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Magic & Cyberpunk -マジック&サイバーパンク-  作者: タナカ アオヒト
8章_堕落の弾丸

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8.20_極彩鳥が飛ぶ大空

海原に出現した、浮き島が連なる遺跡群。

その山頂で、紫色の魔力が大瀑布の如く流れた。


大瀑布は、青空に訪れた夜を晴らし、そして音も無く消えた。



「ダイナ‥‥。」



アゲハのディヴィジョナー因子を鎮静化させることに成功したセツナ。

空を見上げ、仲間の名を呟いた。


JJは、山頂から激流が放流されたとき、ナイスデイと戦っていた。


大気を押し潰す魔力の発生に、戦いの手を止め、山頂を見上げる。



何が起きた?

ヤバいことが起きた。

‥‥ダイナは、どうなった?



ナイスデイは、JJに背中を向ける。

ハンドベルを懐から取り出し、トナカイを呼ぶ。


パワーアップを解く。

ゴールデン・ナイスデイから、普通のナイスデイに戻る。



「ゲームセットだ。

 頂上の、仲間のところに行ってやれ。」



ナイスデイは振る返ることなく走り、浮き島から飛び降りた。

浮き島の下で待機していたトナカイが、彼をソリに乗せる。


サンタさんは、混沌と闘争が広がる海原から姿を消す。

ひび割れた空間へ、ジングルベルの音色を鳴らしながら消えていった。



――サンタが帰ると、遺跡群に別の客がやって来る。

空から、この浮き島を見下ろすように、赤龍が‥‥。


JJは山頂に向けて走り出す。


自分たちは間に合わなかった。

ルフランを止められなかった。


赤龍が、強大なディヴィジョナー因子に引き寄せられて、来てしまった。


何とかしなければ。

そのためには、ダイナの力が要る。


寝ているのなら、起こしてやらなければ――!



空から、絶望が降臨する。


‥‥‥‥。

‥‥。





ルフランとナイスデイは撤退した。

サウザントの構成員も、次々と撤退を始める。


ひび割れた脱出口に、ある者は生身で入り、ある者は乗り物で入って行く。


撤退する様子を見せないのは、サウザント3人目の幹部、メリッサだけ。

イバラの厄災を再現し、茨龍の姿となった彼女は、胸に大きな傷を負い、動きを止めている。


姿を維持できなくなり、体の端から崩壊していく。



「はぁ‥‥。はぁ‥‥。」



イバラの厄災と相対するCEの機内。

大粒の汗が、額を伝う。


ジャッカルが、肩で息をしている。


自分含め8機あったCEは、3機しか残っていない。

撃墜されたパイロットは全員CEから脱出し、海上でアリサとソフィアの乗る船に回収された。


――紙一重だ。

分隊を半壊させ、やっとこさ怪物の動きを止めた。


残存している3機のCEも、ギリギリ稼働が出来ている状態。

ジャッカルの乗るザンテツは、左腕を失っている。


シンクロしていた時に腕をやられた。

フィードバックの影響で、ジャッカルも左腕の感覚が無い。



「どんなもんだ‥‥。

 エージェントを‥‥、舐めんじゃねぇ‥‥。」



茨龍の体が崩壊していく。

不死性の許容量を超えた植物の体が、ボロボロと海に落ちていく。


大きく息を吸い、呼吸を整える。


‥‥‥‥。

機内のセンサーが強い反応をキャッチする。


機内に、アラートが鳴り響く。



「‥‥‥‥。」



ザンテツを操縦し、空を見上げる。

怒れる赤龍が、矮小な人間の争いを睥睨(へいげい)している。


機体が軋む、震える。


龍が遠く遠く見える距離。

可愛いトカゲサイズに見えるくらい距離が開いているのに、機体がヤツの魔力の影響を受けている。


規格外だ。

世界が、赤龍の存在を抱えきれていない。


通信機に通信が入る。

オペレーターのアリサからだ。



「全エージェントに通達。

 全員を任務から解任。


 繰り返す。

 全員を任務から解任。」



任務を中止、ではなく、解任。

これは、エージェント内での隠語。


任務中止の命令を受けたエージェントは、職務待機扱いとして扱われる。

任務中止を受けても、職務自体は継続される。


一方、任務から解任は、非番扱いとなる。

要は、仕事中じゃないから、目の前の脅威から、なりふり構わず逃げろということだ。


上の判断を仰いでいる暇は無い。

アリサが現場判断で、エージェントに逃げろと命令を出した。


撤退ではない、逃走である。

だが――。



(出来るわけねぇ‥‥!)



ここに居るのは、エージェントたちだけではない。

この作戦に協力してくれた者たちが居る。


青石教会の傭兵、BBB、蝶の組織、マルファミリー。


協力者の大半は、犯罪者。

犯罪者ではあるが、彼らもエージェントが守るべきセントラルの人々。



ザンテツが吼える。

青いブースターが噴き上がる。



「うおぉぉぉぉ――――!!」



半壊しているザンテツが、赤龍に向かって飛ぶ。

万が一、億が一の可能性があるのなら、ジャッカルとザンテツは、赤龍にだって挑む。


彼の僚機が、ザンテツに続く。



「オイ! 1人でカッコつけんな!」

「付き合うぜ‥‥! 地獄の沙汰だろうがなッ!」



セントラル本土から、複数のミサイルが飛来する。

赤龍を狙い、本土から発射されたのだ。


その数、合計で10本。

その1発1発が、千人規模の町を消し飛ばす威力を誇る。


赤龍の下には、作戦に赴いている者たちがいる。

彼らに被害をギリギリ与えず、なおかつ赤龍へ打撃を与えられるミサイル。


音速の何倍もの速度で、ミサイルが赤龍に襲い掛かる。

合計10発、撃ち落とされることなく、全弾が命中。


‥‥‥‥。

セントラル本土に向けて、龍の吐息が放たれた。


浮き島を見下ろす高度から、地平が広がる国土へ、龍の火球が――。


ミサイルよりも遥かに遅い、音速にすら届かない。

しかし、その熱は太陽の表面温度を軽く上回る。


そして、この熱と威力は、着弾まで維持される。


ミサイルを浴びてなお、堪えた様子を見せない赤龍。

下から飛んでくる、死にかけの羽虫を睨む。


彼の頭に、記憶が蘇る。


楽園で、胸に傷を負わせた羽虫。

セントラルで、胴体を穿った羽虫。


自身のプライドを傷付けられた記憶が蘇り、怒れ狂う。


2度。

2度も見逃してやって、それでも挑んで来る。






――愚かな。





龍が羽ばたいた。


翼を大きく動かす。

たったそれだけで、風は怯え、海は泣く。


羽虫は、浮き島の頂上付近で、身動きが取れなくなる。

ブースターを全力で駆動させているのに‥‥、上にいけない。


浮き島の下では、凪いで(ないで)いたはずの海が荒れている。

高さ5メートル級の波が、次々と起こる。


空を目指すCEの、ザンテツの装甲が剥がれていく。

もう、耐えられない。


ザンテツとシンクロし、闘志を流すことで、かろうじて破壊を免れている。



「人間を――、舐めんじゃねぇぇぇぇッ!!」



赤龍の目が輝いた。


浮き島の頂上にJJが辿り着き、ダイナにサバイバルキットを使用し蘇生する。

CE3機と、プレイヤー2人は、虚空より発生した爆発に巻き込まれた。


CEが、頂上が、崩れて落ちていく。



赤龍は大きく息を吸い込む。


あの攻撃だ。

楽園を一息で破壊しつくした、あのブレスを吐くつもりだ。


直径10kmを灼熱が覆い、その周囲には木々を薙ぎ倒すほどの暴風が吹き荒れる。

‥‥‥‥。


この場に居る全員が、死ぬ。

たった1匹の、たった一撃によって。






「――まだだ! まだ飛べるッ!」






セツナが、スマートデバイスを拾う。

液晶が割れているデバイスの、側面にあるボタンを押す。



「来い――ッ! プロトエイト!!」



孤島から、荒れる絶海へと飛び出す。


足に稲妻を纏い、空を駆ける。

大空を、目指す。


主の呼びかけに呼応し、空に魔法陣が展開。



『センチュリオン。オーバードライブ。』



魔法陣から、プロトエイトがフォールする。


海に落ちぬようブースターを点火するが、その様子は明らかに本調子ではない。


装甲は、昨日の戦闘のせいで凹んでいる。

塗装も、剥がれたまま。


脚に装備しているブースターのひとつが、点火していない。

スキルリンクにより、スペックの限界を超えて酷使された影響で、壊れたまま。



それでも、動けている。

空を、飛べる。



CCCのエンジニアたちが、不眠不休で整備をしてくれた。

彼らは、元から完全な整備をするつもりは無かった。


最低限、ギリギリ動けるレベルの整備。


任務開始には間に合わなかったが‥‥。

肝心な場面には間に合った。



フォールしたプロトエイトが、空を駆けるセツナを拾う。

パイロットをコックピットに乗せ、プロトエイトは極彩鳥となる。


炎の翼を肩から伸ばす。


スキルリンクにより、亜音速の速度で空を登る。

赤龍を止めるため、極彩色のカラスが翼を広げる。



『共に行きましょうパイロット。

 プロトコル01、任務を遂行。』



――スキルリンクを実行。


――スキル ≪炎撃掌≫ をリンク。

――パッシブ「双子の火星」、及び「安定的な超新星」をロード。


――AGを充填、シンクロ。

――演算開始。






スキルリンク:炎撃掌 + 双子の火星 + 安定的な超新星 = ――――。



AAGスキルリンク:≪双翼・炎撃掌≫



プロトエイトが広げた翼が、さらに燃え上がる。

燃え上がり、機体を焼き、機体を包む。


翼は燃え盛り、燃える炎は、鳥の姿を模る(かたどる)



その姿は、不死鳥。

その姿は、太陽。


赤いヤタガラス。


巨大なヤタガラスが、赤龍に挑む。

赤龍が、ヤタガラスの接近に気が付いた。


しぶとい羽虫に怒気を高め、まだ完全に煮え切らぬブレスを、怒りのままぶつける。


龍とヤタガラス。

激突。


龍のブレス。

ヤタガラスの(くちばし)と翼。


カラスが翼でブレスを切り裂き、龍へと飛ぶ。


コックピットの中の気温が上がる。

コンソールが熱でやられて破損する。


操縦桿が解けて、右手にへばりつく。


シンクロのフィードバックで、身体中に深い火傷を負う。



‥‥それでも、‥‥それでも。

カラスは空を目指す。


大空に鎮座する、魔法界の覇者の元へと。



その、傲慢な性根を、一発殴るために。



ヤタガラスのジェネレーターが死ぬ。

焼け爆ぜて死に、魔力の供給が断たれ、機能がダウンする。


止まらない。

心臓が潰れても、カラスは止まらない。


闘志でCEと繋がったセツナが、心臓が潰れたヤタガラスを動かす。

ますます赤く、燃え上がる。


CEの右手に、太陽が昇る。

昇り、膨張し――。


太陽を宿し、握り潰し、――掌握する。



「いけえぇぇぇぇッッ!!」



龍のブレスを翼で切り裂き、潰れた心臓に闘志を流し。

‥‥ヤタガラスは、龍を殴りつけた。


カラスの腕が溶ける。

翼は失せ、その姿も失せ、ブレスの熱に消える。



龍が頭を上げ、激しく吠える。

左眼を焼かれた痛みに、悶える。



大空から、炭化したセツナが落ちていく。


赤龍は、隻眼でセツナを睨む。

口から、憤怒を滾らせる。


憤怒が睨む、その下。

浮き島のひとところが、金色に輝く。



『スキルリンク――。≪愚者のオルラスビルガ≫。』



CEホワイトナイト。

白騎士の背中から、ジェネレータのエネルギーを送るチューブが伸びる。


ショルダーショットガンにエネルギーを供給するためのチューブは、白騎士の右腕へ。


チューブから、どす黒い魔力が充填されていく。

火薬を溶かした、謹製の魔力だ。


JJが、ホワイトナイトの肩から落ちる。

残った生命力を全部使って、白騎士に愚者の火薬を充填した。


白騎士の背に、魔力のマントが翻る。

満月の女神に負けぬほど輝く、黄金のマント。


右手に、槍を握る。

槍に、愚者の魔力が注がれる。



愚者の魔力が、槍を鋭く、強力に――。



浮き島で、地割れと火災が起きる。

人智を越えた魔力が、周辺環境を破壊する。


ホワイトナイトは、破滅を招く暴流の中にあって、自壊を免れている。


≪オルラスビルガ≫ の持つ、神話の加護によって身を守り、自壊を防いでいるのだ。



白騎士は、黄金をたなびかせ――。

愚者の黄金槍を投げ放った。



槍がCEの手を離れた瞬間、CEは爆発する。


彼が立っていた浮き島は崩落。

爆発と崩落により、ダイナとJJは空中を彷徨う。


受け身も取らず、浮き島に身体を打ち付けながら、海へと向けて空を彷徨う。



一方の黄金槍は、狙いを一切違えない。


愚者の火薬は、次元を超越する。

白騎士の手元を離れた槍は、空間を飛び越え、龍の眼前に現れる。


回避の猶予を、回避の思考すら、赤龍に与えない。


――――。

愚者の黄金槍が、赤龍の身体を貫いた。


楽園で負った、胸の傷。

鱗の砕けた部位を、矛先は寸分も違わずに貫く。


矛が、龍の体内に侵入する。

肉体を破壊し、殺していく。



黄金槍は胸を貫き、貫通した。



龍の体に、大穴が開く。

怒れる瞳から、感情が失われていく。



‥‥‥‥。

‥‥。



赤龍の最期は、驚くほど静かだった。

火を吹くことも、声を上げることもなかった。


静かに、羽ばたくのを止め、静かに、瞳を閉じた。


龍の体が落ちていく。

大空から、海原へ。


先に空を落ちていた、セツナたちを追い抜いて。

赤龍は海に潜り、水底に沈んでいった。


‥‥‥‥。

空を落ちるセツナを、蝶が捕まえる。


羽で空を飛び、ヤタガラスの燃えカスを両手で抱きかかえる。


自分の、左手の親指を噛む。

親指から流れる血を、燃えカスの口に流す。



「‥‥‥‥。

 うぅ――っ。アゲ、ハ?」



セツナが目を開ける。

彼を、正気に戻ったアゲハが抱えている。



「ありがとう。

 あなたたちに、借りができたわね。」



セツナは、口元から白い歯を覗かせる。

海の方へと視線を送る。



「いいや、違うよ。

 オレは、借りを返しに来たのさ。」



そう――。

これは、借りを返しただけ。


借りがあるから、手を貸した。

それだけ。



アゲハは、セツナを抱えたまま、海の方へと降りていく。

降下する速度が、少しだけ速くなる。



「ふふ。そういうことなら、これで貸し借り無しね。」



海上では、ダイナとJJの救出劇が行われていた。


デアソラが銃剣に乗って空を飛び、ダイナをキャッチ。

お姫様抱っこをして、眠れる姫にポーションを飲ませた。


オラクルは、JJの救助。

ポケットから、500円サイズのスポンジを取り出す。


それを海に放り込むと、直径10メートルの救命マットとなる。


海面に浮いたマットの上に、JJが不時着。

左手に指抜きグローブを装備したオラクルが、救命マットに飛び移る。


グローブに、火薬を装填。

指を開いたり、閉じたり、ビリビリ放電。


左手を胸に当てて――、ボルテックスチャージ!



「あ゛ふん!?!?」



世にも珍しい、雷属性の火薬により、JJは蘇生する。

電気ショックに飛び起きて、救命マットを大きく揺らす。



戦いは終わった‥‥、らしい。



セントラル本土に向かって放たれた赤龍の火炎も、彼が死ぬと同時に消滅した。

赤龍に撃墜されたジャッカルたちの救助も、問題なく進んでいる。


海原は凪ぎ、静寂(しじま)を唄い。

人々は騒々しく、囃し立てる。



サウザントの戦い。

幹部との戦い。

赤龍との戦い。



一行は生き残ったのだ。

その激戦から。



‥‥‥‥。

‥‥。



そして、人々は知ることとなる。

新月の女神の予言を。


青いオルギンの正体を。

オルギンがもたらす、二度目の絶滅を――。

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