表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
8章_堕落の弾丸

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

244/346

8.21_陽炎は青く灼け――。

――同胞の気配だ。

――我が同胞の魔力が、人間の魂から。



なぜ、人間に手を貸す? 人間に与する?

小さな器など、壊してしまえば良いものを‥‥。


分からぬ。


だが‥‥、我にも使命がある。

女神より賜りし、我が使命。


‥‥定めか。

同胞殺しこそ、我らが必定。


ならば、真の姿を。

偽りの太陽を捨て、真なる力で世界を灼こう(やこう)――。





サウザントの強襲を、セントラル混成部隊の奇襲によって乗り切った。

赤龍を、夢戻りのエージェントが撃破した。



セントラルの悪党が手を貸してくれなければ、サウザントの迎撃は叶わなった。

アゲハも、助けられなかっただろう。


ジャッカルたちエージェントが、赤龍の気を引き付けてくれなければ、ダイナを蘇生する時間が足りなかった。

語るまでもなく、全滅していただろう。



しかし満身創痍だ。

多くの者が傷つき、武器やCEは壊れ、それでやっと人々は生き残った。


セントラル本土は守られた。

暴走したアゲハが襲うことも、怒れる赤龍が襲うことも無かった。



――最悪の中の、最高だ。



問題は山積み。

それでも今だけは、喜ぶことを許されるだろう。



「アゲハ――。よかった‥‥、本当に。」

「もお‥‥。 心配‥‥、心配したんだから!」



正気に戻ったアゲハは、家族のデアソラとオラクルの元へ。


クルーザーの上、3人は固く抱き合っている。

互いに触れ合うことで、その無事を確かめている。



「ごめんなさい。

 今回ばかりは、もう帰れないと思ってた。」



蝶の3人を、セツナたちは遠巻きに見ている。


左腕が絶賛欠損中。ヤタガラスの燃えカス、セツナ。

火薬に全生命力を注いだ大馬鹿、JJ。

短時間で2度の死亡を経験したデスポーン野郎、ダイナ。


他の者からすれば、生きているのが不思議な3人組は、床に座って気力を充電中。

ダイナがインベントリから出した、ペットボトルのスポーツドリンクを飲んでいる。


船の外では、海に落ちた人員の救助活動が行われている。


本当はセツナたちも手伝いたいのだが、カエデに強く止められたため、船で大人しくしている。


プレイヤーからすればノープロブレム。

ただその基準は、この世界の人々からしたらシリアスプロブレム。


蝶の面々は彼らを容易く蘇生したが‥‥、傍から見れば、生きているのが不思議な重体なのだ。


頼むから、隅っこでジッとしてて欲しい。


救助活動は、組織の垣根を越え、着々と進む。

終わり次第、混成部隊はこの地点を離れる予定だ。


速やかに救助は続けられ、もう間もなく終わるだろう。


蝶の3人が、エージェントの3人の元へやって来る。


アゲハが、3人に礼を言う。



「改めて、ありがとう。

 あなたたちのおかげよ。」



彼女のお礼に、ダイナとJJが答える。



「気にしないで。」

「俺たちは、仕事をしただけさ。」



セツナは、アゲハに身体の状態を聞いてみる。



「身体は、問題なさそう?」


「ええ。見ての通りよ。」



そう言って、背中に羽を広げて見せたあと、羽を消す。

覚醒したことによって、ディヴィジョナー由来の力を、一部コントロールできるようになったようだ。


オラクルが、アゲハの背中を触る。



「ねぇねぇ! もっかい、もっかいやって。」



言われるまま、蝶の羽を展開するアゲハ。

オラクルが、羽に触れる。


触れようとして、手がすり抜けた。



「‥‥ありゃ?」



両手を使い、羽を触ろうとするオラクル。

ネコが壁を引っ掻くみたいに、両手を動かしている。



「触れない、触れない。

 ――触れたぁー!」


「ちょっと!?」



オラクルが、アゲハの腰に背後から抱きついた。



「いいじゃん、いいじゃん。

 えへへへへ~~~。」


「この子ったら‥‥。」



諦めた様子で、アゲハはされるがまま。

頬すりしたり、お腹を撫でまわすオラクルに、されるがまま。


2人の様子を、デアソラは横から見ている。



「これで、今度の仕事は終わりかな?」



アゲハは、デアソラに笑みを返す。



「そうね。色々とあったけど、結果オーライね。」



蝶3人の視線が、エージェントの方を向く。

3人とも、含みのある笑みを浮かべている。


だが、その真意にセツナたちは気付けない。


つくづく、隠し事の多い女たちだ。


セツナが肩をすくめる。

腕の重さがない左肩が、少しだけ高く上がった。



「また、隠し事?」


「ふふ。言ったでしょう?

 秘密と嘘は、女の化粧なの。」


「ならもう、一生ものだ。」


「いいじゃない。それで男も得をするのよ?」



船が動き出す。

エージェント全員に、アリサから通信が入った。


救助活動が終わったらしい。


ダイナの船は、港へ向けて舵を取る。


南西海域に集った面々が、散り散りに帰っていく。

自分たちの居場所へ。


今日、この時間、この場所において、ここに集った誰もが仲間であった。

だがそれも、ついさっきまでの話し。


セントラルに戻れば、またいつも通り。

互いが互いの理念に基づき、戦いや衝突が起こるのだろう。


セントラルとは、そういう場所だ。


脅威を前に協力はしても、馴れ合うことはしない。


敵の敵は、味方。

今回の共闘は、そういうことだ。



激戦を制した3人は、クルーザーのオープンバーを出る。


2階から1階へ。

船の後ろで、海風を浴びながら、海原を臨む。


海の上には、浮き島の遺跡群が浮いたまま。

魔法界の遺跡が、物理法則を無視して、空を漂っている。



ついに表舞台に姿を現した巨悪、サウザント。

圧倒的な力を有する幹部。


楽園の遺物であるAI、メリッサ。

サプライズサンタ、ナイスデイ。

自らを堕天使と呼ぶ、ルフラン。


そして、その幹部を統べる、まだ見ぬサウザントのボス。


今後は、サウザントと戦うことになる。

戦うべき敵の正体が明らかになった。


同時に、セントラルの戦いは、終盤へと物語が進む。

広がった世界が、エンディングに向かい収束していく。


赤龍との遭遇から始まった物語は――。






――赤龍の再誕をもって、終盤へと進む。






海から、月が昇った。

巨大な、青く白い、光の柱が。


天を貫く柱から、細い枝が伸びる。


枝が伸び、別れ。

柱は、青く輝く大樹となる。


大樹は、なおも枝を伸ばす。

伸ばして、空から海へ、落ちてくる。



「「「――――!!」」」



枝の末端が、クルーザーの近くに落ちた。

大きな水柱と、大きな波が起きて、船が揺れる。


オラクルが即座にクルーザーの操船席に移動する。

クルーザーの2階、オープンバーの前、船首側。


カエデが、カメラのついたドローンを飛ばす。

それから、操舵席の隣にある助手席に座る。


空から雨の如く伸びて落ちる大樹の枝を、クルーザーがすり抜けていく。



――龍の咆哮が轟く。



風は怯え、海は泣く。

海底(うみそこ)に沈んだ赤龍が、大樹を背に翼を広げる。


海に飛ばしたドローンが、赤龍の映像を中継する。


胸に大穴を開けた赤龍。

死に体の龍は、クルーザーを睨んでいる。


夢戻りのエージェントが乗る、1隻の船だけを。


龍の咆哮。

月の大樹が、いっそう眩く輝く。


龍にとっては細い枝葉。

伸びて飛び、水平線の先まで樹冠を広げる。


枝葉はセントラル本土にも及び。

本土が青い光に包まれる。


‥‥‥‥。


――終末だ。


楽園を消滅させた灼熱の比ではない終末が、死に体の龍によってもたらされている。


ダイナの脳裏から、記憶が蘇る。

それは、楽園へ赴くきっかけとなった、新月の女神からの助言。



「青い‥‥オルギン‥‥‥‥。」



青いオルギン。

青い破滅は、人類への試練、創造の始まり。


海に、変化が起きる。


‥‥あり得ない。

海が、森に変わっていく。


海が、世界が、書き換えられていく。


南西海域に、青白い幹と葉を持つ木々が、大樹の麓から生い茂る。

海に、森が広がっていく。


信じられない現象に、カエデが驚愕する。



「これって‥‥! 異界化。」



異界化は、魔力災害のひとつ。

物理法則が崩れ、世界が魔法界の(ことわり)に浸食される現象。


灼熱による破壊など、赤龍が振るう力の、一端でしか無かったのだ。


龍が、クルーザーに追いつく。

彼が飛んだ後ろは、全て森になってしまった。


船が止まる。

いや、止められる。


龍を前に、立ち往生させられる。


龍の体に亀裂が入る。

鱗と体が、内側から壊れていく。


自分を負かした存在に敬意を称し、その者たちの目の前で、真の姿を顕現させる。



――赤龍の殻を脱ぎ捨て、月の龍が顕れた。



赤龍とは異なり、手足を持たぬ、白い大蛇の如き姿。

翼を広げ、同胞の力を宿した戦士を見下ろす。


白龍は、傷ひとつない真の姿を見せつけ、月の光を伴い、その場から消えた。


船が、速度を取り戻す。

白龍の居た場所から逃げるように、全速力で舵を切る。


森が遠ざかって行く。

海に広がる海洋樹林は、龍が消えたあとも残り続ける。


森の奥では、世界樹を思わせる大樹が、海から逃げる船の背を静観している。


‥‥‥‥。


南西海域の戦いを生き残ったエージェントは、終盤へと物語を進める。

広がった世界が、エンディングへと収束していく。



サウザントがセントラルに持ち込んだ、人間をディヴィジョナー化させる兵器。

個々が強大な戦闘力を誇る、サウザントの幹部。


再誕した、青いオルギン、月の龍。



物語は収束していく。

エージェントは、物語にばら撒かれたセントラルを取り巻く脅威、これらを収束させていく。


物語は終盤。

エンディングは近く、余りにも遠い。



――余りにも、遠い。



‥‥‥‥。

‥‥。





「‥‥ちょっとくらい、勝利の余韻に浸らせてくれたって良いじゃん。」



M&Cプレイヤーは、模擬戦民族。

強敵の存在こそが、何よりのご褒美。


だから、今作は開発も頑張った!


つえー奴をたくさん用意したから、楽しんでね♪



それはそれとして――、だ。

現実世界に戻って来た刹那は、ベッドから身体を起こしつつ、ごちる。


勝利のアドレナリンを、もう少しくらい味合わせてくれたって、バチは当たらないと思うのだ。

ため息を吐き、頭を掻く。



今回のミッションで分かったこと。


それは、サウザントがヤベーってこと。

それと、月の龍がマジヤベーってこと。


あと、ルフランがウルトラヤベーってこと。


おそらく負けイベントの類いだろうが、ダイナとタイマンでやり敢えていたのは、ちょっと洒落にならない。


ダイナは、うちの最高戦力なのだ。


本人のスペックと、5強クラスのスペック。

プレイヤーのスペックならJJが一番だが、プレイヤーとしての総合力はダイナが一番。


そんな彼女が、一手でも何かが違えば一方的になっていた状況らしいから、笑えない。

笑えるけど、笑えない。


全プレイヤー最高峰の「メイジ」とバチバチに殴り合えるルフラン、強敵だ。


手加減状態でそれなのだから、決戦では、更なる苦戦は必至。

このゲーム、過去作よりも難易度が高い。


過去作はファンタジーであり、終盤の敵と言えば、人智を超越した存在が主であった。

天使の軍団とか、悪魔の軍勢とか、そんな感じである。


しかし、M&Cにおける終盤の敵は、人間。

化け物みたいな力を持っているが、価値観は人間のそれだ。


過去作では、強大な敵に対し、人間の小狡い知恵で対抗してきた。

それが今作は、相手も知恵を駆使して戦ってくる。


現に今回は、サウザントの策略に振り回されっぱなしだった。

その上、プレイヤーお得意の暴力でも、敗北した。



エンディングは近く、余りにも遠い。



‥‥テンション上がってきた!


ゲームでも、スポーツでも、醍醐味はジャイアントキリング。

強い者イジメこそが、醍醐味。


強いヤツ、凄いヤツは大歓迎。


なぜなら、それに勝った自分は、もっと強くて凄いヤツだから。


ジャイアントキリングは、気持ち良くなれる。

だから、競技の醍醐味。


刹那はベッドの上で伸びをする。

右耳に付けている、VR端末を外す。


時刻を確認。

2232年1月14日(土)、18:36。


ゆく年、去年は色々とあった。

テロリストが日本に侵攻したり、魔法の発現が地球で観測されたり――。


色々とあったが無事、年を越すことができた。


21:00からは、アイと電脳世界で会う約束をしている。



(晩御飯、買いに行こう。)



スウェットのズボンにスマートデバイス入れて、上の服を着替える。

厚手の長袖とパーカーに着替えて、出発進行。


歩いて5分のところにある、スーパーへと赴く。



‥‥‥‥。

‥‥。



一方その頃、アイは買い物の帰り。

トレンチコートにマフラー姿のアイが、ずっしりした買い物袋を片手に歩いている。


東京都、世田谷区。

渋谷駅から2駅のところに、三軒茶屋という場所がある。


そこが、彼女の住んでいる町。


駅前にある大型スーパーで買い物をして、帰宅中。

この辺りは住宅街となっており、この時間は人の往来が多い。


住宅街ということもあり、夜にお酒の飲める場所も多い。


今日は土曜日ということで、人の往来が平日よりも多い。


人々が労働から解放された現代においても、土曜日と日曜日は、人々にとって特別な日。


仕事に就いていない者であっても、平日は勉学や自己研鑽に励み、土日は休日として遊ぶ。

そのようなライフサイクルが、一般的となっている。


アイは、スーパーから歩いて10分の自宅へと歩を進める。

21:00には、刹那と会う予定がある。


ちゃちゃっと夕ご飯を食べて、いちゃいちゃ――。


表情の変化に乏しい彼女であるが、胸中は愉快なことになっている。

バレンタインは、彼に東京へ来てもらおう。


三軒茶屋の近くには、下北沢という場所がある。


元号が平成や令和だった頃から、若者の街と呼ばれる場所だ。

旧現代の街並みを一部残すその街は、ストリートカルチャーが好きな刹那なら、気に入ってくれるだろう。


あと、若者が多いから、いつもよりもスキンシップを多めに取れる。

若者の街の空気を吸えば、知らず知らず距離も縮まってしまうだろう。


下北沢は、街の雰囲気だけでなく、物理的なロケーションも都合が良い。


道は入り組んでおり、広さは人の往来に対して狭い。

狭いから、一緒に歩けば自然と密着することになる。


日本の人口が減ったとは言えども、東京は旅行の定番。

刹那の住む、にのまえ市よりも人が多く、土地は狭い。


だから仕方ない。

人が多いのだから、密着してしまうのは仕方がない。


人前でベタベタするのは気恥ずかしくあり、また嬉しくもある。


嬉し恥ずかし――、借り物競争。(?)



(ふふ――。ふふふ――。

 カンペキ。カンペキですよ、私!)



マフラーで隠れた口元が、愉快な感じになる。


目元は、涼しげなポーカーフェイス。

口元は、妄想に熱を上げる、()()()乙女。


買い物袋が軽くなるのを感じながら、帰路を進む。






そうしていると‥‥。

アイが、足を止めた。


振り返る。

通り過ぎた人々を、目で追う。



(声が‥‥、音が‥‥。)



アイの目の前を歩いている通行人が、彼女をすり抜けて通り過ぎた。


景色が塗り替わっていく。

常夜の都に、迷い込んでいく。



『あはははははははははは――――。』



どこからともなく、女の狂った嗤い声が響く。


空を見上げる。

都内では見えないはずの、星空が広がっている。


(みやこ)は明るく、月も明るい空で、星空が広がっている。





異変には、刹那も遭遇していた。


スーパーに向かう道すがら、道を歩く人々が突如として消えた。


彼の魔力野が、魔力の起こりを感じ取る。

人間として死に、悪魔として生まれ変わることで得た魔力野が‥‥、月の魔力を――。



「‥‥‥‥レイ。」



人の消えてしまった街。

月の結界に覆われた街に、新月の女神が姿を見せる。



「久しいわね。息災なようで、何よりよ。」



レイは、自身の右手に、青い火球を浮かばせる。



「少し、私と遊びましょう。

 もちろん、あなたに断る権利など、ないのだけれど。」



‥‥‥‥。

‥‥。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ