仕上げも抜かりなく、ベトベトに
「かり……かり…………ん、綺麗になりましたね。仕上げに梵天があれば良かったですが……少し吹きますよ……ふっ。ふっ……ふーっ」
ほんのり痛いくらいに左耳を引っ張られながら、耳の隅々まで強めに吐息をぶつけられる。まるで耳の中で嵐が巻き起こっているような音の中、やっぱり甘々な耳ふうって掃除としての意味は薄いんだな、ということを思い知らされる。
「右耳も改めて仕上げを……ふーっ、ふっ、ふっ……ふーっ……良さそうですね。それでは、最後に匂いをチェックしますね」
「えっ、また嗅ぐの?」
「耳かきの前後で比較しないと、意味がありませんから。ほむら先輩、大人しくしていてくださいね……すんすん。くん、くん……すんすん……」
耳の通りが良くなったせいだろうか。さっきよりも鮮明にシュシュが僕の耳を嗅ぐ音が聴こえる。鼻先と耳が擦れ合う音も、鼻がヒクヒクと動く様子までわかるような気がした。
「くんくん……左も、嗅がせてくださいね? すん、すんすん……すん……くんくん…………うん、とっても良くなりましたよ、ほむら先輩」
臭いとは言われなかったけれど、良い匂いとも言ってはもらえなかった。でも微笑むシュシュの表情に嘘は無くて、それが無性に嬉しく、同時に照れ臭かった。
「あ、ありがとう……シュシュ君に耳かきされるの、気持ち良かった」
「それは何よりです。では、仕上げに耳の保湿をいたしますね」
「まだなんかあるんだ……」
「後は本当に少しだけです。危険もありませんから、お付き合いくださいね?」
シュシュは僕の上に跨ったまま身体を伸ばすと、学校用のボストンバッグに手を突っ込んだ。凛としたシュシュに似つかわしくない、体を伸ばした猫のような姿勢になっている。立ち上がったら僕が逃げると思っているのだろうか。
シュシュはガサゴソと鞄の中を手探ると、青いポーチを取り出した。小物が詰め込んであるのか、中の物が出っ張っていて凸凹とした形状になっている。ポーチを学校に持って行っているのは女の子っぽいけれど、中がパンパンなのは男の子っぽいと感じる。
やがてシュシュは白い綿棒が詰まったプラスチックケースを取り出すと、小気味良いパカッという音を立てた。
綿棒の一本を手に取ると、ポーチから……保湿用品だろうか。平たい円形の容れ物の蓋を開けて、綿棒で中身の黄色がかった白いクリームを掬い取った。
「もしかして、ベトベトする?」
「ベトベトはお嫌いですか?」
「あんまり……」
「ふふ、ノノさんといっしょですね。これは比較的サラサラですし、塗るのは耳ですから、気にならないと思います。さあ、右耳をこちらにください?」
「……この前、ノノ君にあげちゃった」
「ノノさんにはお貸ししただけでしょう? それとも、ノノさんが返し忘れたのでしょうか? 悪気は無いのかもしれませんが、困りましたね?」
「本当に、全部知ってるんだね。ノノ君、ちょっと話し過ぎかも……」
「はい、そうなんです。ノノさんは私とふたりになると、ほむら先輩とイチャイチャしたことばかりで……そういえば、こんなことも仰っていましたね。ほむら先輩は、お耳を頬張られながらお話されるのもお好きなんでしたっけ?」
「っ!? そっ、それは……」
「ノノさんは不思議そうにしておられましたよ? どうしてせんぱいはあんなので喜んでたんだろう? そんなに不思議な感じに聴こえてたのかな? やってみて欲しいともねだられましたが、お断りしておきました。だって……恋人でもない私が、ノノさんの耳を舐めるわけにはまいりませんからね」
バレていた。ノノには気付かれなかったけれど、シュシュには知られていた。
「いやっ……その、僕は……そんなつもりじゃ……」
「ところで、先輩の右耳は本当にノノさんが借りっぱなしなのでしょうか? 念のため、もう一度だけご確認いただけますか?」
「うっ……さ、探したら、ありました……どうぞ……」
「はい、ありがとうございます♡」




