【第1審】~23~
幻火の館の外はまだ暗闇に包まれていた。
屋敷の庭を抜け、堅牢な門をくぐり、
メロディが灯した明かりを先頭に三人は薄暗い森を進んでいく。
「いいのか、あんなこと言っちゃって。」
「別に。あんたに関係ないだろ。」
ドローの問いかけに少年赤ずきんはつっけんどんに答える。
「へっ、かわいくねぇなぁ。」
そう言いながらもドローはまんざらでもない様子だ。
さして歩きもせずに、メロディが大木を右に曲がると
急に足元がぐにゃりと歪んだ気がして、少年はふと後ろを振り返った。
幻火の館が随分と遠くに小さく灯っている。
「こんなに遠くに来たわけないのに…」
そうつぶやくと、メロディがイタズラっぽく笑った。
「だってここは、おとぎの国だもの♪」
次の瞬間、目の前に両開きの扉が現れた。
黒い革張りで装飾はなくシンプルな造りをしている。
扉の上には【1番扉】と書かれていた。
「はい、それじゃあ説明します♪ よぉ~く聞いてね。
今、ゲンジツの扉は〝ロッポンギ〟ってところにつながってるわ。
そこで目の前にあるケーキ屋さんに入って『リングシューひとつください』って言うの。
それを食べたら、あなたはゲンジツの世界の住人になれるわ。
間違っても他のもの頼んじゃダメよ。」
「わかった。」
いよいよという実感が湧いたのか、赤ずきんだった少年は
メロディの言葉にしっかりと素直にうなづいた。
しかし、ドローの方は気もそぞろという感じであらぬ方を向いている。
「ちょっとぉ、ドロー様ちゃんと聞いてる?」
「あああ、聞いてる聞いてる。
アマンドでリングシューだろ?全然おっけーバッチグー!」
「もう、間違ってプリンアラモードとか頼まないでくださいよ。」
「大丈夫大丈夫!プリン嫌いだから!ハハハハハハッ!ハッ!」
ひょうひょうとしているドローに、しょうがないわねと
メロディは肩をすくめただけだった。
森は静かだ。
ドローが後ろ手に、ポケットから何かをぽとりと落としたことに気付くものはいない。
メロディはジュードから預かった金色の鍵を取り出し、
ガチャリと開錠する。
扉を開ける。
あまりの眩しさに目を開けていられない。
クラクション、車の走行音、狂ったように混ざり合ういくつもの音楽・・・・
「これがゲンジツの世界………
人間だらけ、ビルがいっぱい。それに ………吐き気がするほどの光の洪水。」
「そう、それがゲンジツ。」
思わず立ち尽くす。足がすくんでいるのが自分でもわかる。
「もう、戻れないぞ。少年。」
ポンとドローに背中を叩かれた。
その手は存外あたたかった。
「うるせぇ。保護者ヅラしたら置いていくぞ。」
「何、最近の子怖い~。」
ドローがおどけてみせる。
「“自由”ってやつの方がよっぽど怖いよ。」
僕は赤ずきんだった。
僕はこれから嘘をつかないと決めた。
今、すごく怖い。
だけどこの怖い気持ちさえ大切にしよう。
それが生きている証なのだから。
そして、一歩を踏み出した。




