今にも破裂しそうなくらいに膨らんだ――
「――僕は、ノノ君に嘘を吐きたくない」
それが僕の中で最も純粋な本音だった。どんな欲望よりも強い、僕のわがままだった。
事実を伝えたらノノが傷つくとしても。今の僕のままではノノを悲しませるとしても。それでも、ノノへの気持ちに胸を張っていたかった。
「……くすっ♡ それが最終回答、ということでよろしいですか?」
「うん……」
「これも、いらないんですね?」
シュシュは控えめに口を開けると、舌をチロチロと覗かせた。シュシュの薄桃色の唇の上を、艶めかしい赤色が粘液を纏いながら這いまわる。
「っ……っ……」
「欲しくない、とは言えないんですね♡ でも、我慢はできましたね……えらいですよ♡」
腰の上が軽くなったかと思えば、添い寝をするようにシュシュが僕の右側に倒れ込んできた。右手は僕の左耳に添えたまま、右耳に向けて囁いてくる。
「えらい……♡ ほむら先輩、えらいです……♡ 私みたいな年下の男の子にもいいようにされちゃうくらい精神が貧弱なのに、ノノさんへの真摯な気持ちはちゃんと貫けましたね……♡ 私の子供じみた誘惑でも心が揺れちゃうくらいに意志が弱いのに、口に出しておねだりするのだけは我慢できましたね……♡ えらいですよ……いいこ♡ いいこ♡ ご褒美に、お耳をたくさんほじほじして……カリカリして差し上げますね……♡」
「えっ、な、なんでっ、ひぃっ……あっ、ぁっ、っ……」
「ほむら先輩のお耳の軟骨の硬いところ……かりかり♡ 穴の入口を爪でほじ……ほじ……♡」
「な、なんでぇっ!? 今のって、終わる流れじゃないの!? なんでまだ誘惑してくるのぉ!?」
「誘惑じゃありませんよ、先輩。これは私がしたいだけです……♡ 偉い先輩をたくさん褒めて……甘やかしてあげたくて……♡ 右耳は指でたくさん撫でてあげますね……左耳は、たくさん褒めて差し上げます……えらいですよ♡ いいこ、いいこ……♡」
シュシュの吐息をたっぷりと含んだ声に、粘着質な水音を含んだリップノイズが混ざる。シュシュの唇や舌の動きを想起させる音に、思考がかき乱されてしまう。
いつの間にかお腹の上にはシュシュの右足まで乗せられていた。太腿から膝までちゃんと体重を乗せており、足の爪先で僕の太腿をすりすりと擦っている。とても先輩への態度とは思えないけれど、嫌だからどいてとはっきり言えない僕が悪いのだろう……嘘が吐けないばっかりに。
「だめっ、だめだってばっ……僕は、僕はノノ君一筋だからっ……だからっ、だから、だめなのにぃっ……」
「ふふっ、だからこそですよ先輩。ほむら先輩はノノさんに首ったけ……しかし誘惑にはとことん弱くて、こうやって耳元で囁かれてるだけで身体中が疼いて止まらない……♡ それを直接見ていただきましょう?」
「えっ? ……えっ!?」
シュシュは右手に持ったスマホを掲げると、僕にその画面を見せつけた。どうやらインカメラを起動しているらしく、画面には密着した僕とシュシュの顔が――
「えっ、あっ……ノノ……君……?」
――シュシュの意図に気付いた時には、もう遅かった。
起動しているのはカメラではなく、ビデオ通話だったのだ。画面の左上に、長方形に切り取られたノノの顔が小さく映っている。
小さな画面の中でもわかるくらいに、パンパンに膨らんだノノの顔。それはいつかの廊下でも見た、不満を溜め込んだ膨れ面だった。
「ふふっ……ノノさんにたくさん叱られてくださいね、ほむら先輩♡」
画面の中で僕に頬ずりしているシュシュの顔は、これ以上ないほどに嬉しそうだった。




