僕のことで張り合わないで――本当に――お願いだから
「恋人であるノノさんに意見するのは差し出がましいようですが……ほむら先輩は基本的には可愛いのでは? 少なくとも、カッコイイ要素はあまり感じられないというか……ああ、もちろん良い意味で」
「そんなことないもん。せんぱいはいつだってすっごくカッコいいよ! 逆に、かわいいせんぱいは人前ではあんまり見せないんだから……せんぱいは、ノノの前でだけかわいくなっちゃうんだぁ……♡」
「ノノさんの前でだけ……ねえ……♡」
シュシュのねっとりとした流し目が僕の顔を撫でる。まるで唾液をたっぷりとまとった舌で味見をされているような、じっとりとした不気味さを感じて体が身震いしてしまう。何かまた碌でもないことを考えているのだろう。
「しかし先ほどまでの、私とふたりきりだった時のほむら先輩は、幾度も可愛い表情を見せてくれていましたよ? 密着すれば狼狽し、耳ふうをすれば震えあがって。私が真面目に耳かきをしている時ですら、勝手によからぬことでも考えていたのか身悶えして……♡ 特に私に謝っている時の、恍惚として、トロトロに蕩けた先輩のお顔は、ノノさんにもお見せしたいほどに可愛かったです……♡」
「ふ、ふーん……? でもでも、それはせんぱいのかわいさのほんの一部だってノノは思うな? せんぱいはね、おねだりする時がいっちばんかわいいんだよ? 普段はノノにかっこいいところを見せようとがまんしてるのに、次第にお顔がふにゃふにゃになってきちゃうの……♡ シュシュちゃんは、せんぱいにはおねだりしてもらえなかったんだもんね? あーあ、あの時の……ノノにお耳を食べてって言いながらお耳をくれたせんぱいのお顔、シュシュちゃんにも見せてあげたかったなぁ?」
張り合って欲しくない部分で張り合い始めてしまったノノとシュシュ。これ以上続けられても、僕の株が落ちるだけなので、本当に勘弁して欲しい。
そもそも、どうしてシュシュはノノに張り合っているのだろうか。シュシュは本気で僕をノノから奪おうとしているわけでもないし、ノノに花を持たせても良さそうなものだ。
困惑の視線をシュシュに向けていると、一瞬だけシュシュと目が合った。その細めた瞳は楽しげで、いたずらっぽく、どうしようもなく獲物を見つけたネコ科のようだった。
「そこまで仰るなら、今ここで試してみませんか? ほむら先輩がノノさんだけでなく、私の前でも可愛いお顔を見せてくれるのかどうか……直接ノノさんに確認いただければ、誤解も無く話も早いですから」
「ノノはいいよ? だって、ノノはせんぱいのこと信じてるもん……せんぱいがかわいいお顔を見せてくれるのは、ノノだけだもん……♡ こればっかりは、シュシュちゃんにだって譲ってあげないもん」
「決まりですね……♡ それではノノさん、尋常に勝負と参りましょう♡」
「うん! 絶対に負けないからね!」
これから雌雄を決するとは思えない距離の近さで意気込むノノとシュシュ。その瞳では闘志が燃えているものの、互いに抱き合う腕の力は緩むどころか強くなっているようだ。
こうして、勉強会は唐突に終わりを告げ、開戦の火蓋は切られた……僕が口を挟む余地もなく、切られてしまった。
どうしてだろう……僕もふたりの前に居るのに、どうして一言も僕に話を聞いてくれないのだろう。
どうして僕の意志が介在しないままに、僕がふたりの勝負に巻き込まれることになっているのだろう。
どうして……どうして……。




