決着
「私の記憶違いでなければ、ノノさんは仰っていましたね……ほむら先輩が可愛いお顔をしているかどうか、正々堂々と判定してくださると。それから私が勝った際には、可愛いお顔をしている先輩と私のツーショットを待ち受けにしてくださると……♡」
「いっ、言ってないよ! それはほんとに言ってないもん!」
「そうでしたか? でも、そこまで必死になって否定しなくとも良いではありませんか。要はノノさんが負けなければいいだけの話……ノノさんがあんなに信じていたほむら先輩が、そんな簡単に可愛いお顔を晒すはずもありませんから。ねえ、ほむら先輩……♡」
「うっ‥…うっ……ぉっ……っ……」
ノノと話している間も、シュシュの指は間断なく僕の下腹部を押し続けている。一定のペースで、執拗に、僕の知らないボクを刺激し続けていた。
最初は一瞬だけで曖昧で不鮮明だった感覚も、ここまで繰り返されれば無理矢理にでもわからされてしまう。
気持ちいいのだ、これは……それも、とてつもなく。多分、これは僕が知らない、知ってはいけない類の快感だ。例えるなら……多分、重労働で身体が凝り固まった大人がマッサージを受けた時のような。子供では経験できない、経験してはいけない快楽を、僕はシュシュから与えられている。
快感の元が詰まった袋が僕の体内にあって、シュシュの指先が沈む度にその中身が飛び出して全身に広がっていくような感じだ。押されただけで身体が熱くなってきて、視界がパチパチと白んで、思考もショートしたみたいに白飛びしてしまう。
「そうだ、ノノさんに写真を撮ってもらえばよろしいではありませんか。今の私と先輩を撮っていただければ、私でも表情が確認できます。そしてもしも、万が一にでも、先輩が可愛いお顔をしている写真が撮れてしまったのなら……それをそのまま待ち受けにしていただきましょう♡ ノノさん、それでよろしいですか?」
「っ……で、でも……ノノ、写真とかよくわからないし……。撮るタイミングとか、ちゃんとできないかもだし……」
「ご安心ください。ノノさんが落ち着いて撮影できるように、長く押していますから。こうやって、ほむら先輩の柔らかい下腹部を……ぎゅうぅ~っ♡」
「あっ、あっ……あっ、おっ……ほっ、ぉっ……」
長く深く押されれば、それだけ濃く強い快感が全身に伝播していく。意識も、思考も、全部シュシュの指先に奪われてしまって、指先のわずかな力の変化にすら敏感に反応してしまう。
「せ、せんぱい……? カッコいいお顔して? い、いつものお顔をすればいいんだよ? かわいいお顔はノノだけの特別だったよね? そうだよね? ねえ、せんぱい、ダメだよ! かわいいお顔しちゃだめ! がまんしてくれないと、ノノいやだよ? がまんっ、がまんして……?」
「大丈夫ですよ、ほむら先輩。ノノさんを想う気持ちは、私もノノさんもわかっています。これはただの生理現象ですから、仕方のないことなんです。私の指で可愛くとろけてしまったお顔を、ノノさんにもたくさんお見せしてあげましょう♡」
「やっ、やだやだやだ! かわいいせんぱいはノノのだけなの! シュシュちゃんにもあげないもん!! せんぱい、がんばって! がまんして!! かわいいお顔しないで!」
ノノの言葉は聞こえているのに、何を言っているのかがわからない。気持ち良すぎて、シュシュの指のことしか考えられない。
気持ちよくて、頭がぽわぽわとして、深くじんわりとした快感が高まってきて……それでも、頑張らないといけない気がした。この気持ちよさに、抗わないといけないように思えた。そうじゃないと、ノノが泣いちゃいそうだから……僕は――
「あっ、失礼いたしました。これは、私の不手際ですね」
突然の謝罪に僕とノノが驚く中で、シュシュは申し訳無さそうな声色で話し続けた。
「先ほど、ノノさんが呼吸管理をする際にタイマーを止めていたことをすっかり失念しておりました。これではノノさんの勝利条件がいつまで経っても満たされません……しかも、現時点で何分経過しているのかもわかりませんから……私がタイマーを止めた以上、責任は私にあります。残念ですが、勝負は私の反則負けでお終いですね」
そう言って、シュシュが僕の下腹部から手を離したその時――
「えっ!?」
――名残惜しそうな声が部屋の中に響いた……響かせて、しまった。
「せん……ぱい……?」
ノノの顔が凍り付いている。その反応だけで、僕がどういう表情をしてしまっているのかがわかる。
『せんぱいはね、おねだりする時がいっちばんかわいいんだよ?』
僕の頭の中では、勝負を始める前のノノの言葉が反響していた。




