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おとぎ裁判  作者: 神楽澤小虎
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26/32

【第1審】~24~



「・・・な・・なんでだよ。」

ガックリと項垂(うなだ)れたオオカミが静かにつぶやいた。

ふらりと立ち上がりアケチにくってかかる。

「なんで赤ずきんを行かせたんだ!!!」


「あいつが一番欲がってたものをやっただけだ。

 お前が本当にあいつのことを思ってるなら、心の底から喜べるはずだ。」


「偽善者!あんなか弱い子を一人で知らない世界にやって、何が喜べだ!

 僕は死んでもお前を許さない!」

汚れた毛を逆立て牙をむくオオカミを、ロブとブルーが必死に止める。


マジでこれだけは言いたくなかったんだがな……。

“禁断のマッチ”が見せた真実(シンジツ)の奥の奥。

こっちに戻る直前に垣間(かいま)見えたもの。

だけど、言わなきゃこいつはいつまでもこのままかも知れん。

その方が酷か・・・・

悩んだ末に俺は重い口を開いた。


「すべてあいつが仕組んだことだったんだよ。

 お前に自分を訴えさせ、ゲンジツ世界に追放されることまで含めて

 全部あいつの()()だったんだ。」


オオカミはもちろんのこと、その場にいる全員が

アケチの言葉を飲み込めずにいる。


()()() ()()()()() ()()()()()() だった・・・?


気付くとブルーの目に光るものがあった。

こらえきれずにこぼした涙だった。

ブルーは赤ずきんの依り代だったのだ。

それがすべてを物語っていた。


しかし、オオカミだけはその事実を拒絶した。


「嘘だ! あの子に酷いことをしていた人はもういない。

 あの子はひとりでこの世界で生きていけるのに

 外の世界になんか行く理由なんかないだろ!」


「もう、誰も裏切りたくなかったんだよ、あいつは。」


この先、友達も、知り合いも、世間も、自分自身も、

あざむいて生きていくことに耐えられなかったのだ。


とうとうしゃくりあげてしまったブルーを、

ロブがやさしくいたわっている。

この二人のように、あの少年にも信頼できる人が一人でもいたら・・・・

いや、考えても仕方のないことだ。


「黙れ!黙れ黙れ黙れ!!」

こどもみたいに駄々をこねるオオカミをアケチが一喝する。


「自分に都合の悪いことに目を背け、耳をふさぐな!

 世界はお前中心にできてねぇんだよ!

 いい加減理解しろ!」


世の中がやさしいわけがない。

何の苦労もなく全部思い通りになる人生なんかあるわけがない。

俺だってこんな人生望んでねぇ。

それでも、ただただ目の前の道に不満を(つの)らせるだけの人生か、

苦しくても一歩踏み出せるかは、自分の人生を()()()()()できるかどうかなんだ。


しかしオオカミは逆上し、あろうことかアケチの胸倉を掴んだ。

一気に咽喉(のど)を締め上げる。

「なんで僕ばっかりこんな目に()うんだ!」


息ができない………。

でも、誰かがこいつに言ってやらなきゃならないんだ。

例え聞く耳を持たなくても。(いつかその眼が光の方を向けるように。)


「お前だけじゃねぇ!みんなそれぞれに迷惑かけてかけられて、

 我慢してさせられて、お互い許し合ってこの世はできてんだ!」



そう言い終わるや否や、

オオカミの手をジュードが涼しい顔でひねり上げひざまずかせた。

「少々、おイタが過ぎるようですね。」


オオカミは抵抗して激しくもがいたが、

ジュードの拘束から逃れられないとわかると、

恨みを込めた眼でアケチを睨みつけた。

その眼に向かって、アケチは最後の一言を言い放つ。



「お前が見てるのは光じゃねぇ、“虚構(きょこう)”だ。」



静かに熱く怒り狂うジュードが低い声で聞いてくる。

「裁判長、この者の処遇(しょぐう)はどうされますか? 暴行罪でぶち込みますか?」


ジュードは有能な執事だ。

眉ひとつ動かさず、腕をへし折ることなど造作もない。

でも、哀れな者にこれ以上追い打ちをかける必要はないだろう。


「何の話だ? そいつはただのオオカミだ。俺は寝る。

 さっさとお帰りいただけ。」


「かしこまりました。」


俺はもう一度木槌(ガベル)を握って大きく振りかざした。

ドン!ドン!という音が鳴ると、ふっと一気に結界のようなものが緩む。

これで裁判は終わりだ。


各々(おのおの) 悔い無き人生を! これにて、閉廷!」







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