シュシュ布団
シュシュの迫力に加えて、実際に耳の匂いを嗅がれた上での判断では異を唱えられるはずもない。僕は諦めて左耳を床から離して、シュシュに差し出す為に――
「――……」
「ほむら先輩? 私の顔に何か付いていますか?」
「あっ、ううん……えと……耳かき、よろしくお願いします……」
「? はい、誠心誠意努めさせていただきますね」
顔の向きを変えようと正面を向いた際に、僕は見惚れてしまった。その真剣な眼差しに、一文字に引き結んだ唇に、胸を打たれた。
正面から見つめ合ったシュシュの顔に、不安の色など微塵もなかった。シュシュの呟きは、自信の無さの表れなどではなかった。
シュシュはただ誠意を尽くしていただけだ。耳という繊細で重要な器官を預けられた者として、真摯に耳かきに取り組んでいたのだ。万が一など起こさないように、丁寧に、真剣に……僕は自分の妄想が恥ずかしくてたまらなかった。
「かり……かり……すー……はー……かり……かり……」
もはや不安なんて欠片もない。安心してシュシュに耳を任せられる……そのはずだった。
「かり……ほむら先輩? 恐縮ですが、身じろぎはお控えいただけますか?」
「うっ……ご、ごめん……」
「こちらこそ、ご不便をおかけしてすみません。ですが、先輩の安全のためにご理解くださいね? かり……かり……」
「っ……っ……」
心の中を占めていた不安が無くなって、ぽっかりと空いた隙間。入り込んできたのは羞恥心と……ほんのちょっぴりの高揚だ。
耳かきに真剣なシュシュは、上半身のポジションにもこだわっていた。度々僕の上でもぞもぞと動いては、安定する位置を探している。
密着して体重をかけたまま動かれると、必然的に体を擦り合うことになるのだ。
「……ほむら先輩? 呼吸が少し荒いようですが……痛いのを我慢されているのですか?」
「ち、ちがうよっ! ぜんぜん痛くなんてないからっ……ただ……」
「ただ?」
「その……な、何でもないよ?」
「そうですか? 何かあれば、遠慮なく仰ってくださいね? ……かり……かり……」
すりすりと、シャツ越しに胸が擦れ合う。膨らみなんてないけれど、あばら骨の硬さとは対照的な柔らかさも確かに在ることが伝わってきてしまう。
身体の柔らかい部分も、硬い部分も、シュシュは躊躇なく僕に押し付けて来て、擦りつけてくる。ぐいぐいと、すりすりと。
しかもシュシュにそれを意識している様子は無く、あくまで耳かきに真剣なだけで……だからこそ性質が悪かった。
シュシュは真面目に耳かきをしているのに、僕だけが勝手に興奮していて、それがなんだかいけないことをしているようで……背徳感が余計に僕の心の熱を上げていく。
でも、熱くなっては本当にダメなのだ。だって、近すぎる。今の僕とシュシュは近すぎて、大体のことは伝わってしまう。
シュシュの真剣さも、僕の動揺も、シュシュの冷静さも、僕の興奮も……全部が伝わり合って、知られてしまうから――
「っ……ふーっ……ふーっ……」
「先輩……本当に危ないですから……。もう少し……あと少しですから、がんばりましょうね……かり……かり……」
「すこしっ……あとちょっとっ……っ」
「そうです……大丈夫……大丈夫ですから……すー……はー……かり……かり……」
「もうちょっとっ……もうちょっとぉ……あっ、だめっ……ダメダメダメっ、待ってっ」
「痛かったですか? ……ん?」
シュシュにバレてしまったことは明白だった。その反応が物語っていたし、何よりそれがシュシュに触れていることを、僕自身が感じてしまっていたから。
「っ……ご、ごめん……ごめんなさい……」
「…………先輩? 今は我慢してくださいね? 本当に……本当に……危ないですからね?」
「はっ……はいぃ……」




