【第1審】~15~
「どうして・・・赤ずきんがウサギを・・・?」
強い風が吹いて、アケチはさらに上空へと舞う。
赤ずきんもウサギも森もすべてが霞んでいく。
時間も空間も越えて自分の目の前にめまぐるしく展開されているようだ。
猟師の言葉が聞こえる。
「この森に急にウサギが増えたなぁ。明日も来るか。」
風にのって猟師の姿は消えた。
「まったく、またパンとぶどう酒かい?あたしもずいぶん安く見られたもんだよ!」
このしわがれた声はおそらくおばあさんのものだろう。
「なんだいその目は。いいからさっさと掃除!それから水汲み!」
今度はオオカミの姿が見える。
こちらはロブが依り代となっていた。
オオカミはウサギを素手で捕まえた。
そしてその後・・・
おぞましい姿に思わず目を背けたくなるが、それこそがオオカミ本来の姿なのだ。
「こんにちは。オオカミさん。」
赤ずきんはそんな彼に無邪気に声をかけた。
オオカミは驚いた顔で少女の顔を見つめている。
(その時、僕は偶然赤ずきんと出会ったのです。)
ロブの声だと瞬間的にわかった。オオカミの心象がロブの声で頭の中に響いてくる。
「だ、誰?」
「私は赤ずきん。」
こんなキレイな子がなぜ僕に話しかけてくるのかわからなかった。
その上、赤ずきんの姿がとても不自然に感じたんだ。
僕は思ったままのことを口にした。
「ど、どうして頭巾はそんなに真新しいのに、君が着ている服はボロボロなの?
それに… その恰好はおかしいよ。」
「わかってる!そんなこと!」
赤ずきんはあからさまに不機嫌になった。
いや、怒りを露わにしたという方が正しいかも知れない。
またやってしまった……。僕はいつもこうなんだ。
僕が言うことは、相手の一番言われたくないことらしい。
「あ、あの・・・気を悪くしたらなら謝るよ。
に、似合ってないわけじゃない。ただ…その…ああダメだ。ごめん。
ぼ、僕は随分長いこと両親とすら口を聞いたことがなかったものだから。」
赤ずきんは子どもっぽく立て続けに質問を投げかけてきた。
「なんで?オオカミさんはお父さんとお母さんと仲が悪いの?」
「い、いろいろあって。それにもう・・・両親は死んだんだ。」
「あなたが殺したの?」
「ま、まさか!」
「ふ~ん、じゃああなたはひとりぼっちなの?」
「そ、そうだけど。」
「へぇ、素敵ね。」
赤ずきんは不意にニッコリと笑った。
オオカミはその笑顔に思わず見とれているようだった。
笑顔を向けられるのなんて、どれぐらいぶりだろう。
やっぱり僕は、生きていてよかったんだ。
そう思った。
「ねぇ、オオカミさん。
一緒にお花畑に行きましょうよ。めずらしい花が咲いているの。」
だが、オオカミはすぐさま首を振り誘いを断った。
「ぼ、僕はウサギを食べたばかりで、手も口も汚れているから。」
血まみれのオオカミを見ても、赤ずきんは一向に怯む気配を見せない。
「き、きみは僕が怖くないの?」
「怖いものなんか何もないわ。」
赤ずきんはまた微笑みかける。
もしかして、赤ずきんは僕のことを……?
それならば、なおさらこの無邪気な笑顔が失われてはいけないとオオカミは思った。
ケモノの中には人間を襲うものもいるのだから。
「は、早くお家へお帰り。」
「でも、私この先にあるお婆さんの家に行くところなの。」
「そ、そうなんだ。じゃあ、寄り道しないで真っ直ぐお行き。
この辺はその……危ないから。」
「はーい。ありがとう。」
赤ずきんは踵を返してタタタっと駆け出す。
そして、途中で振り返った。
「オオカミさ~ん!またね~!」
心の中に熱い小さな炎が灯ったのが自分でもわかる。
遠ざかる背中を見送って、甘い気持ちを噛みしめる。
今までの長い長い不遇の時間は、この瞬間のためのものだったのだ。
あの子のために僕はなんだってしよう。
あの美しい子はきっと僕を求めている。
だから僕たちは偶然ここで出逢ったんだ。




