前日
文化祭までに残された期間、唯は一日も欠かすことなく自作のイラストに亮のアドバイスを求めた。
亮としては、できる限り私情を交えず率直な意見を述べたつもりだ。
部活でLINE上ほどの言葉を交わすことはないが、今の唯は楽しんでイラストを書いていることが表情から伝わってくる。きっと彼のアドバイスは良い方向に作用したのだろう。
彼女のイラストにも見て取れる程の変化が表れ、以前に輪をかけて魅力的なものになっていた。
「亮、そっち押さえといて」
「はいはい」
殆ど仕事が終わってしまった亮は、あまり顔を出せない大輝の残りの作業の手伝いをして時間を潰している。パソコンデスクの前では、目に隈を作った夏帆が鬼気迫る様相で打鍵音を響かせているのだった。
文化祭前日。
「っしゃあ!」
大輝の一声と共に、模造紙の作成が完了した。部紙の製本、ホームページは既に出来ており、これが本当の意味での作業終了の瞬間だった。
亮は部誌をパラパラとめくり、予想以上の出来に口を綻ばせる。
「もうこれライトノベルって呼んで申し分ないだろ」
とりあえず手にとってみようと思える程よい厚さに仕上げられた部誌は、中身だけで言えばライトノベルそのものと言っていい。
「三日間、睡眠時間3時間で書いてたのだからこの程度は当然よ。勿論唯ちゃんの協力あってのことだけどね」
「立派に出来たね〜」
唯が感慨深げに冊子を手にとって、我が子のように慈愛に満ちた目で眺めている。
スランプを乗り越えて完成した作品だけに、思い入れもひとしおなのだろう。
文化祭は、いよいよ明日である。




