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初日

亮にとって第一回目となる文研部の活動。その日亮と大輝は、結の案内でひっそりと静まり返った校舎の一角にやってきていた。

「いらっしゃい。さ、座って頂戴」

こちらの姿をみとめた三沢が、椅子から立ち上がって奥に入るよう示す。それに従って、亮達はぞろぞろと室内に足を踏み入れる。

「お邪魔します」

「お、意外としっかりしてんな」

給食を食べるときのような形で四つの机がくっ付けられており、亮と大輝は手前側に並んで腰を下ろした。

「ま、こんな感じでゆるゆるとやってる部活よ。文化的な活動なら、この教室で自由にやってもらって構わないわ。ただ、ゲームとかは遠慮してね」

「本読むのにはちょうど良さそうだな」

そう言った亮の正面では、早速唯がイラストに取り掛かっていた。そこに描かれている少女は、例のライトノベルに登場するヒロインだ。爛々と目を輝かせて筆を動かす彼女の姿は、きっと教室では目にすることができないだろう。そんな結の様子を目を細めて眺めていると、夏帆のギラリと怪しく光る視線に射抜かれた。

「不埒なことしたら、分かってんでしょうねぇ」

「…はい」

心なしか古傷がじくじくと痛んできた気がした。


それから、亮は持参していた小説を読んで穏やかな放課後の時間を満喫していた。大輝はと言えば、だいたいの説明が終わったところで「用事があるから」と言って帰って行った。亮がふと結の方を見やると、イラストが大分完成に近づいているようだった。

「上手いね、何も見ないでここまで描けるなんてすごいよ」

「そ、そうかな?」

照れくさそうな様子で、結は頬を染めている。

「俺も絵とか描けるようになりたいとは思ってるんだけどね。あぁ、こんな事言ってたら画集が買いたくなってきた」

「仁科くん、えっとね、その…」

「?」

もじもじと身じろぎしながら、何か言いたそうにチラチラと亮を伺い見る結。やがて意を決したのか、彼女は口を開いた。

「良かったら、今度一緒にアニメイツでお買い物しない?」

ーー母さん、俺にもついに春が来ました…!

録音機を持っていない事が悔やまれたが、亮は彼女の言葉を反芻してしっかりと脳裏に焼き付けた。

「ダメ、かな?」

「勿論いいですとも!」

「夏帆ちゃん、仁科くん大丈夫だってー!」

「え?」

恋のキューピッドは彼の妄想を叶えてくれるほど、甘くはないようだった。


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