ぼっちな先輩、喜ぶ後輩
「左耳にも、クリームをすり……すり……」
落ち込んでいる状況でも、シュシュは容赦なく耳にクリームを塗りたくってくる。気を紛らわすために話してくれていたはずなのに、これでは泣きっ面に蜂だ。
耳をベトベトに保湿されたって、心のひび割れは埋まらないのだから。
「あれ……でもちょっと待って? 話してくれた時系列だと、シュシュ君は僕が挙動不審になるよりも前から、僕に気づいていたってこと?」
「そうですよ。ほむら先輩はノノさんに夢中だったようですけれど、私は気づいていたんです。目が合うかなと思っていたんですけれど、先輩が不思議な踊りを始めてしまったので……結局、目が合ったのはその後でしたね」
それなら、僕がもっと周りを見ていれば。ノノを見つけた時点で浮かれずに、隣にいるシュシュに気づいていれば。醜態を晒さずとも、ノノに手を振って貰えていたのではないか。
自身の浅はかさを後悔しても後の祭りだけれども、その前に僕には言わなければならないことがあった。
「あの、今更かもしれないけど……あの時、ありがとう。ノノ君に、僕のことを教えてくれて」
「いいえ、お礼を言われることなど私はしておりません。あんな廊下ですれ違った一瞬だけのことですから、気になさる必要はありませんよ」
「ううん。シュシュ君にとっては大したことないかもしれないけれど……僕は嬉しかったから。友達、居ないからさ……例え一瞬だけでも、それだけで喜べちゃうっていうか……あはは」
「……」
つい自虐してしまったことを誤魔化したくて、自嘲気味に笑ってみたけれど……空気が重くなったことは明らかだった。
どうしてこう、僕はコミュ障なネガティブなのだろうか。先輩がいきなり自虐したら、後輩であるシュシュは困ってしまうって、少し考えたらわかるはずなのに。
僕の左耳をなぞる綿棒の動きも、空気と同じように重く、淀むように緩慢になって……力強く、ごしごしと――
「しゅ、シュシュ君? 綿棒、強くない?」
「ああ、すみません……つい、嬉しくて力が入ってしまいました……♡」
「え? 嬉しいって……何が?」
「もちろん、先輩に友達が居ないことがです♡」
僕の聞き間違いだろうか。むしろ、聞き間違いであって欲しいのだけれども。
「えっと……な、なんで? 僕のこと、馬鹿にできるからとか?」
「まさか、そのようなことで喜ぶような私だとお思いですか?」
ちょっと思ってる、なんて返したら怒るだろうか。
僕としては、シュシュから小馬鹿にされるのは満更でも無いのだけれども。でも、また浮気扱いされたらたまったものではないので、からかって欲しいなんて口が裂けても言えはしない。
「本当にわからないのですか? ひどい先輩ですね……私はこんなにも先輩のことを想っているというのに……」
「それって……っ。で、でもっ……ぼ、僕には、ノノ君が居るから……!」
言ってのけた。誘惑を繰り返してくるシュシュに対して、ついに僕はガツンと言ってのけた。
しかし、シュシュに効いた様子は無かった。
「その言い方だと、ノノさんとお付き合いしていなかったら、私に靡いていたようにも受け取れてしまいますね?」
「えっ……あっ……」
しまった。嘘を言えない性格がここでも災いしてしまった。
「くすっ……♡ 先ほどの発言、ほむら先輩は私に対して魅力を感じている、と受け止めれば良いのでしょうか……♡ 困りましたね、恋人が居らっしゃる方から告白をされてしまうなんて……それも、二番目の恋人として……♡ ふふ……先輩は大胆なのですね♡」
そこまでは……言ってないのではないだろうか……。




