表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おとぎ裁判  作者: 神楽澤小虎
PR
14/32

【第1審】~13~

みんながぞろぞろと法廷を出て行き、俺とジュードだけが部屋に残った。


しばしの静寂。


部屋の温度までもがズンと急激に下がるような感覚。

来る。 と俺は思った。


「アケチ…」


次の瞬間、いきなりジュードにみぞおちを蹴り上げられた。

俺は一瞬息ができなくなり床に転がる。


「こんな裁判で、伽たちが喜ぶと思うか?」

ジュードは豹変し、アケチの胸倉を掴む。

「へっ!だから、俺は最初から裁判なんかやりたくな…」


シャキーンと物騒な音がして、アケチの首元に太い針のような剣が突き付けられた。

背中の針はすべて逆立ち、抗うことなど許されない。

ジュードは口元だけで不敵に笑う。



「裁きは、華やかでなくては!」



そう言うとジュードはアケチの身体を乱暴に床に突き飛ばした。

「まだまだお前には、調教が必要だな。」

表の顔とは打って変わって、(さげす)んだ目でアケチを見下ろす。

そして上着の内ポケットから、小さな箱を取り出した。

古びたアールヌーボーの美しい絵柄が描かれた箱の側面だけが

ひどく擦り切れている。


「アケチ、これを使え。」

「それは…!」


アケチは直感的に最悪の事態になりそうなことを感じ取る。


「マッチ売りの少女の()()()()()()だ。」

「まさか! どうしてそれをお前が…!」

「上からの意向が働いたんだよ。」

“上”というのは果たしてどこのことなのか。


おとぎの国のどこかにいるという、マッチ売りの少女の姿を見た者は誰もいない。

マッチ売りの少女とは、誰もが悦びに満ちた聖なる夜に

寒さに凍え、飢えに苦しみ、死と隣り合わせの時を送っていた。

まさに幸せとは無縁の少女だ。


しかし、そのマッチには恐るべき力が宿っていたのだ。

マッチを擦った灯火(ともしび)に映し出されるのは、誰もが求める理想の幻覚(ゲンカク)

そして、マッチの灯火が消えて見えるものは誰もが恐れる残酷な現実(ゲンジツ)


ゆえに“禁断のマッチ”とよばれて恐れられている。

それを手にしたらもう後戻りはできない。

ジュードがその危険性を知らないわけがなかった。


「さぁ、マッチを擦れ!」


ジュードがアケチの上腕部を乱暴につかみ、責め立てる。

ギリギリと締め上げられる腕に激痛が走る。

腕をへし折ってでも従わせようというジュードの本気の表れだ。

だけど!


「い、嫌だ! …嫌だ!」


アケチは怯え、恐怖でガクガクと震え出した。

頭の中にを刺激する鮮明な光景の断片。

逃げ場のない炎の色と肉を焼くほどの耐え難い熱さ。


「お前はこの館に来る前の記憶がない。ただひとつわかっているのは、

 お前が炎を極端に恐れているということだ。

 トーチたちが作り出す炎は、鬼火のような存在だ。

 しかし、このマッチが作り出すのは本物の炎。

 禁断のマッチは、極限状態に追い込まれた者だけが真実を見極めることができる。

 これを扱えるのはお前しかいないんだよ!」


無意識のうちに嫌な汗が背中を伝っていく。


「お、俺は絶対にそんなもの使わないからな!!」

ガツンと剣の柄で殴られ、俺は床に膝をついた。

ジュードの目が蔑むようにスッと細くなり、低い声が続く。


「伽たちの退屈を殺すのは、お前たちKillerの役目だろ。

 ロブもブルーもそれぞれの伽のためにこの裁判を演じてる。

 お前の()()()は一体誰だ、アケチ!」


ゾワリとしたジュードの怒りオーラを感じる。

そう、これがこいつの正体なのだ。

逆らうことなどできない。

ジュードの前に下僕のようにひざまずき、俺は…


「…………仰せの…ままに。」


「それでいい。主君である俺に、お前は逆らえない。」


なんという皮肉な運命(さだめ)だろう。

罪を犯した俺が、罪を見極めることになろうとは。

俺は震える手でマッチを受取った。

それを見るなり、ジュードが声を上げた。


「真実を乗り移らせる登場人物が必要だ。連れて来い!」


法廷である広間のドアが開き、拘束されたロブとブルーが

無理やり連行されてくる。


「やめてください!」

「一体どういうことなんだ!」

ジュードは二人を一瞥(いちべつ)して言った。


「あなた方には()(しろ)になっていただきます。」


「まさか、使うのか?禁断のマッチを!」

「ええ、ですがご心配なく。少々苦痛を伴いますが

 命を落とすことはありません。」


二人はそれがKillerの役割だということを瞬時に理解したようで

それ以上抵抗するそぶりは見せなかった。


「さぁ、禁断のマッチを灯せ!」


ジュードの脅迫にも似た言葉に追い込まれるように、

俺はマッチの箱を開けて、その小さな棒を一本取り出す。


「はぁ… はぁ… はぁ…  」


燃え盛る炎の光景がフラッシュバックのように浮かび、息が苦しくなる。

ジュードはアケチの手を取り耳元で挑発する。


「アケチ、震えているのか?」


「…う、うるせぇ……。やってやる。」


「そうでなくては。 裁判を続行しろ!」


ごくりと唾をのみ、覚悟を決める。

「はぁ… はぁ… はぁ… うぉおおおおお!

 宿れ真実よ!!真相を炙り出せ!!」


禁断のマッチを擦る。


途端に体中のケモノの毛が逆立った。


次の瞬間、醜い毛は剥がれ落ち、俺は束の間 人間の姿に戻る。


マッチの炎がロブとブルーを包み込む。

「うわぁあああああ!!」

「熱い!!焼ける!!あああぁああ!!」


俺の頭の中に雷に打たれたような衝撃が走った。

強く激しい熱風が巻き起こる。


「骨の髄まで、炎上せよ!」



すべてが炎に包まれ、(いつわ)りを焼き尽くしていった…



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ