに、黒いレギンス。

トップスには赤いジャージ。


見るからに活動的な女性の正体は、満月の女神フィナン。


七曜八柱、月の女神が5番目。

金曜の女神、富と技術の女神にして、武人であり軍神。



彼女は、ダイナの異界武器として、セントラルに顕現した。

そして、ダイナと協力して、街を侵食する異界化の原因「落とし子」を倒した。


この間、ダイナは3回ほど死亡している。

‥‥フィナンが原因で。


つい先ほどの、落とし子との決戦でも、フィナンから授かった祝福で死に掛けた。


満月の祝福。

戦士の潜在能力を極限まで引き出す、女神の奇跡。


ゲーム用語で言うところの、バフだ。


ダイナは、そのバフが原因で死に掛けた。


身体が、女神の奇跡に耐えられなかったのである。


身体の奥底から、湧き出るチカラ。

それが、あまりにも大きすぎた。


身体の内側から、ダイナの肉体は爆ぜた。


爆ぜて、体力の99%が消し飛んだ。

その体力が、女神の奇跡によって、即座に回復。


そして、行き場を失った奇跡の力が、再度爆発。


爆発したら、体力が減って、また回復。

回復したら、また爆発――。


新手の拷問かと思った。

実はこの女神、敵なんじゃないかと疑った。


そんなこんな、かくかくしかじか、紆余曲折。

やっとこさ、ダイナとフィナンは、落とし子を倒した。


落とし子は、異界化の核。

核を壊せば、異界化は収束する。


結晶の街も、元の姿を取り戻すだろう。。

同時に、異界化が原因で生まれた異界武器は、自らの姿を思い出す。



別れを悟ったフィナンは、ダイナに向けて振り返る。

母のような微笑みを、ダイナへ向ける。



ダイナも背筋を正し、女神を見送る。

そうして、一夜の冒険は終わり、思い出となる。


記憶のアルバムに、しまわれる。






‥‥‥‥はずだった。



女神の姿が薄れ、透明になり――、ノイズが走った。

姿が乱れ、映像が乱れ、落ち着く。


女神は、存在感を取り戻す。

透明だった身体が、元に戻る。


しかし、どうにも様子がおかしい。

しきりに、周囲をきょろきょろと見渡している。


まるで、ここが何処かを確かめるように。


ダイナは戸惑い、しかし出来ることもなく、様子を見守るしかない。

困惑顔の女神と、戸惑い顔のダイナの、目が合った。


お別れムードから一転。

妙な沈黙が流れる。



「‥‥‥‥。」

「‥‥‥‥。」



フィナンは、神妙な面持ちとなる。


普段はあどけない、少女と紛う童顔。

それが一変、凛々しい顔つきとなる。


女神の3番目。

満月は、その妹なのだという説得力が増す。


フィナンは、右手の親指を噛む。


智慧の鮭の油が沁み込んだ、親指。

親指が、満月に智慧を与える。


智慧を閲覧。

そして理解した。


この場所――、この状況――。


親指を、口から離す。

人差し指を伸ばす。


彼女の指先から、何か、月の光に似た、薄く淡い光が広がった。

光は、街一帯を覆うまで広がる。


――月の結界。


世界を切り取り、断絶する、女神の結界。


ダイナの身体から、魔力が消え失せる。

電脳の肉体が有している魔力が、結界によって無効化される。


状況が飲み込めないダイナに、満月は優しく微笑みかける。



「これも、何かの縁。

 キミの本当の力、僕に見せてくれ!」



フィナンの握っていた灰色の杖が、形を変える。

西洋の剣は、日本の刀へ。


物干し竿と呼ばれる、刃渡り3尺の、長尺(ちょうじゃく)長得物(ながえもの)へ変わった。


刃渡り90cmはある刀を、抜刀。

白刃を引き抜くと同時、夜風がダイナの頬を撫でた。


白刃は、すぐさま鞘に戻り、輝きを鞘雲(さやくも)に隠す。



「ふむふむ――、風来刀(ふうらいかたな)か。

 良い物だね!」



ダイナは直感する。

これは、ゲームの仕様ではない。


大慌てで、現実世界の身体を動かす。


右耳に取り付けた、VRゲーム用のデバイスを外そうとする。

プレイヤーの脳に、夢を見せるためのデバイス。


電脳世界の夢から目覚めようと、そう思って現実の肉体を動す。


‥‥動かない。

現実の生身が、動かせない。


手が動かず、デバイスを外せない。

瞼が開かず、脳裏に夢が投影され続ける。


‥‥‥‥。

‥‥‥‥!



「安心して。キミの安全は、この満月の女神、フィナンが保証するよ。

 だからちょっとだけ、僕のワガママに付き合ってくれないかな?」



‥‥この女神は、本物だ。

異界武器としてのフィナンとか、女神を騙る偽物とか、そういう次元の話しではない。


文字通り、話しの次元が違う。


この女神は本物だ。

現代、現実世界に存在する、満月の女神。



その者、その女神が、いま、目の前にいる。



なぜ、彼女がセントラル(ここ)にいるのかは分からない。

けれど、彼女が何を求めて、何を期待しているのかは、分かる。


ダイナは、魔法を行使する。

魔力が流れ、左手に集まる。


血流のように流れる魔力が、身体の外まで伸びる。


血が固まる。

固まって、物質となる。

物質となり、武器となる。



刃渡り3尺、長尺(ちょうじゃく)長得物(ながえもの)

ダイナの手に、物干し竿が握られる。



()も、目覚めた1人なのだ。


満月が、楽しそうに笑う。



「そうそう。男の子は、やっぱりそうでなくっちゃ!」



ダイナとしても、願ってもない好機。

この力の、使い方を知れるのだ。


女神からの指南ともなれば、鬼に金棒。



「わくわくしてるかい?

 自分の可能性に?」



ダイナは深く、ゆっくりと頷き――。

手から、白刃を抜き放った。






――強くならなければ。

新月の企みも、人の悪意も弾き返せるほどに。


もう、自分の大切なものを、誰にも奪わせないために。


幸いにも、自分は力を得た。


一時(いっとき)は恐れもした。

この力が平穏を、自分から奪い去った。


‥‥だが、もう迷わない。


力が無ければ、平穏は守れない。


分かっていたはずだ。

心が曇り、見えなくなっていた。


本来なら、迷っている暇など、無かったはずなのだ。

‥‥‥‥。



刹那は、東京を訪れていた。

研究所に出向して、検査や、科学者の質問や実験に協力するためだ。


彼が魔法に目覚めてから、すでに1ヵ月が経過した。


あの夜の出来事と、魔法については、未だに社会には伏せられている。

しかし、徐々に魔法は広がりを見せている。


日本の至る場所で、怪奇現象が観測されている。

魔法が公になってしまうのも、時間の問題だろう。


それまでに、科学者は集められるだけの情報を集め、行政と連携していく必要がある。

社会が魔法に適応できるように、様々な整備を進めていく必要がある。


そのためには、一にも二にも、情報だ。


魔法と魔力を、理解しなければ始まらない。


だが、現実とはままならぬもので、科学者や軍人は、未だに魔法に目覚めない。


女神の作為が絡んでいるのか?

それとも、進化の悪魔がそう望んだからなのか?


魔法に目覚めた者は、誰もがダイバーなのだ。

ダイバーの中でも、M&Cを遊んでいるプレイヤーだけが、いま魔法に目覚めている。


魔法に目覚めた者は、力を秘匿し、自衛団の相談対応AIに報告をするに留めている。


訓練を受けた民間人というだけあって、愚かな行動は取らない。


社会は、一見すると平穏を取り戻したように見える。

しかし、まだまだ、昨年の暮れに起きた悲劇から立ち直っていない。


人々の笑顔の裏には、不安と恐怖が残っている。


魔法なんてものが明るみに出れば、人の心は再び乱れる。

かさぶたが乾ききらぬうち、傷が開き化膿する、


時間が必要だ。

社会が適応するためにも、人の心が受け入れるためにも。


魔法に浸食される地球。

その渦中ど真ん中にいる刹那は、科学者にとって重要な情報源なのだ。


本来なら、彼の人権や社会の倫理など無視して、彼をモルモットにすべきだ。


世界は、3度目の世界大戦を経験した。

国際社会など、とうの昔に崩壊している。


今の時代を生きる人間に、その実感は無いのかも知れないが‥‥。

過去の人間からすれば、現代はディストピアなのだ。


人権や権利とは、平和によって担保され、保障されている。

だから、有事にそれらは無視される。


だから、社会のために刹那を幽閉し、魔法の調査をすべきなのだ。


しかし、それをしない。

科学者も、AIも、権力者も、それを良しとしていない。


彼には、暴走のリスクがあるのだ。


もし、彼が極度のストレスを感じ、また暴走するようなことがあれば、大きな被害が出る。


事件の夜、始まりと進化の、あの夜。

女神は刹那に、CEグレイドラグーンをけしかけた。


架空の兵器、センチュリオン。

歩兵100人分の戦力があるとされる、創作上の兵器。


それが、強さをそのままに、女神の力によって日本に現れた。

月の狂気に飲まれ暴走した刹那は、悪魔と呼ばれたその兵器を、軽くあしらって破壊した。


そんな人間をモルモットにして、もしもがあったら‥‥。

大勢死ぬだろう。


暴れて殺され、それを止めるようとして殺される。

――最悪のシナリオだ。


兵士は、銃やギアを取り上げれば、大幅に弱体化できる。

だが、悪魔の魔力は、取り上げる(すべ)が存在しない。


刹那は、いつ爆発するか分からない爆弾を抱えているも同然なのだ。

慎重にもなろう。


だから、権力者とAIは、穏健な対応をすることに決めた。

魔力は、ネクスト同様、感情に感応する性質がある。


なるべく寄り添う形で、魔法を理解していくのだ。


そして今日、科学者は、一歩進んだ実験をしてみる。


魔法の、戦術的な評価。

それを、プロの人間と協力し、測定する。


果たして人間は、魔法使いに対抗できるのか?

魔法使いは、どれほどの脅威となるのか?


それを調べる。

魔法に、適応するために。



久遠(くおん)さん、こちらに。」

「はい。」



シャツにチノパンという、ラフな格好をした研究員に案内され、刹那は地下室の一角に通された。


映画やアニメで見るような、無機質で広くて白い部屋。

窓越しに、研究員が機材を操作しつつ、こちらの様子を観察している。


これは――、あれだ。

生物兵器とかの性能をテストするための、あの部屋だ。


科学者であり、M&Cの開発者である遠藤が、来たるべき時のために用意していた部屋。

分厚く丈夫な壁、ギアを使って暴れても、ビクともしない実験室。


そこに自分が立っていることに、やや複雑な心境。


心に浮かぶは、幾分かの無常感。

だがちょっぴり、ワクワクしてる気持ちもある。


ワクワクするだけの余裕があるのは、良いことだ。


貧すれば鈍する。

鈍すれば曇る。


窓の向こう、白衣を着ているアイと目が合った。

合って、互いにすぐ逸らす。


今は、仕事の時間だ。

2人だけの世界に入るのは、また後で。


刹那は、バスケットボールができそうなくらい広い部屋の中心で、準備運動。


軽く屈伸をしたり、手首や足首を回したり。

それから、両手で頬を叩く。


右の手首につけた、リストバンドで額を拭う。

アイが、クリスマスプレゼントでくれた、リストバンド。


消耗品なので、使うのは気が引けたのだが‥‥。


「使えなくなったら、また新しいのをプレゼントします」と言われ、心置きなく使わせて貰うことにした。


これを着けると、身が引き締まるのだ。

自分の彼女に、カッコイイ所を見せたいと、見栄によるブーストが掛かる。


元々、ここ一番には強い刹那ではあるが、その気質がリストバンドで更に強化されている。


身体をほぐし、精神を集中させていると、部屋に迷彩服を着た、屈強な5人組が入って来た。


市街地に溶け込むための、紺と灰色の迷彩服。

5人組の1人に、見覚えがある。


昨年、刹那のランカートライアルを受け持った教官。(※)

その1人が、実験室に入ってきたのだ。


※SS6.2_トライアルより


ということは、この5人組は、軍人あるいは警察官。

全員、強そうである。


中には、線の細い者もいるが、出で立ちや所作が柔らかく、水のよう。

ムッキムキのマッチョマンから、バッキバキの細マッチョまで、色とりどり。


精強な5人組である。


5人の中から、1人が前に出る。

一番強そうなのが、刹那に挨拶をする。



「初めまして、久遠君。

 戦術教導隊の、城山です。

 本日は、よろしくお願いします。」


「初めまして、久遠です。

 こちらこそ、お忙しいところ、ありがとうございます。」



‥‥熊だ。

熊が喋ってる。


第一印象で、そう思った。


城山という人物は、熊のような人間であった。


城山(しろやま) (つよし)

戦術教導隊、歩兵科隊長。


身長は、刹那よりも少し高いくらい。

185cmくらいだろうか?


現代の成人男性の平均身長は、180cm。


身長の高さで、城山は決して恵まれているとは言えない。


が、とにかく身体が分厚い。

ボディビルダーのように、カットの深い肉体ではなく、金剛力士像のような肉体。


背筋の発達により、身体の厚みが常人のそれでは無い。

胸や肩の発達はそれほどでは無く、筋肉の大きさによる威圧感は少ない。


しかし、目に見えない、彼の背中から滲み出る、修羅の如き風格。


武術の世界では、達人と相対すると、相手が大きく見えるという。


城山の風格は、まさにそれだ。


背は自分と大して変わらないのに、まるで見上げるかのような、そんな貫禄に気圧されてしまうのだ。


達人の風格に驚き、城山の顔をジッと見てしまう。


‥‥目を離したら、やられる。

そう錯覚してしまう。


年齢は、自分の親と一緒くらいに感じる。

それと、どことなく、JJと顔立ちが似ている気がする。


目とか、顔の輪郭とか、初めて会った気がしない。


城山は、緊張している刹那に対し、くしゃりと顔を崩す。



「そう緊張しないで。リラックス、リラックス!」


「あっ、はい。」



我に返り、気を取り直す。

深呼吸して、平常心を取り戻す。


城山は、笑みを浮かべながら、頭を掻く。



「今日はね、面白い相手と戦えるって聞いて、ここまで来たんだよね。」

「は、はあ‥‥。」



うんうんと頷く、教導隊の面々。



「だからね、うちも活きの良い連中を集めてきちゃった。

 選抜メンバーを決めるためにね、試合をしてね、メンバーを決めたんだ。」


「‥‥‥‥。」



うんうんと頷く、教導隊の面々。

黙ってしまう刹那。


心身から、緊張が消えていく。

心が、解れる。


これは――、あれだ。


この人たち――。

軍人や警察官の皮を被った、戦闘狂だ。


この時代の軍人や警察なんて、そんなもんである。

寝ても覚めても、訓練するのが好きだから、その職業についているのだ。


そんな連中の選りすぐりだから、自然と戦闘狂の比率が多くなってしまう。



「いや~――。久遠君、魔法を使えるんだって?

 凄いなぁ、楽しみだなぁ。」



この世界で、魔法が発見された。

魔法を使い、戦う戦士が現れた。


――面白い!


ぜひ、手合わせしてみたい。


斯く言う理由で、城山たちはここに馳せ参じた。

ついでに、専門家として、魔法の戦術的な評価もする。


教導隊としての役割も大切だが、戦士として、魔法使いと戦ってみたい。

それが、一番にくる。


本当は、もっと早く戦いたかったのだが、刹那の心身が安定するまで、お預けをくらっていたのだ。


大の大人が、お預けをくらい、初心な乙女が初めてのデートに赴くかの如く胸躍らせ、ここへ来た。


そして――! ついに――! 念願叶う――!



「さあ! さっそく始めようか!」



城山は2歩下がり、深くお辞儀をする。

刹那も、深くお辞儀を返す。



「期待に応えられるよう、全力を尽くします。」



魔力を纏う。

毎日のように鍛錬し、ほぼ無意識にコントロールができるようになった魔力。


血の流れに魔力を乗せ、上位空間から汲み上げた力を、心臓から全身へ巡らせる。


魔力は、自分と外界を隔てる皮膚を通り抜けて、外に流れる。

拳に纏い、腰に纏い、固定化する。


右手に、銀色のガントレットが装備される。

腰に、大きなリボルバーとベルトが装備される。


刹那は、セツナに。

セントラルと同じ武器を装備する。



「「「おぉー!!!!」」」



教導隊から歓声が上がる。


まるで、子どもが変身ヒーローを目の当たりにしたかのよう。

年甲斐もなく、無邪気にはしゃぐ。


しかし、歓声は集中した刹那には届かない。

目の前の相手と、目の前の戦いに集中。


研ぎ澄ます。

相対するは、満面の笑みの城山。


籠手を装備した右手を前に出す。

右手に魔力が集まる。


火球ができ、火球を飛ばす。

魔法の代名詞、ファイヤーボール。


また歓声。


城山は動かない。

ギアを起動させ、左手で火球を受ける。


火球が爆ぜた。


常人が受ければ、大火傷を負う一撃が直撃する。



「くぅぅ――! 熱っつ! すっご!!」



瞳をキラキラさせる城山。

刹那は、足に魔力を纏う。


銀色の、月の魔力。


足で、横に弧を描く。

銀色の三日月が伸び、放たれる。


その後を追い、走る。


足に火炎を纏い、加速。

風のように飛ぶ三日月を、魔力による加速力で追いかけ突進。


城山は動かない。


腕のガードを上げて、わざとボディに隙を作る。


三日月を胴で受け、続けて、太陽を握る右手がボディに直撃。


銃声と紛う爆発音。

爆風が、観戦している教導隊の服や髪を揺らす。



(――!? 柔らかい!?)



刹那が覚えた手応えは、今まで感じたことの無いものだった。


柔らかい。

水の方が遥かに固いほどに。


ボディを殴った感触は、得体の知れない感触。


城山の腹に沈んだ拳が、弾き返される。


1歩、後退されられる。


1歩、城山が前に出る。


分厚い手を、前に出す。

刹那の視界が、城山の手に塞がれる。


邪魔な右手を払うために、左腕を――。


出そうとしたところで、城山の左手が、刹那の腹に置かれる。



(――――!)



気付けなかった。

というか、城山との距離が詰まって――。


‥‥寸勁。


優しく置かれた手で、身体を穿たれた。

膝を抜き、全身が落下するエネルギーを使い、ゼロ距離から痛烈な一撃を見舞う。



「――!?」



衝撃が、腹の中に残留する。

壊すための、殺すための攻撃。


後ろに何度か飛びながら、衝撃を逃がす。

内臓に、衝撃が蛇みたいに絡みついて離れない。


城山は、攻撃が通ったのに不思議な表情。



「‥‥‥‥おっ?」



疑問符が浮かぶ。

寸勁を放った時、妙な感覚がした。


自分の左手を、握っては開いて、感覚を反芻する。


寸勁を放った瞬間、刹那の腹が、分厚くなるような感触がした。


おそらく、魔力による防護なのだろう。

その防護を叩いた感触としては、猪やクマを殴る感覚に似ている。


まるで、目には見えない、筋肉や脂肪の層に阻まれる感じ。


先ほどの寸勁は、ギアで身体強化をしていても、悶絶する一撃。

それを受けても、刹那にはあまり効いていないらしい。


魔法、不思議で不可思議。

魅力的だ。


ギアでは不可能な、徒手からの遠距離攻撃。

ギアによる硬化とは異なる、防御方法。


なるほど、面白い。



「ヨォシ! 久遠君! どんどんやっていこう!」



――強くなるための近道。

それは、強者との稽古。


本気でぶつかれる相手。

城山であれば、全力で魔法をぶつけても、ピンピンしていることだろう。



「‥‥胸を、お借りします。」



集中力が高まり、身体はパフォーマンスの限界を超える。


過集中状態。

戦闘中に関わらず、呼吸は深く、筋肉は緩む。


まるで、ゲームの中にいるような、そんな全能感に包まれる。

強い自分、その動きとイメージが、降りてくる。


――1ヵ月で強くなった自分の全力。

それを城山に叩き込むべく、刹那は構えた。



‥‥‥‥

‥‥



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