【第1審】~22~
「オオカミ、言い残したことはないか?」
そう声をかけたアケチに、オオカミは大きな牙を隠すことなく吠えた。
「この判決は不当だ!事実上の楽園追放じゃないか!
僕の時だってそうだ!なぜ弱者ばかりが不当な扱いを受けなくてはならないんだ!
いつだって強い者が自分たちに都合の悪いものを取り除こうとする!
裁判はいつでも不公平だ!」
トーチたちが固唾を飲んでいるのがわかる。
しかし、オオカミの怒りとは裏腹にアケチは大きくため息を吐いた。
「世間を騙せても俺は騙せないぞ。
オオカミ、お前は確かにおばあさん殺しでは冤罪だったかも知れない。
だが、本当に罪を犯していないのか?」
ロブが苦い顔をした。こいつはあの光景をオオカミの記憶の中で
より鮮明に見たのだろう。
黙ってオオカミに向かって首を横に振った。
すべてを察したオオカミは少年にすがりつかんばかりに言う。
「…………赤ずきん、ぼ、僕がさっき言った言葉は本当だ。
君が何回僕を裏切ろうと構わない。僕だけは君を守ってみせる。だから!」
「ウザい。」
「…え?」
「ウザいって言ったんだよ。」
少年赤ずきんはオオカミを一瞥した。
「僕は一人で生きていける!もう、誰かに干渉されるなんてうんざりなんだよ!」
「な、何を言って…だって君には僕が必要だろう?」
触れようとした手を少年は冷酷にビシリとはねのける。
「僕はお前みたいに、ずっとその場に立ち止まっていたりしない。
自分のために自分の足で歩くんだ。」
この場にいる誰もが、もうオオカミに同情してはいなかった。
「ぼ、僕にはわかる。それは君の本心じゃない。そうだろ?!」
最後に振り絞った言葉さえ、彼は軽く笑い飛ばした。
その目はもう相手を見ることもない。
「フッ、お前みたいなやつ大嫌いだよ。 さようなら。」
一度も振り返らず、スタスタと法廷を後にする。
その足取りに少年らしさを残して。
法廷は清らかな灯火がひとつ減ったかのごとく、
ほんの少しだけ暗くなった気がしたが、それを口にするものはいなかった。
そんな空気をやぶったのはやはりこの男だった。
「で、裁判長さん。あんたのジャッジの基準は正義じゃなきゃ何なんだ?」
ドローがお気楽そうな口調で聞いてくる。
俺が裁判官になったときからずっと貫いて来たこと。
唯一の判断基準。
それは・・・・・・
「そいつの目が、光の方を見てるかどうかだ。」
「なるほど、名裁きだ。」
トーチたちも異論はないというのが伝わって来る。
ジュードが内ポケットから金色の古びた鍵を出し、高らかに告げた。
「メロディ!お客様をご案内しろ。」
「はぁ~い♪かしこまり♪」
鍵を受け取ったメロディはドローを連れて法廷を後にする。
扉は重く閉ざされた。
「待ってくれ!赤ずきん! 赤ずきん!」
オオカミの声はもう法廷の外には聞こえない。
二人の運命は深く分断されたのだ。




