もしも君がクラスメイトだったら
「ノノとせんぱいが同じクラスだったら、どういう感じなのかなぁ? ねえせんぱい、どこかの席に座ってみて?」
「えっ? 僕が他の席に座るの?」
「だってぇ、この席に座っちゃったらせんぱいの背中が見れないもん。せんぱいの背中を見ながら授業を受けてみたいの、ダメ?」
「いや、その……」
ダメ、とは僕には言えなかった。放課後なのだから授業なんて受けられないし、背中なんてノノはいつでも見られるし見てきただろう。それでも、僕はノノからのおねだりを拒絶できなかった。
「あの辺りがいいなぁ」とノノが教室中央を指さす。そこは座標が示す通りクラスの中心人物が集う辺りで、僕には縁の無い席だった。
今は放課後であり、教室にはノノとふたりきりだから、僕が誰の席に座ろうと知られることは無い。それでも異性の席に座ることは憚られた。理由は僕にもわからないけれど、それだけは避けたいという抵抗感だけがあった。
(須藤君なら、許してくれるかな……?)
優しく許してくれる姿を思い浮かべながら、僕は机にピッタリとくっついている椅子を引いた。意味も無いのに、なるべく音を立てないように気を遣って少しずつ……座れるだけのスペースができたら、できる限り体重がかからないように腰を下ろした……かったけれども、床に爪先しかつかなかった。
椅子も机も生徒個人の所有物というわけではないのに、どうして他人の席に座るのはこんなにも気まずくて、不安になってしまうのだろう。僕の体重を支える椅子の座面は今にも抜け落ちそうに感じられ、背もたれはすり抜けてしまいそうで寄りかかれなかった。
「の、ノノ君……も、もう――」
椅子に座ったのも束の間、早く立ち上がりたくて僕はノノの方へと振り向きながら許可を仰ごうとした。しかし言葉は最後まで喉を通りきることはなく、語尾は千切れて落ちてしまった。
ノノは僕の机で勉強をする振りをしていた。勝手に机の中から教科書を取り出して何かを書き込むような素振りをしていた。黒板に目を向けて、教科書に目を落としては何も握っていない指を動かす。それを何度か繰り返した後、ノノは見惚れている僕に黒板を指して見せた。
『ちゃんと授業を受けないと、ダメだよ?』
それは実際には口パクだったけれども、僕の耳には確かにノノの声が響いていた。
今のノノにとって、僕は授業に集中していないダメなクラスメイトだ。僕を咎めたその顔は険しく、唇はへの字だし眉も釣り上がっている。
しかし、そんなお芝居も長くは続かなかった。唇はすぐに緩み始め、眉は八の字に形を崩していく。ノノはいたずらっぽくはにかみながら、僕に小さく手を振った。
もしもノノがクラスメイトだったら、こんな日常もあったのかもしれない。授業中にしょっちゅう盗み見をして、休み時間の度にいっしょに話して、給食だっていっしょに食べて……でも――
「せんぱい♡」
――こんな風には、呼んではもらえないのだろう。




