【第1審】~26~
「おい、ブルー! ブルーってば!」
ロブが名前を呼ぶのも聞かず、ブルーはずんずんと開けた道の先を歩いて行く。
時おり、袖で涙をぬぐっているのが離れていてもわかる。
「なぁ、ブルー! ・・・ブルータス!」
「その名前で呼ぶな!」
やっとブルーは立ち止まった。
すぐさまロブが追い付く。
「聞こえてんじゃん。
あ~あ、また今夜も決着がつかなかったな。」
わざと明るく話しかけてみる。
「途中までは完璧だったんだ!それなのに!! 悔しい!」
完璧主義のブルーらしい言葉だ。
「わかるぜベイベー。確かに赤ずきんは有罪になっちまったしな。」
「オオカミだって実際には何もやってなかった!ただ騙されてただけだ!」
「まぁ、でもあいつも好きで騙されてたとこあったから。
赤ずきんのために自分が罪をかぶることで酔ってたんだよ、そんな自分に。」
正直“禁断のマッチ”の作用がここまでリアルだとは思わなかった。
これを何度も使ったら、恐らく精神が持たないだろう。
ただの依り代になった俺たちでさえそうだったのだ。
マッチを擦ったアケチは、さらに過酷だったに違いない。
自分が“Killer”で、仕えるべき伽相手がいなかったなら
耐えられなかったと改めて思う。
ふとブルーの方を見ると、立ち止まり華奢な背中を震わせて
黙り込んでうつむいていた。
「また泣いてんのかベイベー?」
「・・・・・・。」
「え? マジ泣いてんの?もう、泣くなって。」
泣き虫はむかしからだ。
しょうがないなと近づいて慰めようとした途端、
振り向き様にロブはいきなり羽根をむしり取られた。
「痛って!」
吸い込まれそうなほど妖艶な紅い瞳。
「まだまだ、こんなのであたしが満足すると思わないで。」
「紅蓮!」
ロブの羽根をひらひらと弄んで彼女は言った。
「羽根が荒れてるわねぇ。 ダメじゃない。男は美しくありなさい。
ショーには美しさは不可欠よ。」
「御意。次こそは必ず。」
ロブはその場にかしずく。
甘い蓮の花の香が漂っている。
大輪の花のような華やかな微笑み。
「期待してるわよ。」
艶やかな声を残して彼女は去った。
残された身体はガクンと力が抜け、
あわててロブは抱き留める。
ゆっくりと瞼を開けると、そこには美しい青い光。
「あ・・・僕また・・・?」
困惑した青の瞳は、幼い頃からいつも側にあったそれだった。
あの事件をきっかけに、紅い瞳が現れた。
「ブルータス……お前……」
「何……?」
何度も聞こうとしてやめた問いかけ。
「お前………
お前も、俺のこと世界で一番美しいと思ってんだろ?」
「はぁ? 何言ってんの?!」
「またまた~。思ってんだろ?マジで。」
「触んなよ! 死刑!今すぐ死刑!」
「なんだよ、俺たち親友だろぉ~。」
今はまだ聞くのはやめよう。
もうすぐ夜明けを迎えるおとぎの国は、
この時間独特の澄んだ空気で満ちていた。




