ごめんなさいとごめんなさいとごめんなさい……
「――以上が、私がほむらさんに対して行ったこと、及びほむらさんの反応です。私見を述べますと、ほむら先輩から誰かに手を出すことはないですが、誰かから手を出されたら為す術も無く浮気に堕ちていくかと……♡」
事の顛末を事務的に報告した後、シュシュは熱っぽい吐息で話を締めた。まるで事後のような雰囲気だが、一線は越えていないことは強く言っておきたい。
結局、ノノには全てが知られてしまった。密着ハグから耳の保湿まで、添い寝されての頬ずりなんてビデオ通話でリアルタイム共有されている。
ただ一つだけ、シュシュは耳かき中の僕の生理現象にだけは言及しなかった。ノノは性的な話は苦手だから、気を遣ったのかもしれない。
それから……僕の部屋はこんなに狭かっただろうか。3人しかいないはずなのに、現在進行形で膨らんでいる巨大なバルーンでもあるかのようだ。このままでは部屋が崩壊するのも時間の問題だろう。
「……………………」
バルーン……もといノノは無言で不機嫌さを表していた。僕にもシュシュにも視線は向けず、天井を仰ぎながら頬を膨らませ続けている。
思わず指でつつきたくなるが、きっと怒るに違いない。しかし恐れ知らずなのか、それとも怒られない自信があるのか。シュシュはついと人差し指を立てると、その先端をノノの頬に向けた。
短く爪を切った指先で一度、二度、つんつんとつついた後、ずぶずぶとノノの頬に指を沈めていくシュシュ。するとノノは派手な音を立てながらしぼみ始めた。
僕が笑いを堪えられたのは奇跡と言っていいだろう。
「ノノさん、黙っていてはほむら先輩が困ってしまいますよ? ここは手早く沙汰を執り行ってしまいましょう♡」
「…………っ」
むくれて膨れていたノノはその表情をくしゃっとしわだらけにすると、勢いよくシュシュの胸に飛びついた。
「うえぇ~ん、シュシュちゃ~ん……せんぱいに浮気された~っ、うえぇ~……」
「よしよし、可哀想なノノさん……それに引きかえ、ほむら先輩は最低のクズですね♡」
ノノを胸に抱きながらふわふわの後頭部を撫で下ろすシュシュと、素直にされるがままでえんえんと泣くノノ。僕を浮気者だと罵るのは当然だとは思うけれど、その浮気相手に泣きつくのはノノ的にはいいのだろうか。
「ううぅっ……でも、シュシュちゃんもちょっとやり過ぎだと思う」
「確かに、少し張り切りすぎたのかもしれません。その点については、ノノさんにもほむら先輩にも申し訳ありませんでした……ごめんなさい。しかし、元はといえばノノさんからの依頼なのですよ? せんぱいのことを、めっちゃめちゃに誘惑してみて欲しい……でしたよね?」
「だってぇ、ここまでだと思ってなかったー!」
「私はいつ何時も、やる時は真面目に全力ですよ♡」
シュシュへの不満を叫びながらも、シュシュの胸に縋りつくノノ。ふたりは本当に仲が良いようで、正直ちょっとだけシュシュが羨ましい。
そんな僕からの嫉妬に気づいたのだろうか。ノノはシュシュの胸から離れて振り返ると、僕に向き直ってしょんぼりと視線を落とした。
「あの……ごめんなさい、せんぱい。ノノがね、シュシュちゃんにお願いしたの。ノノが会えない間に、せんぱいの気持ちが離れちゃわないか不安で……せんぱいなら、シュシュちゃんみたいな人に誘惑されてもきっと大丈夫って思いたくて……。せんぱい、困っちゃったよね……? ごめんなさい……」
泣きそうな表情でぽつぽつと話した後、ノノはおずおずと頭を下げた。おそらく、僕たちふたりにとって最悪の展開も予想しているのだろう。こんな試すようなことをされたら、腹を立てて別れを切り出す人が居てもおかしくはないのかもしれない。
でも、そんな心配は必要ないのだ。内沢ほむらは、もうどうしようもないほどに、雨野のんに心を奪われているのだから。シュシュをけしかけられて想いを試されたくらいでは、嫌いになんてなれない……正直、悪い気分でもなかったし。
「僕の方こそごめんね、ノノ君……その……えっと……僕がえっちなことに弱いせいで、ノノ君を不安にさせて……っ……誘惑に弱くて、ごめんなさい……」
心の底から出た素直な謝罪が情けな過ぎて……死にたくなってきた……。




